出雲駅伝9位の悔しさを晴らし、全日本大学駅伝で過去最高の3位に入った創価大。序盤の出遅れから反撃に転じ、両エースの復調とアンカーの猛追で順位を押し上げた。

榎木和貴監督と小池莉希の言葉を通して、躍進の舞台裏と箱根トップ3への手応え、残された課題に迫る。

【大学駅伝】全日本で過去最高3位、箱根へ弾みの創価大 エース...の画像はこちら >>

【1年生に求めたのは、結果より経験】

「いやー、よかったです。ホッとしました(笑)」

 全日本大学駅伝で、創価大のアンカー・山口翔輝(3年)は5位で襷を受け、駒澤大、青山学院大を抜いて3位でゴールした。レース後、榎木和貴監督は喜びよりも安堵をにじませ、冒頭の言葉を口にした。大会前に父を亡くし、悲しみを抱えたまま迎えたレースでもあった。

 今大会の目標は、過去最高の4位を上回ること。同時に、箱根駅伝へつながるレースとも位置づけていた。榎木監督は、その狙いをこう語っていた。

「今回はまず1年生の経験値を上げること。それも、ただ出場して終わりではなく、区間上位で走れるように走りの精度を高め、確認するというのがひとつ。それにプラスして、3、4年生は、(これまで三大駅伝での)区間賞が前回の箱根駅伝6区の小池莉希(4年)しかないので、織橋(巧・4年)、(スティーブン・)ムチーニ(4年)が区間賞を積極的に狙っていくということです」

 出雲では、有力な1年生の菅野元太(1区8位)と村上遵世(4区6位)を積極的に起用した。しかし、両エースのムチーニと小池が本来の力を発揮できず、総合9位に終わった。その悔しさを胸に臨んだ今大会も、1年生の起用を貫いた。

1区に大学駅伝初出場の田村幸太、3区に菅野、5区に村上を配置。その間を上級生で固め、ルーキーが思いきり挑戦できるオーダーを組んだ。

「理想の流れとしては1区、2区、3区でしっかり流れをつかんで4区で中押し、そこでゲームの流れを変えることができればいいなと思っています。ムチーニと小池、特に小池が歴史をつくってくれれば上位に行けると思うので、"自作自演"のすばらしい小池劇場を見せてくれるのを期待しています」

 しかし、レースは榎木監督の思惑とは異なる展開をたどった。1区から3区まで総合順位はふたケタに低迷し、監督は「出雲の再現か」と危惧したという。駅伝初出場の田村はまずますだったが、菅野はじんましんが出るなど体調を整えることに苦労し、もうひとつよさを発揮できなかった。

「1区の田村(区間11位)を含め、3区菅野(区間12位)、5区村上(区間8位)も、今はチャレンジする時期で、どれだけ場数を踏んで成長できるかを求めているので、結果の責任についてはまったく考えていません。また、2年生以上の選手がどれだけチームとして戦えるか、というところを今季は追求してきたので、そういう意味では今回の全日本は、3、4年生がしっかり結果を出してつないでくれたと思います」

【7割の状態で流れを変えた小池】

 流れを変えたのは、当日変更で4区に入ったエースの小池だった。出雲では区間10位に沈み、チームの順位を3つ落とした。「すみません、反省しています」と何度も頭を下げたあの日から3週間。小池が、エースの走りを取り戻した。

 4区の小池が襷を受けたのは11位。トップの早稲田大とは3分05秒差、シード圏内の8位・青学大とは55秒差だった。

「襷を11位でもらった時は焦りました。3年前も似たような順位(13位)で渡されて、全然ダメダメ(区間16位)で順位を上げられなかったんです。しかも、出雲で調子が悪すぎて、本当に不甲斐ない走りでちょっと自信を失っていて......。

 そこから1週間、体調を戻すことに専念して、2週間で仕上げてきたのですが、調子としては7割ぐらい。今回はどうかなと思っていたのですが、出雲の時と異なり、わりと冷静に入れて10kmを28分ぐらいでいけたんです。シードラインまで近づけられましたし、後ろに続く流れをつくれたので自分の役割は果たせたのかなと思います」

 榎木監督も「悪い流れを変えてくれた。今回はエースらしい走りをしてくれたと思います」と、小池の走りを称賛した。

 小池は区間2位の走りでチームを9位に押し上げ、5区の村上に襷を渡した。村上が8位に上げると、6区の榎木凜太朗(3年)がその順位を守り、7区のムチーニは区間2位の好走で5位へ。反撃の流れを受け継いだ8区の山口が、区間3位タイの走りで猛烈な追い上げを見せた。

