前編:八村塁が歩んだレイカーズでの成長の軌跡
ロサンゼルス・レイカーズの八村塁にとって、NBA7年目の2025-26シーズンは自身の存在価値をリーグ中に知らしめた1年だったと言えるだろう。
その価値の代名詞となっているのが高い成功率を誇る3ポイントシュート。
ドラフト指名されて入団したワシントン・ウィザーズ時代からの役割の変遷を追いつつ、振り返る。
【転機となったレイカーズへの移籍】
「献身的なプレー」。
NBAでプレーしてきた日本人選手で言えば、それは渡邊雄太(現千葉ジェッツ)のためにある言葉だと思っていた。NBAでロールプレーヤーとして、その価値を示してきた渡邊を語る時、「献身的なプレーで貢献」という言葉は、当然のようにつきまとっていた。その言葉を、八村に使うことはなかった。ロサンゼルス・レイカーズに移籍するまでは......。
2019年、ドラフト1巡目全体の9位という上位指名を受けて入団したワシントン・ウィザーズで、八村は1年目からスターターで、攻撃の中心のひとりだった。だが、コロナウイルス感染拡大をきっかけにメンタル的な問題を抱え、3年目の2021-22シーズンの開幕から中盤まで戦列を離れた。ちょうど、そのシーズンからウィザーズのヘッドコーチが、八村をルーキー時から信頼していたスコット・ブルックス(現レイカーズのアシスタントコーチ)からウェス・アンセルド・ジュニアに代わっており、八村がいるべきパワーフォワードのスターターには、トレードでレイカーズから獲得したカイル・クーズマが起用された。
八村は復帰後、主にベンチから出場しながらも活躍ぶりに大きな変化はなかったが、自らに求められていることが明白ではなく、心のなかで煮えきらないものがあったのだろう。2022-23シーズンには、シーズン終了後に制限付きフリーエージェントになることもあと押しとなり、八村と代理人はトレードに向けて動き出した。そして2023年1月23日にレイカーズへトレードされ、そこから八村の選手としての人生が好転した。
「ウィザーズにいた時は、自分の役割がわからなかった。チームメイトが次々と変わり、コーチも変わった。自分がどんなプレーヤーかということさえもわからなかった」
今季のプレーオフ、西カンファレンス準決勝でオクラホマシティ・サンダーに4連敗を喫し、レイカーズでの4年目のシーズンを終えた八村は言った。
「でもここに来てから(は違った)。フィル・ハンディコーチ(八村がレイカーズ移籍時のアシスタントコーチで現ダラス・マーベリックスAC)に感謝を伝えたい。彼は、僕がこのリーグに残るために何をすればいいか、このチームにどうインパクトを与えられる選手になれるかを教えてくれた。そして、最初に彼から教わったことのひとつが、3ポイントシュートだった。それは、僕にとって一番大きなことだった。なぜなら、正直僕は3ポイントシュートを打つことが好きではなかったからだ。実は今でも僕の得意なことだとは思っていない。3ポイントは好きではないんだ。
でもチームの状況からJJ(レディックヘッドコーチ)は僕に多くのスリーを打ってほしがっていた。
【八村の適性を見抜いたハンディACの眼力】
「3ポイントは好きではない」という発言には驚いた。
八村はレイカーズでフルシーズンプレーしたこの3シーズン、3ポイント成功率41%以上を維持しており、今シーズンのプレーオフでは58本の3ポイントシュートを試投し、33本の成功とその成功率は56.9%。プレーオフでの自己通算3ポイント成功率は51.6%(157中81成功)と、5月15日時点でNBA史上最高を維持しており、大舞台にいかに強いかを示している。八村のシュート力がチームの機能を向上させることで、同プレーオフの10試合すべてに先発出場し、チーム最長の1試合平均38.6分プレー、17.5得点、4リバウンドも挙げていた。
それほどの実力があるのに、八村は「好きではない」と言ったのだ。
ウィザーズ所属時にこんなことがあった。チームのボーリング大会に出席した八村は、あまりボーリングをしたことがなかったようで、最初はぎこちなかった。ところが、3回目、4回目になるとあっという間にコツをつかみ、ストライクを重ねた。小学校の時は野球、中学の時にバスケットを始めてすぐにうまくなったことを考えると、八村の運動神経は並大抵のものではないようだ。
そうした一面もまた、ハンディACが八村の可能性を見出す背景にあったのだろう。
レイカーズの前指揮官だったダービン・ハムによると、レブロン・ジェームズやカイリー・アービング(マーベリックス)、ケビン・デュラント(ヒューストン・ロケッツ)、かつてはコービー・ブライアントなど多くの名選手から慕われているハンディは、レイカーズが八村をトレードで獲得すると、「私が塁の面倒を見る」と自ら申し出たという。そして、トレードが発表された翌日、八村が初めてレイカーズのメンバーとしてホームアリーナにやって来た時、その日のロサンゼルス・クリッパーズ戦には出場しなかったものの、練習着に着替えてさっそくハンディと練習を行なった。
「塁はすばらしい精神を持った、信じられないほどの若者のひとり。才能にあふれた若手選手で、とても強い。多くの人は彼のスキルセットを理解していない。彼はいいシューターであり、とてもいいディフェンダーだ。ミッドレンジで優れていて、リムでも得点できる。(八村が持つスキルは)すべてにおいてフィットする」
【「だから『頑張れ。うまくいくから』と」】
レイカーズに加わったその日から、八村の能力や伸びしろを信じ、最高の八村を引き出そうとしたハンディACは、八村についてそう語っていた。
八村は、レイカーズへの移籍当初はスターターを務めたが、チームがその後さらなるトレードを行なったことでベンチからのスタートとなった。新たなチームメイトにアジャストもしなければならず、苦しんでいた。そんななか、ハンディACが常に寄り添ってくれたことは大きかった。
「塁に言ったんだ。『私たちも君の毎日の練習に一貫性を持たせるし、日々、着実にアプローチできるようにする。だから頑張れ。うまくいくから』と」
ハンディACは、プレーオフに近づく頃に焦点を当てて、八村にプロセスを踏ませた。その結果、八村はレギュラーシーズン最後の5試合で、控え出場ながら1試合平均12.8得点、6.2リバウンドと活躍した。プレーオフ、西カンファレンス1回戦の対メンフィス・グリズリーズでは、第1戦で6本中5本の3ポイントシュートを成功させて29得点、第2戦でも20得点、第3戦は16得点。同3試合で常に5本以上のリバウンドを奪う活躍を見せた。
また、4連敗を喫して敗退したものの、西カンファレンス決勝のデンバー・ナゲッツ戦では4試合すべてで2ケタ得点を挙げ、1試合平均15.3点を記録した。守備では過去2年間(当時)のNBA最優秀選手で身長211cmのニコラ・ヨキッチに体当たりでマークするなど、ウィザーズにいた時には想像もつかなかったような、貴重な経験をした。
「(レイカーズに移籍して)こういう、違う機会があったからこそ、今まで持っていたものを大きい舞台で出せた。僕のバスケ人生でも、このプレーオフはすごく大きかったと思うので、これを絶対に忘れず次につなげたい」
移籍1年目のプレーオフ後、こう語った八村に悲壮感はなかった。むしろ、これからの自らのキャリアにワクワクしている様子さえうかがえた。
ウィザーズで停滞していた八村のバスケットボールキャリアが、上向きに動き出した。
後編につづく:八村塁が心掛けた「自分の役割を受け入れようと努力してきた」姿勢



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