ドラフトの勝ち組・負け組~2016年の答え合わせ(前編)

 今年も、各球団の未来を左右する「運命の日」ドラフト会議が10月22日に行なわれる。今から10年前、2016年のドラフト会議は、田中正義(創価大)に5球団、外れ1位の佐々木千隼(桜美林大)にも5球団が競合。

支配下指名87人のうち63人が投手という異例の年となった。前編では投手を中心に振り返る。

【プロ野球】5球団競合の逸材はなぜ苦しんだのか? 2016年...の画像はこちら >>

【5球団競合の逸材たちの明暗】

 1回目の入札で田中正義にはロッテ、ソフトバンク、巨人、日本ハム、広島の5球団が競合し、ソフトバンクが交渉権を獲得した。外れ1位の入札では、日本ハム、広島、巨人、ロッテ、DeNAの5球団が佐々木千隼に集中し、ロッテが引き当てている。

 日本ハムの堀瑞輝(広島新庄高)、巨人の吉川尚輝(中京学院大)、DeNAの濵口遥大(神奈川大)、広島の加藤拓也(慶應義塾大)は、いずれも2度の抽選に敗れ、3回目の入札でようやく交渉権を獲得した。

 この年は大学生投手の逸材が豊富で、田中、佐々木に加え、中日、DeNAの2球団が競合して中日入りした柳裕也(明治大)や濵口ら、即戦力と期待された本格派が1位に名を連ねた。

 高校生では「BIG4」と呼ばれた4人が目玉だった。夏の甲子園を制した今井達也(作新学院高)を西武、最速150キロ左腕の寺島成輝(履正社高)をヤクルト、身体能力にすぐれた本格派右腕・藤平尚真(横浜高)を楽天が1位指名。馬力のある左腕の高橋昂也(花咲徳栄高)は2位指名で広島に入団した。

 5球団競合の目玉だった田中は、入団1年目から右肩を痛めるなど故障に苦しみ、ソフトバンクでの6年間は通算34試合、0勝1敗にとどまった。転機は2022年オフ。近藤健介のFA移籍に伴う人的補償で日本ハムへ移ると、2023年に守護神へ抜擢されて47試合で25セーブをマーク。2025年は49試合で防御率1.32を記録し、推定年俸は1億円に達した。

 外れ1位で5球団競合の末にロッテへ入団した佐々木は、プロ入り後に苦しむ時間が長かったが、2021年に54試合で8勝1敗26ホールド、防御率1.26をマークした。2023年オフの現役ドラフトでDeNAに移籍。ドラフト時にも指名されており、7年越しの入団となったが、今季はわずか5試合の登板にとどまり、戦力外通告を受けた。

 柳は2021年に最優秀防御率(2.20)と最多奪三振(168)の2冠に輝くなど、中日投手陣の軸として奮闘している。

 加藤は、2018年オフに登録名を「矢崎拓也」に変更。2023年には54試合で24セーブをマークするなど、リリーフで活躍した。2024年オフの現役ドラフトでヤクルトに移籍し、翌2025年は45試合に登板したが、登録名を「拓也」に変更した今季は7試合の登板にとどまった。

 濵口はルーキーイヤーの2017年に10勝(6敗)を挙げ、新人特別賞を受賞したが、その後は伸び悩み、2024年オフに三森大貴との交換トレードでソフトバンクに移籍。ただ、2025年4月には国指定の難病「胸椎黄色靱帯(じんたい)骨化症」の手術を受けるなど、結局一軍登板の機会はなく、オフに戦力外通告を受け、現役を引退した。

【高校生BIG4と同期たちの現在地】

「高校生BIG4」では、今井が頭ひとつ抜けた。西武で2024年に最多奪三振(187)を獲得し、2025年は24試合で10勝5敗、防御率1.92、178奪三振と圧巻の投球を披露。同年オフにポスティングシステムを利用してアストロズに移籍した。

 藤平は先発では結果を残せなかったが、2024年からリリーフに定着し、才能が開花。

47試合で防御率1.75と抜群の安定感を見せると、今春のWBCでは、ケガの影響で出場を辞退した平良海馬(西武)の代役として侍ジャパンに追加招集された。

 一方、寺島は通算36試合で1勝にとどまり、2022年限りで現役引退。高橋も左ヒジのコンディション不良などに苦しみ、通算46試合で8勝にとどまり、今井、藤平とは明暗が分かれた。

 オリックスが単独で1位指名した山岡泰輔(東京ガス)は2019年に13勝4敗で最高勝率(.765)のタイトルを手にした。近年はおもにリリーフとして活躍。2025年には41試合に登板するなど、ブルペンの一角を支えた。

 3位以下にも「当たり」がいる。阪神3位の才木浩人(須磨翔風高)は、2025年に防御率1.55で最優秀防御率に輝くと、今季は3年連続の2ケタとなる10勝(5敗)を挙げ、最多奪三振(175)を獲得した。

 広島3位の床田寛樹(中部学院大)は、左腕エースとして通算175試合に登板し、65勝を積み上げている。今季国内FA権の取得条件を満たしており、権利行使に注目が集まる。

 ロッテ6位の種市篤暉(八戸工大一高)は、侍ジャパンの一員として今春のWBCに出場。ただ、4月の試合中に左アキレス腱を断裂。

来季の完全復帰が待たれる。

【4位指名から生まれた世界のエース】

 そして、この年の「ドラフトキング」は、オリックス4位の山本由伸(都城高)だろう。高校時代こそ甲子園出場の経験はないが、「九州四天王」の一角として早くから注目を集めていた。

 1年目にプロ初勝利を挙げると、2021年から2023年まで3年連続で投手4冠(最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率)、沢村賞、パ・リーグMVPを受賞。2022、2023年には2年連続でノーヒットノーランも達成した。NPB通算は7年で70勝29敗、防御率1.82。

 2024年からドジャースに活躍の場を移すと、メジャー2年目の2025年ワールドシリーズ第2戦で9回1失点の完投勝利。負ければ終わりの第6戦では6回1失点、さらに中0日で臨んだ第7戦は9回途中から登板して2回2/3を無失点に抑え、シリーズ3勝を挙げてMVPを獲得。日本選手としては2009年の松井秀喜以来2人目、日本人投手としては初のワールドシリーズMVPとなった。

 金本知憲、イチロー、青木宣親、近藤健介ら、ドラフト4位から球界を代表する選手へと成長した例は少なくないが、山本も例外ではなかった。

 5球団が競合した田中正義や佐々木千隼ではなく、4位指名の高校生が世界最高峰の舞台で頂点に立つ。指名時の評価と、その後の実績は必ずしも一致しない。

ドラフトの奥深さを、これほど雄弁に物語る存在もいないだろう。2016年の「ドラフトキング」は、文句なしで山本由伸だ。

つづく>>

内田勝治●文 text by Katsuharu Uchida

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