この記事をまとめると
◾️トヨタが全国の系列ディーラーに、従業員ひとりあたり月額1万円を支給することを発表



◾️今回の資金提供にはディーラーで働く従業員たちを囲い込む狙いがあると思われる



◾️近い将来、各ディーラーは人員の確保が困難になることが予想されるため、販売の無人化などの対応が求められる



ディーラーのセールスマン・メカニックを取り巻く現状とは

トヨタが全国のトヨタ系ディーラー、レクサス店、トヨタレンタリースなどを対象にして、従業員ひとりあたり月額1万円を2024年4月より支給するとの報道があった。報道によると、処遇や職場環境を改善する原資に充ててもらうことを目的に支給するとされている。



ディーラーにおいては、セールスマンよりメカニックの離職が目立っている。

セールスマンは基本給に加え、販売台数に応じたセールスマージンがもらえるが、メカニックにはそのようなものはない。さらにここ最近は残業が厳しく制限されているので、残業手当もつかないなか、休憩は昼食時ぐらいといってもいいぐらい日常業務が過密なものとなっていると聞く。



新車もセルフレジ的な販売にするしかない? トヨタのディーラー...の画像はこちら >>



ユーザーの囲い込みなどをねらった、あらかじめ決められた期間の点検・整備及び交換油脂や部品代を前払いすることで割安となると売り込んでいるのが「メンテナンスパック」だが、ディーラーによっては整備工場が忙しすぎて、法定ではない任意の点検については、「その分のお金は返すのでやらないで欲しい」とお客を選んで(クレームがこないような客)伝えているとも聞く。セールスマンも含め各店舗スタッフは十分な人数が確保できないなかで運営されており、とくにメカニックの負担は大きいようだ。



トヨタが支給するとされている1万円が、いまの販売現場の置かれている職場環境改善にどこまで実質的効果があるのかは読み切れないが、「メーカーが自分たちのことを考えてくれている」とスタッフが思ってくれれば、少なくとも精神面では癒されることになるかもしれない。



新車もセルフレジ的な販売にするしかない? トヨタのディーラー従業員に「一律1万円支給」に見る新車販売現場の深刻な現状
自動車の商談のイメージ



セールスマンについては、過去に活発に業界内を転職して渡り歩くことも珍しくなかったが、それはあくまでもそれまで売ってきた顧客名簿とセットでの話。

いまは個人情報保護法もあり、顧客名簿をもち込んでの転職はできなくなっているので、昔ほど活発に業界内を渡り歩くことはできなくなっている。それでも、日系ブランド、とくにトヨタ系ディーラーのセールスマンやメカニックは優秀とされているので、今後、外資ブランドがリアル店舗での販売を国内で新規に始めることになれば、積極的な引き抜きが行われることも十分考えられる。



新車販売業界以外での外資ブランドの人材獲得の動きを見れば、高額なギャラの提示はお約束なので、今回の動きには人材流出防止という狙いもあるのかもしれない。



販売拠点の維持には、業務の無人化・自動化が不可欠!

とにかく、新車を売っているだけでは利益が出ないというのがいまの新車販売業界。それまで稼ぎ頭としてきたアフターメンテナンスや物販も、ここのところの諸物価高騰の影響を受けて利益がままならなくなっており、いまは新車ディーラーであっても中古車販売に力を入れていると聞く。



新車もセルフレジ的な販売にするしかない? トヨタのディーラー従業員に「一律1万円支給」に見る新車販売現場の深刻な現状
認定中古車を販売するディーラーのイメージ



労働集約型産業ともいえる新車販売業界なので、今後オンライン販売に特化するという道もあるが、日本は世界的に見ても厳しい車検などの点検・整備制度があるので、いまの販売拠点を整備専門拠点(店頭販売をオマケにする)としてある程度は残す必要が出てくるだろう。

また、オンライン販売は韓国では定着しつつあると聞くが、アメリカではオンライン販売の利用は限定的ともいえ、店頭販売を軽んじることはできないとも聞いている。



ファミリーレストランを中心に、いまではネコ型配膳ロボットがかなり活躍するようになっている。なぜネコなのかというと、ヒト型ロボットだと構える人が出てくるが、動物型や空想型などキャラクター型ロボットだと、ほとんどの人は問題なくそれを受け入れるといったことを聞いている。だからといって「ネコ型ロボットセールスマン」が新車を販売するわけにはいかない。ただし、消費者金融などの無人型融資コーナー(モニターでスタッフが遠隔対応したりするタイプ)というスタイルは近未来のディーラーでは出てくるかもしれない。



新車もセルフレジ的な販売にするしかない? トヨタのディーラー従業員に「一律1万円支給」に見る新車販売現場の深刻な現状
配膳ロボットのイメージ



国内販売トップのトヨタでは、値引きゼロや値引き額数万円という車種がかなり増えてきている。

新車販売の定番である値引き交渉は、現金一括払いではなくローンを利用する場合は、月額の支払い額をいくらにするのかの交渉になるし、そもそも値引き原資が少ないので、粘って交渉しても拡大することはまず期待できないので、オンライン販売とリアル店舗商談の中間のような無人販売は可能性を秘めているように見える。



つまり、店舗は基本整備専門となり(レクサスなど高級車を扱うディーラーはいままでと変わらない)、いまのスーパーのレジのように限られたセールスマンを配置し、無人型セルフ商談機のようなものが設置され、限られたスタッフがセルフ商談機の使い方で迷ったお客をアシストするというのは、働き手不足がますます進むなか、デジタル化がいまひとつ遅れている日本では馴染みやすいかもしれない。



いまの販売拠点を十分維持できる人員はすでに確保されていない。そのなか現状の販売ネットワークを維持するのならば、せめて商談の限りない無人化だけでもまずは始めてみる価値はあるように見える。