この記事をまとめると
■はたらくクルマは各国で人気でやはり救急車もご多分に漏れずマニアが大勢いる■イタリアではアルファロメオF12バンやフィアット600ムルティプラなどが救急車となっていた
■メルセデス・ベンツのエステートやシボレーのパネルバンも救急車として実際に使用されていた
世界に目を向けると乗ってみたくなるような救急車があった
人は誰しも救急車や霊柩車のお世話になりたくはないもの。とはいえ、救急車に乗ったことのない方ならば、装備や乗り心地が気になるかもしれません。まして、ちょい古でキャラが立ってるクルマが救急仕様だったりしたら、がぜん興味もわくというもの。
アルファロメオ F12
イタリアの情熱を一身に背負ったかのようなブランドイメージがあるアルファロメオですが、じつは商用車だってたくさん、しかも魅力的なモデルを作ってきました。
この救急車に仕立てられているのは、1968年の「ロメオ3」バン。ロメオは1954年に同社が作ったトラックで、ジュリエッタの1.3リッターツインカムエンジンをデチューンして搭載するなど、なかなかアルファロメオらしいスペックです。もっとも、37馬力といいますから、どちらかといえば商用車らしく「粘り強い」系チューニング(笑)。
搭載ミッションはお馴染みのZF製4速で、それまでのロメオと違って油圧式クラッチを採用していました。また、ディーゼルエンジンも途中で用意されましたが、スーパーチャージャー付き2気筒という奇特なタイプだったためか、極めて不評だったとのこと(笑)。
注目すべきは、フロントに輝く縦グリルでしょうか。アルファロメオのラインアップらしさ満点で、これだけでF12が欲しくなるアルフィスタだっているかもしれません。

なお、ロメオシリーズは1983年までと長寿モデルだったほか、スペインのFADISA(Fabricacion de Automoviles Diesel SA)がライセンス生産をするなど、商用車としてのパフォーマンスは高く評価されています。
フィアット600ムルティプラ
1956年のブリュッセルモーターショーで発表されたダンテ・ジアコーサがデザインしたフィアット600ムルティプラは、巧妙きわまりないパッケージで、現代でも語り継がれているモデル。ムルティプラは、イタリアの狭い市街地に完璧に適したサイズと、効率的な室内空間により、1970年代後半までイタリアの大都市のストリートシーンの定番だったといえるでしょう。
実用的であると同時に汎用性が高いフィアット600ムルティプラは、数え切れないほどのバリエーションが生まれました。その多くはタクシーでしたが、消防車や救急車に仕立てられたものも少なくありません。

こちらはトリノのカロッツェリア「コリアスコ社」によるカスタムで、キャビンはフルサイズのストレッチャーを収容できるように完全に作り直され、救急の目印となる回転灯も追加されています。

ちょこまかとイタリアの街路を走るのは絵になる気もしますが、一刻を争うような搬送にはどんなもんでしょう。エンジンが唸るばかりで、なかなかスピードが乗らなかったりするでしょうから、運ばれるほうとしては微妙かもしれません(笑)。
往年の古き良き時代を思わせる欧・米2台の救急車
メルセデス・ベンツ170SV
第二次世界大戦から後のメルセデス・ベンツは、ご存じ「最善か、無か」のモットーを掲げ始めましたので、乗用・商用を問わず、そりゃもう完成度の高いモデルばっかり。W136シリーズ170は、当初リムジーネ、つまり乗用サルーンとして開発されて人々のアシとなり、次いでkasten liefenwagen(バン)とkombiwagen(エステート)といった商用バリエーションが広がりました。
こちらの救急車に仕立てられたのは1954年の170で、特殊用途むけのfahrgestelle(ベアシャシー)を用いたKrankenwagen-Lueg-Motor(自動車救急車)でした。

45馬力、1767cc直列4気筒エンジン、4速マニュアルギヤボックス、4輪独立懸架サスペンション、4輪油圧ドラムブレーキと、当時としては最上級のスペックをもたされています。
運転席後部には仕切り窓があり、後部コンパートメントには患者用トイレとアテンダント用の折りたたみ式シートを装備。また、リヤエンドにはヒンジ式カーゴドアのほか、助手席側にもサイドドアを設けるなど、現代のユーティリティとほぼ同じレベルでしょう。

もっとも、押し出しの強いグリルや、地味なグレイのボディカラーなど、赤十字マークがなければ霊柩車に見紛うようなスタイル。威厳というか、存在感の高さはさすがメルセデスと唸らずにはいられません。
シボレー・ベルエア・パネルバン
ご紹介したなかで、もっとも乗りたくなるのがベルエアのパネルバンではないでしょうか。とにかく1950年代の雰囲気が醸す雰囲気はヨーロッパのメイクスとはまったく違ったもの。

3.5リッター直6エンジン、コラムの3速マニュアルシフト、そしてシボレーお得意のニーアクションサスペンションなど、商用車としては十分なスペック、そしてなにより丈夫さがアメリカ人から大人気!
救急車へのトリミングは標準的で、サイレン、回転灯、そしてストレッチャーを積んでもアシスタントが乗れるようにオフセットされた補助シートくらいでしょうか。

ただし、こちらのサンプルは地元ボランティアで構成される消防団が所有者だったとのことで、パレードラン対応装備もなされています。つまり、トロトロゆっくり走る際、オーバーヒート防止のために冷却ファンスイッチが追加されているのです。
なお、オークションでの落札価格は2万ドル弱(およそ300万円弱)と、なかなかにリーズナブル。サイレンを鳴らしての走行は難しいでしょうが、それこそ街なかをゆったり流してみたくなる救急車ではないでしょうか。