アジア選手権、日本は3位決定戦でイランをセットカウント3-0で下した。これで銅メダルを勝ち取り、来年のワールドカップ出場権を確保した。

目標だったロス五輪出場権には届かなかったが、希望はつないだと言えるだろう(大陸女王の他に、すでに出場を決めている国を除き、ワールドカップの上位3チーム、2028年のネーションズリーグ予選ラウンド終了時点での世界ランキング上位3チームがロス五輪に出場する)。

 日本が準決勝でタイに負けたのは、ひとつの波乱だった。しかし決勝では中国がタイに敗れ、優勝を逃した。これらの結果からもわかるように、各国の差は拮抗している。タイは挑戦者として日本、中国の両方を破るために万全の準備をし、それによるわずかなメンタルの差で栄光をつかんだと言える。

 だが、真の強者は試合のなかで適応し、最後は相手を屈服させるものだろう。たとえミスはあっても、悪い流れに飲み込まれない。たとえば世界ランキング1位のイタリアは、そうした女王らしい強さを誇る。

 日本は世界ランキング6位で、実力に疑いの余地はない。「ボールを落とさない」という粘り強いディフェンスは世界屈指。石川真佑を筆頭に、スパイカーたちも多士済々だ。

 しかし、女王争いをするには、プラスアルファが必要かもしれない。

【女子バレー】山口真季のブロックはチームを立て直す引き金に ...の画像はこちら >>
 山口真季(27歳、KUROBEアクアフェアリーズ富山)は、アジア選手権でチーム最多10本のブロックを決めており、期待の戦力のひとりと言えるだろう。ブロック数は大会全体でも4位。2番手、3番手のミドルブロッカーとして出場時間が限られたことを考えれば、特筆すべき数字だ。

 昨シーズン、山口はSVリーグで日本人ナンバー1のブロック決定本数を誇っている。リーグ全体でも、上位には長身の外国人選手が並んだが、堂々の2位だった。ポジショニングがよく、読みに優れ、手の出し方も工夫されていることで、身長170cm台ながらブロックで相手の希望を打ち砕く。

 もっとも、山口は少しも驕るところはない。それは謙虚とも違った。1セットあたりのブロック成功本数で日本人選手1位を記録したことを訊いたときだ。

【「いい感じで生きています」】

「止められる本数は増えてきましたけど、数字に関しては"ブロックで止められる"って試合でいっぱい稼いだんじゃないですかね? 相手の技術や状況、それにチームの流れがいいと、向こうが焦ってブロックに当ててくれるだけで。自分の駆け引きで止めたのは何本かしかないです。サーブで崩していい形でのシャットが多いし、そもそもランキングとか、何も考えていないんで」

 超然とし、達観していた。

どこか飄々とした硬骨さこそ、ミドルブロッカーの肖像にも思えたが......。

「ずっとミドル(ブロッカー)をやっていたら、"私のミドルはこう"っていう哲学もあったはず。でも、私は(ポジションが)中、高、大、社会人と毎年のように変わる感じだったので」

 山口はそう言って、こちらを煙に巻いた。そこで、さらに質問を重ねた。

――執着を捨てたことが、型にはまらず、選手としての器を広げている理由でしょうか?

 彼女はやはり飄然と質問をかわした。

「そうなんですかね(笑)。(コートでの役目は)『やってくれ』って言われたら、『はい』って感じです。できないものはできないですけど、必要とされているなら、『じゃあ、やってみます』って。たまにライトをやるのも飽きなくていいですし、"本職じゃねえし"って、ミスしても気楽に開き直れるから楽しくて。

 私は、"自分はこうだから、周りも合わせてよ"よりも、"周りがそうなら、自分がそれに合わせて動く"っていうほうですね。自分が言って相手がパニックになるくらいなら、自分のプレーを合わせます。そのほうがラクだって考えているんで」

 山口は「ラク」という言葉を使ったが、それは合理的とも言い換えられるだろう。

目的に向かって、情動よりも実利で動ける。それがプレーの効率性の向上をもたらす、という仮説も成り立ったが、彼女ははぐらかした。

「自分を追い込むとか、そういうのから逃げているだけ。いい感じで生きているんです」

 山口は自分に余計な重圧をかけない。ネガティブではない、一種の諦観か。

 ただし、ブロックへの衝動は抗えなかった。

「やっぱりブロックで得点したときは楽しいですよ。特に、身長190cmくらいの外国人選手のスパイクを止めるとうれしい! 身長が高い選手と渡り合って勝つ、ミドルとしてはその姿を見せたいですね」

 山口には彼女だけが辿り着いて目にしている風景があるのだろう。それは誰にも奪えない。それが日本人ミドルのなかで異彩を放つ理由だ。

 たとえば、山田二千華はサーブも得意なオールラウンダーで身長が184cmと高いだけでなく、機動力もある。宮部藍梨はポジションもオポジットやアウトサイドで登録されることもあるなど、独特のリズムも武器だろう。

島村春世は現代表の主力として移動攻撃や速攻など攻撃は多彩、アジア選手権も貴重な得点源だった。コンディション次第で、荒木彩花もスケール感のあるミドルで人材に華を添えるだろう。

 山口のブロックは、チームに新たな爆発を起こす引き金になる。日本の伝統芸と言える高いレシーブ力と連係を生かしたブロックディフェンスの緻密さが狂ったとき、飄然とした戦いは救いになるはずだ。

「目の前のことをやる、というのが自分の持ち味で、長所」

 山口は淡々と言う。できることに専念する縛りによって、最大出力を可能にしている。その割り切りは、敵には厄介で、味方には頼もしい。そんなことを証明したアジア選手権の台湾戦、イラン戦だった。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya

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