車両重量や搭載スペースの問題によって搭載できなかった
基本型のFF・2BOXに始まり、ミニバン、クロスカントリー4WD、2シータースポーツカー、スポーツターボ4WDと、いわゆる普通乗用車で見られるほとんどの車型、メカニズムがそろう軽自動車だが、それでも普通乗用車にあって軽自動車にないものがいくつか存在する。
とくに気になるのはエンジン、あるいはパワーユニットの構成方式だが、今回は軽自動車サイドに立ち、普通自動車にあって軽自動車にはないメカニズムがなぜなのかを考えてみることにしたが、まずその前に、軽自動車が持つ独自性、特殊性を振り返ってみることにした。
現行の軽自動車は、エンジン排気量660ccまで、全長×全幅×全高は3400×1480×2000(mm)以下、乗車定員大人4名までと、車両が小型軽量コンパクトに規格された点に特徴がある。
いい替えれば、上級、上質を目指す重厚長大、華美華飾の車両性格を排除する代わりに、本質的な価値である経済性に優れた実用性を重視し、結果的に高効率、合理性の上に立脚した車両として成長を遂げてきた。
1)フルハイブリッド
こうした意味では、まず気になるのが時代性に則した最先端メカニズム、ハイブリッドシステムだろう。スズキにマイルド・ハイブリッドと呼ばれるシステムもあるが、電動モーターに動力源を依存し、燃費性能(=二酸化炭素排出削減)や内燃機関との複合使用で動力性能の向上を意図した普通乗用車のハイブリッド・システムとは一線を画す働き方のシステムだ。
マイルドハイブリッド方式はモーター、電池を簡素化し(その分だけモーター走行領域は狭くなる)、HVシステムの重量を抑えながら、内燃機関に上乗せして使うことで燃費性能の向上を図った方式だ。逆にいえば、軽自動車の車体規格のなかで、普通乗用車と同じHVシステムを構築すると、車両重量の増加や搭載スペースで大きな問題を抱え込むことになり、また車両コストも跳ね上がることから、ハイブリッド化によるメリットよりデメリットのほうが大きいと判断され、現行の軽自動車では見当たらないシステムとなっている。

搭載車種が限られるものやメリットを生かせないものも存在
2)ディーゼルエンジン
ディーゼルエンジンも軽自動車では見られない機関方式だ。大きな理由のひとつとして、軽自動車の660ccという排気量は、動力源としてディーゼルエンジンを成立させるには容積が不十分であることが挙げられる。ディーゼル機関のメリットは熱効率に優れる点にあるが、小排気量だとこれを確保することが難しくなるのだ。
もちろん、歴史的に見て、かつてダイハツがシャレード用に開発した993ccのCL型SOHC3気筒ディーゼルターボ(50馬力、実用燃費36.54km/L、ギネス記録)や、2015年にスズキが現地法人マルチ・スズキ・インディアの現地生産モデル、セレリオ用に開発した792ccのE08A型4バルブDOHC2気筒ディーゼルターボ(48馬力、実用燃費27.62km/L)などの例もあり、まったく可能性のない方式ではないが、日本のように最先端の自動車工学技術が投入され商品作りが行われる成熟した自動車市場を前提に考えると、コストも含めて軽自動車用としては、メリットよりリスクのほうが大きなメカニズムとなってしまう。

3)ロータリーエンジン
同様の理由で、軽自動車用としてありそうでなかったメカニズムがロータリーエンジンである。ロータリーエンジンは、マツダ(旧東洋工業)がドイツNSU社から生産、製造に関するライセンス契約を締結し、1967年コスモ・スポーツで実用化に成功したエンジンだが、軽量コンパクト、高出力という一側面だけでこのエンジンを支持し続けてきた一部の評価は過ちである。

実際、ロータリーエンジンには、熱効率面で不利、高回転高出力性、排出ガス対策(2酸化炭素削減)、実用可能な排気量枠という諸問題があり、搭載車種や形態が自ずと限られることがわかってきたエンジンである。
日本の場合、ロータリエンジンの対レシプロ排気量換算は1.5倍とされているため、軽自動車用は440ccが排気量上限となる。

軽自動車用としてありそうでなさそうなエンジンやパワーユニットの方式について考えてみたが、普通乗用車とは比較にならないほど重量やサイズ、コストで制約を受け、実用性能を最優先した経済性が軽自動車の生命線であることを再確認させられた検証となった。