この記事をまとめると
■現在、新車の値上げはそこまで目立っていない



■しかし値引きには期待できないという



■ディーラーは販売の新たなスタイルを模索しているようだ



いま値引きには期待できない

筆者は2023事業年度に入るとメーカー希望小売価格、つまり車両価格の値上げが目立つだろうと述べてきた。4月に入ると日産やホンダなど一部メーカーの一部車種の値上げが行われたが、日本経済の特殊性(国民の収入が30年間ほぼ上がらなかったり、収入の半分が税金や保険料などで持っていかれる、だけどモノの値段の上昇が止まらない。でも海外に比べれば物価は異常に安い)もあるのか、モデルチェンジを行っても車両価格が大きく上昇することがないケースが目立っている。



今年1月に正式発売となった新型プリウスがいい例であろう。先代に比べればエモーショナルなその姿もあるが、2リッターのハイブリッドユニットを新たに搭載するなど、目新しさが目立つし昨今の物価上昇の影響も当然受けているだろうが、販売現場では「思ったほど先代より高くなっていない」と話している。



また最近フルモデルチェンジを行ったスバル・インプレッサも価格の上昇はそれほど際立っていないとの情報もある。ただし、これらの車種のような傾向になると、いままでのような値引きを期待することはできなくなるといえよう。事実新型プリウスは値引きゼロでの販売が原則となっている。



3代目アルファードでは一時70万円引きもそれほど珍しくなかった。ただ、それでもパッソ1台売るよりもはるかにディーラーの得る利益は多かった。新車購入に際しての値引き原資はディーラー利益を削るのが大原則。アルファードなど高額車両は高収益車種ともいわれ、台当たり利益が格段に多くなるのが通例であった。最近の新車ではそもそも販売時の極端な値引きを想定しない値付けを行うことで、先代モデルと比べて目立った車両価格の引き上げを行わないケースが多くなっている。少し前にスバルディーラーを訪れた際にセールスマンが、「今後は値引きを抑えた販売(現実的に値引き余力が少なくなる)で利益確保を進めることになるだろう」と語っていたが、まさにそれが今後はスタンダードになっていくかもしれないのである。



このご時世に目立った値上げをしない日本車! 一方で「新車の値...の画像はこちら >>



そもそも、下取り車の有無など条件は異なるものの、交渉次第で値引き額に大きな差が出てしまうことを不公平という意見もあるが、さらに値引き交渉は時間がかかり、それを面倒に感じる人も多かった。

ある意味、昨今のモノ(部品や物流費など)の価格の異常な値上がりによる車両価格の値上げなどを、新車販売の適正化の絶好の機会とメーカーやディーラーは捉えているのかもしれない。



販売する側としては、昨今のマンパワー不足もあり、値引き交渉で商談をいたずらに長引かせることについて、効率が悪いとも捉えるようになっている。販売する人員が十分確保できていないのだから、1件当たりの商談をいかにスピード感持って受注に結び付けるかもいまの日本では重要になってくる。その意味ではいまどきは残価設定ローンを利用しての新車購入比率がかなり高くなっているので、「月々の支払いが●●万円になるなら買う」といった提示条件にセールスマンが合わせるだけの商談がメインであり、過去の現金一括払いばかりのころのような時間のかかる値引き交渉が省けているので、以前よりはスピード感のある商談が展開できているともいえよう。



ディーラーは販売の新たなスタイルを模索している

また最近目立つ、ある意味値引き余力の少ない価格設定は将来的にはオンライン商談の普及へもつながるものと考えている。現状ウェブ会議システムなどを活用したセールスマンとのリモート商談では、値引きアップの決裁を上司にあおぐためにセールスマンがフレームアウトするなどして、なかなか商談自体が盛り上がらないとも聞く。将来的にはトヨタの個人向けカーリース「KINTO」の申し込みのように、ウェブサイトのフォームに入力しながら新車を発注していくことになっていくことも十分考えられる。生成AIと会話をしながら画面入力を進めれば生身のセールスマンが介在しなくてもすむだろう(ローン計算も自動的に行ってもらう)。



そうなれば、いまのような値引き交渉ではなく、値引きがあったとしてもクーポン適用や、タイムセールのようなその時に買おうとしている人なら誰でも同じ値引き条件となるようなスマートな買い方となり、若い世代ほどそうした価値観にフィットするので、この先は問題なく受け入れられていくものとも考えている。今後もセールスマン確保が厳しい状況が進むなかでは、長い目で見れば、オンライン販売の窓口をメーカー(メーカー系子会社)に集約し、現在の新車ディーラーはアフターメンテナンススポットとしての役割をメインとした(店頭販売も細々と継続する)、新車販売の後方支援的立ち位置になっていくのではないだろうか。



幸いと言っては語弊があるが、昨今ディーラーは収益悪化もあり、いままでは下取り査定額に値引き不足分を上乗せすることは半ば当たり前であったのだが、最近はそれもままならなくなっている。日本は諸外国に比べ新車を買ったディーラーに乗っていたクルマを下取りに出す比率がかなり高かった(新車を売るため採算度外視した値引き補填があるため)。

そのため、オンラインで商談を進めていても、下取り対象車をディーラーに持ち込み査定を受けるなど、結局ディーラー店舗へ足を運ぶことになってしまう。アメリカでは乗っていたクルマは個人間売買で売却するのが主流となっているので、オンライン販売も馴染みやすくなっている。日本において今後下取り査定額への値引き不足分の上乗せが期待できなくなれば、買い取り専業店への売却が増えていくだろうし、さらに新車購入の諸手続きの変更なども伴えば、日本でもアメリカのように一度も店舗に足を運ぶことなく(新車のデリバリーサービスというものがあるらしい)新車を購入して納車も可能となるので、オンライン商談の使い勝手がかなり良くなるはずだ。



このご時世に目立った値上げをしない日本車! 一方で「新車の値引き」ができなくなっていた!!
オンライン商談のイメージ



すでに最近登場している日本メーカーの新車でも、メーカーオプションのシンプル化が進んでいる。これもコスト削減もあるのだろうが、オンライン商談の普及には追い風となっていくはずである。



とはいっても、新車購入すべてをオンライン化せよと言っているわけではない。現実問題として、新車購入に際して店舗に出向き、面倒な値引き交渉をしないと新車を購入できないことへ抵抗を示す人は増えているように見える。従来の対面販売は残しながらも、オンライン販売も充実させていくのは、セールスマン不足もあり自然の流れのように見える。



そのなかで、あえてこのタイミングでも、フルモデルチェンジしても車両価格が目立ってアップしていないモデルの存在は、今後の新車販売の新たなスタイルを模索しているようにも見えるのは、けっして錯覚ではないものと考えている。

編集部おすすめ