今年のGⅠ菊花賞(10月25日/京都・芝3000m)は、二冠馬ロブチェン(牡3歳)の三冠達成なるかどうかが最大の関心事となる。2020年のコントレイル以来、史上9頭目の三冠馬誕生となるのか、多くのファンが注目している。
道中、中団やや後方で運んでいたロブチェンは、4コーナー手前から徐々に進出して直線では外から脚を伸ばしていった。直線半ばで一度は抜け出したかに見えたが、5~6頭が競り合う形となって、最後は内から抜けてきたアルトラムス(牡3歳)と並んでゴール。結果は、ハナ差の勝利だった。
この結果をどう見るか。関西の競馬専門紙記者はこう評した。
「神戸新聞杯におけるロブチェンの競馬は、トライアルとしての結果だけでなく、内容的にも高く評価できます。三冠達成に向けて、まさに視界良好と言える一戦でした」
あらためてレースを振り返れば、前半は馬群の内で窮屈な競馬を強いられ、思いのほか後方に置かれる形となった。さらに、直線ではイン有利な馬場にあって大外を回され、しかも陣営が「苦手」という瞬発力勝負に持ち込まれた。それは、ロブチェンにとって得意な競馬でも、陣営が意図した競馬でもなかっただろう。
だが、最後はハナ差先着。わずかな差であっても、きっちり勝ちきって見せたところが、この馬の強さであり、底力である。
先の専門紙記者が続ける。
「最後の直線、ロブチェンは不利な外を通って、2着馬はこの日の馬場で最高に伸びるインぴったりを通ってきた。そのうえでのハナ差。その結果には、着差以上のものがあると言っていいでしょう。おそらく2着馬のジョッキーは、『この先何回やっても、この着差がこれ以上詰まることはない』と思ったのではないでしょうか」
見た目には辛勝だった神戸新聞杯だが、実際には他の馬に「ロブチェンには勝てない」と思わせるほどの力差を見せつけたレースだったのだ。
2000年以降、ネオユニヴァース(2003年)、ディープインパクト(2005年)、メイショウサムソン(2006年)、オルフェーヴル(2011年)、コントレイル(2020年)と、春の二冠馬が菊花賞へ駒を進めてきたが、三冠馬に輝いた3頭はいずれも神戸新聞杯を勝ってきた。そうした傾向からしても、ロブチェンが三冠を達成する確率はかなり高そうだ。
とはいえ、菊花賞はほとんどの馬にとって未知の距離となる3000m戦。今年も出走各馬の適性次第では、思わぬ結果がもたらされる可能性が十分にある。
もとより、菊花賞、天皇賞・春(阪神・芝3200m)と長距離GI2勝のワールドプレミアを父に持つロブチェンには、距離面を問題視する声はあまり聞こえてこないが、管理する杉山晴紀調教師は「体形的に見て、3000mはどうか」と、必ずしも長距離向きとは考えていないという。
となると、勝敗のカギを握るのは、相手関係か。
GⅠ皐月賞(4月19日/中山・芝2000m)で激闘を繰り広げたリアライズシリウスは中距離路線へ向かい、GⅠ日本ダービー(5月31日/東京・芝2400m)でアタマ差の勝負を演じたパントルナイーフは負傷で戦線離脱。加えて、トライアルに出走した春の実績組は、大半が本番へ期待を抱かせるような結果を残せていない。
であれば、比較的相手には恵まれた印象だが、気になる馬が1頭いる。それは、この夏の北海道で2600m戦を2連勝して勢いに乗るダノンヒストリー(牡3歳)だ。
北海道の長距離戦を2連勝して頭角を現したという点では、2001年に菊花賞を制したマンハッタンカフェとどこかイメージがかぶる。それに、今回手綱を取るのは、クリストフ・ルメール騎手。直近3年連続で勝利を飾り、過去10年で5勝を挙げている"菊花賞男"である。とてもノーマークにはできない存在だ。
そもそもダノンヒストリーは2024年のセレクトセールで3億9000万円(税別)という高値で取引された良血馬。昨年6月の新馬戦(東京・芝1800m)では、のちにGⅡスプリングS(3月15日/中山・芝1800m)を快勝するアウダーシア(牡3歳)、GⅢ京成杯(1月18日/中山・芝2000m)を制するグリーンエナジーを難なく一蹴。好メンバーが集った2戦目のGⅡ東京スポーツ杯2歳S(7着。東京・芝1800m)では、断然の1番人気に支持されたほどの器だ。
その後、長期休養に入って春のクラシックには縁がなかったが、この夏の北海道で見事な復帰を果たした。復帰初戦の1勝クラス(7月4日/函館・芝2600m)では、2着に2秒以上の差をつけての大差勝ち。続く2勝クラスの阿寒湖特別(8月16日/札幌・芝2600m)でも、古馬相手に8馬身差の圧勝劇を演じた。
それぞれ相手が弱かったこともあるが、2戦の着差から並の馬ではないことはよくわかる。その馬に、ルメール騎手が乗る。ロブチェンにとって、最も警戒すべき相手であることは間違いないだろう。先述の専門紙記者が言う。
「現状のままでは、おそらくダノンヒストリーはロブチェンには勝てないでしょう。しかしながら、北海道の2戦はどちらも能力の違いで勝っただけ。いわば、安全運転の競馬でした。そういう意味では、ダノンヒストリーにはもうワンランク上のギアが備わっている可能性があります。ルメール騎手がそれを引き出すことができれば、ロブチェンともいい勝負ができるかもしれません」
ロブチェンの主戦を務める松山弘平騎手は、2020年にデアリングタクトで「牝馬三冠」を遂げている。
はたして、歴史的な偉業達成の瞬間は訪れるのか。注目のゲートインまで、まもなくである。
新山藍朗●文 text by Airo Niiyama



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