「展開で言うと、どちらに転んでもおかしくないような試合もありましたが、その小さな差が、じつは一番大切で、大きな部分だと思う」
筒香嘉智は、噛みしめるようにそう語った。
「隙のない野球だったり、勝負勘だったり、ここぞの場面で1点を取りきるチーム力、1点を守りきるチーム力というのは、本当に勉強になった」
牧秀悟も悔しさをにじませながら、ソフトバンクとの差を認め、自分たちに何が足りなかったのか、一人ひとりが受け止める必要があると語った。
4連敗──横浜DeNAベイスターズの完敗だった。
3試合が延長戦にもつれ込み、いずれも2点差以内の接戦となった。それでも、福岡ソフトバンクホークスから一度も勝利を奪えなかった。その事実は、選手たちにスコア以上の大きな差を感じさせていた。
今季のベイスターズは、若い選手たちの台頭とともに、最大15あった借金を乗り越え、日本シリーズの舞台まではい上がってきた。しかし、その先に待っていたのは、あまりにも厳しい現実だった。福岡の地で、ホークスの胴上げを見つめた選手たちは、この4試合で何を感じ、何を胸に刻んだのだろうか。
【日本シリーズで知った勝負の怖さと難しさ】
1番打者として打線を牽引し、チームに勢いをもたらしてきた度会隆輝。大舞台でも勝負強さを見せてきた若きリードオフマンも、憧れだった日本シリーズでは16打数3安打と、思い描いていたような活躍はできなかった。
「いい勝負ができていたと思います。まだしっかり整理ができていないので、このあと、どうだったのかをしっかり反省して、映像を見て何がよくて何がダメだったのか、次につなげられるように頭を整理したい。来年以降、絶対に生かしていきたいです。来シーズンは必ずリーグ優勝して、またこの舞台に戻ってこられるように頑張ります」
悔しさを口にしながらも、その視線はすでに来季へと向いていた。
「悔しい気持ちが強いです」
そう言葉を絞り出したのは、松尾汐恩だった。
2年前の日本シリーズにも出場した松尾は、今回は主力捕手のひとりとして2試合で先発マスクをかぶり、強力なホークス打線と対峙した。そして、チームの敗退が決まった最終戦では、9回の最後の打者にもなった。
「本当に2年前とは違う景色というか、ひとつを取る難しさを感じました。最後まで何があるかわからない。あらためて野球の怖さ、難しさを感じます。もっともっと考えてやらなければいけないですね」
2年前とは違う立場で臨んだからこそ、見えたものがあった。その松尾にとって、忘れられない対決となったのが、4回に同点打を許した山本祐大との勝負だった。
山本祐は半年前まで同じチームに所属し、松尾が追い越すべき存在として背中を追い続けてきた先輩でもある。その山本祐が今度は敵の捕手として立ちはだかり、日本一をつかみ取った。
互いの手の内を知る者同士の真剣勝負。松尾は、その対戦をこう振り返った。
「いいバッターだというのはわかっていましたからね。あの人を超えられるように頑張りたいです」
その言葉には、悔しさだけでなく、先輩を超えようとする強い決意がにじんでいた。
【古巣で突きつけられた厳しい現実】
エンカーナシオンの離脱もあり、3試合の先発出場を含む全4試合に出場した井上朋也もまた、悔しさを噛みしめていた。
第2戦では、ソフトバンクのエース左腕、リバン・モイネロから2本の二塁打を放ち、持ち前の長打力を見せつけた。しかし、シリーズを通じて10打席で5三振。最終戦でも安打を放つことができず、かつての本拠地で迎えた日本シリーズは、ほろ苦いものとなった。
「結果も出なかったですし、この悔しさは忘れずにいたいです。技術面で足りなかったことはたくさんあります。でも、スタイルは貫けました。移籍してきてからは、スケールの小さい選手ではなくて、長打を打てるバッターになりたいと決めたこと。そこだけはブレずにできたと思います」
井上の本職は三塁手だが、チーム事情から今シリーズでは右翼の守備にも就いた。
そして最終戦の4回、山本祐の打球に果敢にダイビングを試みたものの、捕球できずに打球は外野を転々とした。この一打が2点適時三塁打となり、チームは同点に追いつかれてしまった。