 小池は胸を躍らせながら仲間たちの走りを見ていたという。

「5区、6区がシード権争いをするなか、しっかりとつないでくれたので、スティーブンのところは安心して見ていられましたし、山口の走りは盛り上がりました。

ただ、チームとしてはよかったですけど、個人としては出雲の借りがまだマイナスなので、箱根で区間新、区間賞を獲ってプラスにして卒業します!」

 箱根で、どんな"小池劇場"を見せてくれるだろうか。

 小池とともに、出雲で区間6位に沈んだムチーニの復調も大きかった。出雲では自分のペースに徹する走りに、榎木監督が「駅伝をしていなかった」と渋い表情を見せていた。レース後、監督はムチーニと話し合い、駅伝での戦い方を伝えたという。

「出雲の時は、時計を見て、自分のペースをキープすることに徹していたんです。だから、駅伝では攻め続けないと戦えないという話をしました。また、全日本に向けて(ベナード・)キクンビ(1年)をメンバーに入れたことで危機感もあったと思います。レースでは彼本来の爆発力を見せ、攻めの走りをやってくれました。今まで山口とムチーニが一緒に走るとどっちかがよくて、どっちかが悪い流れだったんですが、ふたりがともによかったのは今回が初めてで、それも収穫でした(笑)」

 4区から追い上げた創価大は、過去最高の3位でフィニッシュ。目標を達成するとともに、初出場から5大会連続となるシード権を獲得した。

【5区、6区に見えた中間層強化の成果】

 1年生が経験を積み、エースが役割を果たして強豪校と渡り合った。箱根に向けて、収穫の多いレースだった。

榎木監督は、その手応えをこう語る。

「目標も目的も、おおかた達成できたので、チームとしての収穫は大きかったですね。駅伝そのものでいえば、前半4区までは60点ぐらいの出来で、5区から8区までは95点ぐらいの点数をあげてもいいかなと思います。全体ですと、今回の駅伝は80点ぐらいですね。前半の流れがよく、100点であれば、優勝は厳しいですが、(2位の)國學院大と競るぐらいのタイムは出せたと思いますし、背中を見て戦えたと思います」

 過去最高の3位を手にした一方、上位との差も浮き彫りになった。優勝した早大とは5分57秒、2位の國學院大とは2分23秒差。頂点への道のりは、まだ長い。

 その差を縮めるには、エースの力だけでなく、中間層の厚みが欠かせない。1年前の全日本で7位に終わったあと、小池は「中間層の力が足りない」と語っていた。今回のレースを経て、その課題をどう捉えているのか。

「昨年は中間層の力が足りず、主力以外が出ると後手後手に回る展開が多かったんですけど、あれから1年間、夏を含めて、いろいろ強化をしてきました。今回、5区、6区がしっかりとシードの位置でつなげたのは、その賜物だと思います。

また、昨年の全日本で5区を走った衣川(勇太・2年)や、齋藤(一筋・3年)、石丸(修那・3年)がハマってくれば、選手層により厚みが出てきます。箱根は総力戦になるでしょうし、だいぶ面白い戦いができると思います。今回の創価の駅伝、見ていて面白くなかったですか?」

 小池は、そう言って自信をのぞかせた。ただ、選手層の充実に手応えを感じる一方、上位校との差は冷静に受け止めている。

「早大と國學院大がちょっと抜けていますし、すぐ後ろにも強いところがいますからね。でも、早大がいつも前だと、見ている側も面白くないじゃないですか。(早大の選手に)『ヤバい』と思わせられれば焦りが生まれるので、くらいついていきたいですね。それができれば面白い展開になると思います。ただ、自分たちも一歩間違えると7位、8位になり、シード権争いになってしまう。そこは危機感を常に持ちながら戦闘態勢を整えていかないといけないと思っています」

 榎木監督も、箱根に向けて気を引き締める。

「今回は3位で目標を達成できたんですけど、箱根はハーフの距離を戦える選手をそろえないといけないので、もう一度、土台づくりから始めていかないといけないですね。箱根は10時間41分58秒という総合タイムを目標にしていますが、それをクリアできれば必然的に順位も3位以内につながってくると思うんです。

あの(2021年の第97回大会の)箱根準優勝以来、箱根でのトップ3は近そうで遠い順位になっているので、全日本3位を箱根でもう一度再現できるように、ここからチーム強化をしっかりやっていきたいと思います」

 その10時間41分58秒は、創価大が箱根駅伝の各区間で刻んできた歴代チーム最高記録を合計したタイムだ。

 箱根駅伝も、早大を軸とする展開が予想される。創価大が上位に食い込むには、相手を意識しすぎず、自分たちのレースを貫くことが大切になる。10人が着実に襷をつなぎ、両エースの小池とムチーニ、そして織橋、山口らが持ち味を発揮する。その積み重ねが、2021年以来となるトップ3への道を開く。悲しみを胸に臨んだ全日本で過去最高の3位をつかんだ榎木監督は、箱根でその先の景色を見据えている。

佐藤俊●取材・文 text by Shun Sato

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