荒木絵里香さんインタビュー 前編

 8月に行なわれたバレーボールアジア選手権で、3位となった女子日本代表。ロサンゼルス五輪出場権は逃したが、来年のワールドカップ出場権を獲得した。

その戦いについて、長らく日本代表のミドルブロッカーとして活躍し、4度オリンピックに出場した荒木絵里香さんに振り返ってもらった。

【女子バレー】荒木絵里香があらためてアジア選手権を総括 日本...の画像はこちら >>

【日本を破ったタイは「驚くほどすばらしかった」】

――今回のアジア選手権で、日本女子は予選グループから準々決勝まで失セット0で勝ち上がりました。開幕からチームの状態をどう見ていましたか?

「アジア選手権では普段なかなか対戦しない国との試合もあり、そこでは力の差が明確に出ます。だからこそ生じる迷いもありますが、のちに対戦が控えている中国やタイとの大切な勝負に向けて調整していかなければいけない。

 そのギャップのなかで『もっともっとこうしたい』という思いからか、選手一人ひとりがフラストレーションを溜めている印象がありました。チームとしても、ぐっとひとつになりきれていなかった印象を受けました。」

――準決勝でタイに敗れましたが、タイも非常にパフォーマンスがよかったと感じました。

「驚くほどすばらしかったですよね。決勝の中国戦とともに過去最高のゲームをできた、と言っても過言ではないと思います。

 タイとしては、オリンピック出場という点においては、このアジア選手権が最大、かつ唯一のチャンスだったはず。というのも、今回で五輪の切符を獲れなかった場合、次は来年のワールドカップで上位3チームに入る必要がありますが、各国との力関係を考えると正直なところ厳しい。かといって、残った枠を獲得できる2028年の世界ランキングの上位(2028年のネーションズリーグ予選ラウンド終了時点)に昇りつめることも難しい状況です。

 だからこそ、ひとつのプレーに対する気迫や試合中の表情もすさまじかったですね。同時に、冷静に攻めることも忘れず、日本に対するプレーの精度も高かった。

『この大会で五輪を決めるんだ』という気持ちを強く感じましたし、実際にそれをやり遂げました」

【日本がやらなければいけないプレーをやられた】

――これまでの対戦では、試合が進むにつれてタイが次第に崩れていく印象がありましたが、今回はそうなりませんでした。

「まず、アウトサイドヒッターのサシパポーン・ジャンタウィスット選手(大会のベストスコアラー、ベストアウトサイドヒッターに選出)のサーブレシーブが崩れませんでした。日本としては彼女をサーブのターゲットにして、崩していく展開に持っていきたかったはずですが、そうさせなかった、彼女の出来がよかったですね。

 また、昨シーズンまでSVリーグヴィクトリーナ姫路でプレーしていたチャッチュオン・モクシー選手(今シーズンは埼玉上尾メディックスでプレー)の存在も大きかった。経験豊富なリベロとともに、チャッチュオン選手が広い範囲で守備のサポートをしていました。それによってサシパポーン選手の守備範囲が狭まり、レセプションが崩れにくい状況を作れたんだと思います」

――ほかにも、SVリーグのPFUブルーキャッツ石川かほくで活躍するミドルブロッカー、タットダオ・ヌクジャン選手が攻守でアクセントになっていました。

「特に攻撃では、ラリー中でも機動力を生かしていましたし、サーブレシーブがBパスになった状態からでもクイックでどんどん点を取っていました。彼女を使うための1本目のパス(サーブレシーブやディグ)の質がとても高かったです。ミドルブロッカーを印象づけることができれば、両サイドからの攻撃もより効果的になります。タイはそうした数的優位な状況を多く作っていました。

 質の高い1本目のパスと、そこから常に3枚、4枚での攻撃を仕掛けていく。本来は日本がやらなければいけないプレーを、逆にタイにやられてしまいました」

【前を向いて進むしかない】

――日本も守備力を生かしてボールを拾えていたと思いますが、攻撃時のミスが目立った印象です。

「タイ戦は自分たちのミスなどによる直接失点が28でしたね(※タイは14)。

相手からすれば"何もしなくても得点が入る状態"ですし、精神的にも負担なく戦えていた要因になったと感じます。日本としては絶対にやってはいけなかった。せっかくいいプレーが出たのに、次のプレーで失点をしてしまうケースがありました。自分たちでつかみかけた流れを手放すことを繰り返していましたね」

――直接失点に関してはメンタル面か、プレーのクオリティか、どのように克服していく必要がありますか?

「どちらも必要ですかね。できないことができなかった、というわけではなく、本来はできるはずなのに大事な場面でできなかった。もちろん個々がスキルを磨くことは大前提です。その先の部分で、チームとしての組織力など、もう一段階強くなる必要性を選手みんなが感じたはず。苦しんだからこそ、全員が弱さや課題と向き合う機会になったと思うので、『この経験をしてよかった』と言えるように成長してくれると信じています」

――結果的に3位決定戦を制して、銅メダルを手にしました。大会を終えた直後の日本チームをどう見ていましたか?

「自分が現役だった頃の気持ちを思い出しました。オリンピック出場を懸けた戦いは本当に苦しいですし、戦っている時は怖さや不安に駆られたものです。大会前の報道などを見て、今の日本代表のメンバーが本気で目標に向かっていることを感じていました。大会中は、ただただ『頑張って!』と応援する気持ちでしたし、タイに負けた時は現役時代に味わった悔しい気持ちもフラッシュバックしました」

――大会後の記者会見では、フェルハト・アクバシュ監督や石川真佑キャプテンから「申し訳ない」という言葉が聞かれ、世間の反応もさまざまでした。

荒木さん自身も日本代表で主力やキャプテンを務めていた当時は、そうした思いを抱いたことがありましたか?

「チームのスタッフ、選手たちの気持ちはとてもわかります。私自身、何度も『申し訳ない』という気持ちになりました。結果を出せなかった不甲斐なさや申し訳なさといった感情は、おそらく選手なら誰もが抱くものでしょう。

 ですが、もう前を向いて進むしかありません。2028年のロサンゼルス五輪というターゲットは決まっているわけですから、これからそこにどう向かっていくかにフォーカスしてもらいたいと思います」

(後編:荒木絵里香が「すごさ」を感じる、石川真佑がトルコリーグ移籍を決めた理由 新天地で戦う選手たちへの期待も語った>>)

【プロフィール】

荒木絵里香(あらき・えりか)

1984年8月3日生まれ、岡山県倉敷市出身。身長186cmのミドルブロッカーとして長年にわたり日本代表を支え、4度のオリンピック出場を果たした。
成徳学園高校(現・下北沢成徳)で高校三冠を達成。2003年に東レアローズに入団。2006年頃から日本代表でレギュラーを獲得し、2008年北京五輪に初出場。2012年ロンドン五輪では、主将として日本女子28年ぶりの銅メダル獲得に貢献した。出産後に現役復帰を果たし、2021年東京五輪まで第一線で活躍。引退後はトヨタ車体クインシーズ(現・アリーザ愛知)のスタッフとしてチーム運営に携わり、現在はSVリーグ、日本バレーボール協会の理事も務める。

坂口功将●取材・文 text by Kosuke Sakaguchi

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