「二軍では上田(佳範)コーチ、一軍では河田(雄祐)コーチに、毎日いろいろなことを教えていただいて、なんとかそれを身につけられるようにやってきたんですけど......。まだ、一軍の外野手として十分なレベルではないです。試合で起きてしまったこと、足りなかった部分を、このオフシーズンに埋められるよう、全力で取り組んでいくしかないと思っています」
【初めての救援登板で得た経験】
投手陣にも、忘れられない経験をした若者たちがいる。CSの阪神戦で7回無失点の好投を見せ、日本シリーズ第5戦の先発有力候補と目されていたルーキーの片山皓心は、この日は5回から救援登板した。一軍では初めてとなる中継ぎでのマウンドだった。
「CSを経験できたので、そこまで球場の雰囲気にのまれることはなかったです。でも、中継ぎということもあって、心拍数だったり、普段とは少し違う部分はありました。自分が先発であれば、ある程度コントロールできる立場ですけど、今日は中継ぎなので、試合が動いている状態でマウンドに上がる。いつもとは違う環境だと思っていました。でも、投げることは変わらない。自分のコントロールできることに集中する。
結果は2回を投げて1安打1失点。不運な打球もあり、難しい状況での登板となったが、自分の持ち味を発揮することはできた。それでも、目の前で繰り広げられたホークスの歓喜の光景は、片山の胸に強烈な悔しさを残した。
「次は自分たちが逆にマウンドで集まれるように、来年はまず、自分が投手としてチームのピースになれるようにと思います。今年は4月に初登板できましたが、実際に戦力として回れたのは7月の終わりからでした。それをもっと早い段階からできるようになることが、自分にとってもチームにとってもプラスだと思うので、来年以降は自覚を持ってやっていきたいです」
今季、一軍での第一歩を踏み出した片山にとって、日本シリーズは新たな課題と目標を見つける舞台になった。
【届かなかった頂点、その先にある未来】
そして、ベイスターズにとって今シリーズ最後となる8回のマウンドを任されたのは、プロ5年目の深沢鳳介だった。
今季は一軍での登板を果たし、5勝をマーク。先発投手として着実に成長を遂げてきた右腕にとって、これがポストシーズン初登板だった。ホークスの上位打線を相手に無失点。大舞台でも臆することなく、自らの役割を果たした。
「緊張はしましたけど、自分の持ち味は出せたのかなと思います。
その経験を前向きに捉えながらも、深沢の目標は明確だった。
「自分は先発を任せてもらえるピッチャーになりたいと思っているので、そのためにも来シーズンはしっかりローテーションを回りたい。ホークスでは自分より年下の前田(悠伍)くんが先発でしっかり投げていましたし、自分も負けたくない。そういう気持ちで見ていました」
3試合が延長戦にもつれ込んだように、決して一方的な内容ばかりではなかった。それでも最後に勝利をつかんだのは、常にホークスだった。勝負どころで1点を奪う力。わずかなリードを守りきる力。そして、相手が勝利を確信しかけた瞬間に、流れを引き寄せる勝負強さ。
筒香や牧が口にした「小さな差」は、そうした一つひとつのプレーに潜んでいたのかもしれない。
ただ、その差を肌で感じられたことにも、大きな意味がある。
度会、松尾、井上、片山、深沢──。日本シリーズという最高峰の舞台で、若い選手たちはそれぞれに課題を見つけ、悔しさを胸に刻んだ。
この4連敗は、決して忘れることのできない経験になるだろう。筒香や牧が語った「小さな差」。それを埋めることは、決して容易ではない。それでも、頂点に立つチームとの差を肌で知ったことは、彼らにとって何物にも代えがたい財産となるはずだ。
いつの日か、あの悔しさがあったからこそ強くなれた──そう胸を張って言える日が来ることを願いたい。若い力が切り拓くベイスターズの新たな未来に期待を込めて、今年の日本シリーズのレポートを締めくくりたい。
村瀬秀信●文 text by Hidenobu Murase










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