元ホンダ・浅木泰昭 連載
「F1解説・アサキの視点」第10回 後編
3月末に開催されたF1第3戦の日本GPから約1カ月のインターバルを経て、マイアミGP(決勝5月3日)が開催される。日本GP後、国際自動車連盟(FIA)はチーム、ドライバー、パワーユニット(PU)メーカーなどと話し合い、2026年シーズンから導入されたレギュレーションの一部が変更されることになった。
予選をより全開で走れるようにし、安全性を高めることを目指し、主にPUエネルギーのマネジメントの微調整が行なわれている。またマイアミGPでは、各チームが開幕3戦のデータを振り返り、マイアミGPでアップデートを持ち込むといわれている。マシンやPUが変わることで勢力図に変化はあるのか。そして、今後のPU開発競争の行方はどうなっていくのか。元ホンダ技術者でF1解説者の浅木泰昭氏に話を聞いた。
【次戦マイアミGPの最大の見どころは?】
マイアミGPではたくさんのチームがマシンのアップデートをしてくると言われていますが、PUに関しては強いメーカー、つまりメルセデスがどこで発電とデプロイメントしているのかを分析して、各メーカーが真似してくると思います。それによって差が埋まるのか、埋まらないのか。
なかでも注目はフェラーリです。彼らが作ったPUがレスポンス重視で、最大効率は低いというものであれば、いくらメルセデスの電気の使い方を真似してきたとしても差は埋まらない可能性はあります。そこがどうなるのかが最大の見どころです。
ワークスのメルセデスとカスタマーのマクラーレンとのギャップがどうなるのかも気になるところですが、メルセデスがカスタマーに対して情報共有をどこまで許すのか。そこに関しては、ワークスとカスタマーの悲しい性というのが出てくるかもしれません。
開発競争が再開すると、ワークスはカスタマーに意地悪をしようと思えばいっぱいできます。
ホンダに関しては、とりあえず日本GPでフェルナンド・アロンソ選手が18位で完走しました。どうにか振動問題は出発点に立ち、レースを最後まで走れないという状況からは一歩前進ですが、これからが本当の苦悩ですよね。
ホンダのPUは振動問題もありますが、もともと内燃機関のパワーが出ていないように見えます。馬力を上げるのは「テスト回数×成功確率」なんです。でも今シーズンのF1はPUメーカーに対して厳格なバジェットキャップ(予算制限)が設けられています。
PU開発費の上限は年間約1億3000万ドル(約200億円)となっていますので、新しいエンジンを一個一個作っていたら、予算制限に引っかかってしまう可能性があります。お金のかからないモノシリンダー(単気筒)でテスト回数を重ね、成功率を上げるためにはシミュレーションなどを活用するという、真っ当な開発をしていくしかない。
電気の使い方でも負けている可能性がありますが、そこはホンダのシステム屋は優秀なのでうまくやってくれるでしょう。前述したように、他のチームがどこでどう発電して使っているのかを、チャートで自分たちができていないところと比較して、真似すればいいのです。
【ホンダにはADUOなしで苦境を脱してほしい】
新レギュレーションでは「ADUO(追加開発アップグレードの機会)」と呼ばれる制度が導入されています。PUは開幕前にホモロゲーション(認証)され、それ以降は原則として性能向上のためのアップデートはできませんが、FIAがエンジンの性能を6戦ごとに測定し、他のメーカーよりも著しく低い性能のPUメーカーには追加のアップデートの機会を与えるというものです。
ホンダにADUOが適用されると言われていますが、もともと能力があるメーカーが開発に失敗したからといって、ADUOで助けるようなことをするべきではないと私は思っています。これくらいで追加の開発を許してしまったら、F1がF1でなくなってしまう。
これまで何度も言っていますが、F1はBOP(バランス・オブ・パフォーマンス)と呼ばれるマシンの性能調整を行ない、勝ったり負けたりの接戦を演出することはいっさいありません。強いチームが勝ち続け、弱いチームが負け続けるのがF1という競技です。
開発に失敗して、あまりにも他メーカーのPUとの性能差があって、株主や投資家などから批判されて撤退論がささやかれるようなメーカーが出てきた場合は、追加の開発をする機会を与えるというのが私の理解です。
その企業が撤退することになればF1全体にとって痛手となるのでADUOで救済しようという使い方だったら、他のメーカーも納得すると思います。それはBOPではなく、救済措置と言えます。
ホンダには他のメーカーと同様にバジェットキャップの範囲内で開発を進め、苦境を脱してほしいと思っています。
第11回につづく
前編を読む
<プロフィール>
浅木泰昭 あさき・やすあき/1958年、広島県生まれ。1981年に本田技術研究所に入社し、第2期ホンダF1、初代オデッセイ、アコード、N-BOXなどの開発に携わる。



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