熟練メカニックならタイヤ脱着が数秒で可能になる

乗用車のホイールは5穴か4穴が主流。しかし、F1をはじめレーシングカーや、ポルシェやフェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレンなど、一部のスーパースポーツモデルは、1穴=センターロック式を採用している。センターロックのメリットは、ホイールひとつにつきナットがひとつしかないので、あっという間にタイヤ交換ができること。

1/100秒、1/1000秒を争うF1の世界では、レース中のタイヤ交換作業は2秒台で済ますのが当たり前! それだけの速さを求めるのなら、センターホイールに行き着くのも納得できる。
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レースで使えるぐらいなので剛性も高いし、ホイールのデザインも4穴や5穴よりかなりすっきりさせることもできる。ではなぜセンターロック式は普及しないのか。それはやはり、費用対効果が見合わないから。センターロックの一番のメリットはスピーディなタイヤ交換だが、雪国でも年に2回しか交換しないタイヤのために、そのような速さは必要ない。しかも、センターロック式ではひとつのナットで確実に締結させなければならないので、規定締め付けトルクがメチャクチャ高い! 例えばポルシェ997のGT3の締め付けトルクは、600Nm!

タイヤ交換が劇的にラクになると思えるけどなぜ? レースカーやスーパーカーが採用するセンターロックナットが普及しないワケ



これだけの締め付けるトルクが必要になると、1mを超える長いレンチと特殊な大きなソケット、さらに専用のトルクレンチも必要。交換作業も下手をすると、レンチを回す人とソケットを押さえる人、そして車内でブレーキを踏んでいる人まで必要になる。当然、素早い交換作業なんてできっこない……。

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工具や部品代は3桁万円を超える!

レースのように強力なトルクを誇るインパクトレンチを使えば一発で決まるが、センターロック用のインパクトレンチは、ひとつで100万円コースといわれる。人件費と特殊工具だけでも、市販車にはどう考えたってメリットはない。しかも、センターロック化するための部品代もべらぼうに高い。ランボルギーニのフロント20インチ、リヤ21インチ用のセンターロック用の部品一式で、一台分約200万円!

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また安全面でも、多穴ナットのホイールなら、1本や2本(?)ナットがゆるんだり不具合が出てしまっても、安全な場所まで走行し続けることが可能だが、センターロックではナットのトラブル=即脱輪に繋がり、危険度が高い(実際、レースでもホイールが外れるシーンはときどきある)。
逆にいえば、一般的な4穴、5穴タイプは、安価で、確実。特殊工具もいらないので、交換作業に苦労しない。こうしたメリット・デメリットを比較すると、当面、普通の市販車にセンターロック式が採用されることはないだろう。

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