西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第95回 マイケル・オリーセ

 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。

 バイエルンのマイケル・オリーセが絶好調。チャンピオンズリーグ制覇へ向けたプレーぶり、そしてフランス代表で臨む北中米W杯でも活躍が注目されます。

【世界最高クラスの右ウイングにふたつの謎】

 チャンピオンズリーグ準々決勝第1戦、レアル・マドリードvsバイエルンはスター満載の一戦だった。キリアン・エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオール、ハリー・ケイン、ルイス・ディアスなど、どのポジションにも一流が並ぶなか、最も強い輝きを放っていたのがマイケル・オリーセだった。

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 対面のアルバロ・カレーラスをカットインでかわし、縦に抜き去り、圧倒的な個の能力を見せつけていた。右足を踏み込んで左足アウトで中へ入る、あるいはそのまま左足で引きずるように前方へボールを出して速さで引きはがす。オリーセが突破の際に使うテクニックはありふれたものだが、タイミング、スピード、プレーの幅によって止められることがない。

 ブンデスリーガ27試合で12得点18アシスト(第29節終了時)。昨季は34試合12得点15アシスト。得点が昨季を上回るのは時間の問題、アシストはすでに超えている。バイエルンの右ウイングは、他の追随を許さない圧倒的な結果を出している。サンティアゴ・ベルナベウの夜も46分にカットインからケインへボールを置くようなパスでアシスト。2-1の勝利に大きく貢献していた。

 ところが、フランス代表では右ウイングではなくトップ下として起用されている。ティエリ・アンリ監督下のパリ五輪代表、ディディエ・デシャン監督の代表でも4-2-3-1システムのトップ下が指定席だ。

 今やラミン・ヤマルと双璧、またはそれ以上の活躍を示している右ウイングではなく、なぜフランス代表ではトップ下なのか。

 オリーセにはもうひとつ謎がある。父親はナイジェリア人、母親はアルジェリア系フランス人。本人は英国生まれの英国育ち。つまりオリーセには4つの代表チームでプレーする選択肢があった。ナイジェリア、アルジェリア、フランス、イングランドだ。なぜ、生まれ育ったイングランドではなくフランスを選んだのか。

【フランス代表ではなぜトップ下なのか】

 3月27日、フランス代表はブラジル代表と親善試合で対戦。4-2-3-1システムの1トップはキャプテンのエムバペ。右は2025年バロンドール受賞者のウスマン・デンベレ、左にはリバプールのウーゴ・エキティケ。そしてオリーセはいつものトップ下に起用された。

 32分にデンベレからのパスで抜け出したエムバペが先制。ダヨ・ウパメカノが退場で10人になったフランスだったが、65分にカウンターからエキティケが決めて2点目。2-1で勝利した。エキティケのゴールはオリーセのアシスト。このアシストにトップ下で起用されている理由の一端は示されていると思う。

 カウンターから一気に中央をドリブルで上がるオリーセの右にはエムバペ、左にはエキティケがいた。それぞれブラジルDFがマークについていたが、オリーセはドリブルでひとりのDFを引きつけながら左足のアウトサイドでエキティケへラストパスを送っている。

 エキティケ、エムバペ、自らシュートという3つの選択肢があった。3人のなかで最も得点力があるのはエムバペだ。しかし、そういう問題ではないのだ。オリーセがエキティケへパスした理由は、おそらくエキティケ側のDFが動いたから。裏をとられたくなかった。

オリーセのシュートを警戒した。エムバペへパスが出ると予測して次に備えた。理由はわからないが、ともかくDFは内側へ動いた。その一歩をオリーセは見逃さなかった。

 動いているDFは、その動きの方向と合わない限り、たとえ近くをボールが通ってもカットできない。エムバペへパスしても1対1でDFを抜いて決めたかもしれないが、エキティケへ出せばGKとの1対1なのだ。そしてエキティケは難なくゴールした。

 アシストのパスは味方より敵を見なければならない。オリーセのアシストが多いのは、その眼があるからだが、ラヤン・シェルキも同様の眼を持っている。狭い局面の打開に関してはオリーセより能力は高いかもしれない。それでもトップ下の序列がオリーセ>シェルキなのは別の理由だろう。

 守備力の点でシェルキより信頼されている。

それ以上にオリーセのほうが推進力に優れている。創造性はシェルキかもしれないが、ブラジル戦の2点目のような場面では断然オリーセなのだ。デシャン監督はカウンターからの得点を重視していると考えられ、それならばオリーセのほうが適している。

 なぜカウンターなのか。エムバペがいるからだ。世界中に競走して勝てるDFがいない。フランスのFWはデンベレ、デジレ・ドゥエ、ブラッドリー・バルコラなど軒並み速い。相手に引かれて速さが使えないならシェルキの創造力の出番だが、速さ勝負ならオリーセがオーガナイザーとして適任である。

【なぜイングランドではなくフランスを選んだのか】

 第二の謎については「フランス代表とはずっと"つながり"があったから」と本人が答えている。U18からU23まで一貫してフランスのアンダー世代代表でプレーしてきた。

 オリーセがフランスを選んだというより、イングランドがオリーセを選ばなかったのではないかとも考えられる。

 オリーセは2001年12月生まれ。

同世代のイングランドには有望なアタッカーが溢れていた。ブカヨ・サカ、アンソニー・ゴードン、カーティス・ジョーンズ、ジェイコブ・ラムジーなどがいて、1歳上にはフィル・フォーデン、ライアン・セセニョン、エミール・スミス=ロウ。1歳下世代にはコール・パーマー、ハービー・エリオット、のちにドイツ代表になるジャマル・ムシアラもいた。

 右ウイング、攻撃的MFは才能のゴールドラッシュだった。一方、フランスはアントワーヌ・グリーズマンの後継者を探していた。そもそもイングランド協会は才能の囲い込みの点でフランス協会ほどの熱心さはなく、オリーセだけでなくムシアラも逃している。育成年代のオリーセは未完成で最優先ではなかったのだろう。フランスはより将来性を重視するという違いもあったと思う。アーセナル、チェルシーのアカデミーでプレーしたが最終的にはレディングに移っていて、ビッグクラブのアカデミー所属を重視するFAの対象から外れていた可能性もある。

 母親がフランス語話者ではあるが、ナイジェリア人の父親は英語圏。英国育ちのオリーセにとってはイングランド代表を選ぶのがむしろ自然だったはずなのだが、先にフランスに選ばれたことでその後の流れが決まったわけだ。

 今ではイングランドの同世代より頭ひとつ抜けた感のあるオリーセ。

イングランド代表にとっては大きな損失だったのではないか。

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