同じ車体でも車種ごとに味付けが違うヒミツ

クルマの世界では、基本、中身が同じ、兄弟車というべきモデルがある。ひとつはOEM(Original Equipment Manufacturer)車で、ある自動車メーカーが製造するクルマを、別の自動車メーカーに供給したり、共同開発するものだ。具体例としては、日産デイズと三菱ekワゴン/クロス、トヨタ・ルーミーとダイハツ・トール、トヨタ・ライズとダイハツ・ロッキーなどがある。



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そして海外の自動車メーカーが製造したクルマを日本向けにアレンジしたモデルもあり、たとえばホンダには、かつて初代ホンダ・レジェンドが英国のローバー800シリーズ、コンチェルトもローバー200シリーズ、クロスロードはランドローバー・ディスカバリーと、いくつかのOEM車があった。スバルのトラヴィックはオペル・ザフィーラである。これらは顔つきなどエクステリアの一部を自社仕様にしたぐらいで、基本的な装備、走行面に変わりはない。しかし、価格は本家に比べかなり安く、お買い得でもあったのだ。



基本は同じでも「走り」が全然違う! メーカー違いの「兄弟車」に「個性の違い」が出る理由



ただし、マツダ・ロードスターとイタリアのアバルト124スパイダーのように、エクステリアだけでもかなりの違いがあり(フロントオーバーハング含む/アバルトのほうが長い)、エンジン(ロードスターはNA、アバルトはターボ)、サスペンションも別物、という例もあり、当然、走りのテイストもかなりの違いがある。共同開発ではないにしても、アバルトはかなりの部分に手を入れているわけだ。

もっとも、両車ともに生産はマツダの広島の工場である(現在アバルト124スパイダーは生産終了)。



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さて、本題である。基本中身は同じなのに「走りが違う」クルマとして、トヨタ86とスバルBRZがある。新型もスバルとトヨタの共作であることは先代通りで、設計、生産はスバル、企画やマーケティングをトヨタが担当する。



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ただし、両車それぞれのメーカーのテストドライバーが走りの味付けを行い、また走りにかかわる細部のアイテムもそれぞれメーカー独自のものを採用しているから面白い。たとえば、フロントのハウジングの素材(BRZはアルミ、GR86はスチール)、サスペンションのスプリングレート、スタビライザーなども異なり、BRZのほうがややソフト、ステアリングの応答性も穏やかなセッティングとなっているようだ。



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こうしたポイントは、スポーツカーとして狙い定めた方向性の違いによるものと言ってもいいかもしれない。もちろん、両車ともに同排気量のエンジンだが、その操縦感覚、パワーフィールも独自の味付けになっている。考えても見れば、両自動車メーカーとして、自社の独自のテイストを出さなければ、意味がないだろう(だからそれぞれに熱いファンがいる)。バッジだけが違うスポーツカーには決してしたくはないというわけだ。



そして、見た目のシルエットこそ変わらない両車だが、走れば、86はオンロードの高車速域でのスポーツ性能が光り、しかしエンジンサウンドは控え目。BRZはエンジンのパワフルさ、パンチ力を感じやすく、また雪道でのトラクション性能、安定感にも配慮されている……といった違いがあったりして、運転スキルのある人なら、両車を乗り比べれば、その違い、そしてどちらが好みかがわかるに違いない。



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先代を思い起こせば、より幅広いユーザーに向く、サーキット走行も楽しめる自然なドライブフィールを特徴とするのがBRZ、ドリフトなどマニアックな走りの世界を好むユーザーに向いているのが86という構図は、新型でも大きくは変わっていないようだ。



輸入車では昔からよくある手法

兄弟車のスポーツカーでは、トヨタ・スープラとBMW Z4も見逃せない2台。両車はこの時代にスポーツカーを開発、製造する上でのリスク、コストダウンを図る意味もあって2012年から協業を開始。基本部分を共用し、なおかつどちらもオーストリア マグナ・シュタイヤー社で製造される兄弟車である。



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が、エクステリアはまるで異なる。どちらもほぼ同じボディサイズを持つ2シーターのスポーツカーだが、スープラはクラシックなクローズドボディ、Z4は電動ソフトトップを備えたオープンモデル。ただし、インパネなど、コクピットはパッと見、かなり似ている。

ATセレクターも同様だ。細かい点では、ウインカーレバーの位置は両車ともに左側にある。日本側では、それが世界基準であり、コスト削減の意味もあると説明されている。全体的な質感は、やはりプレミアムブランドのZ4のほうがやや高いのは当然だろう。



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パワーユニットは両車ともに2リッター直4ターボと3リッター直6ターボを用意。後者の340馬力、51.0kg-mのスペックも等しい。

しかし、Z4は電動ソフトトップを採用するため、車重はスープラより50kgほど重く、エンジンの回転フィール、高回転への上昇フィールはスープラのほうがやや鋭く感じられる……という違いがある。



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スポーツ度ならスープラ、BMWのオープンモデルらしいグランツーリスモ的な走りに期待するならZ4ということになるだろう(それでもZ4は十二分にスポーティだが)。もちろん、開発責任者(スープラは86と同じ多田さん)、テストドライバーも違うのだから、走りのテイストが違って当然と言えば当然だ。言い換えれば、いかに独自性を持たせるかの、トヨタとBMWの意地の見せどころでもあったはずだ。



基本コンポーネントは同じでも装備を見れば価格差大なモデルも

今夏、もっとも新しい兄弟車の2台が、VWゴルフ8とアウディA3だ。プラットフォームはどちらもMQBであり、マイルドハイブリッドの1リッター3気筒ターボエンジンを採用するあたりも変わらない。

ミッションもともに7速の2ペダルセミオートマだ(VWはDSG、アウディはSトロニックと称する)。もっとも、ボディサイズは微妙に異なり、A3のほうが全長、全幅ともに大きく、しかし全高は低いプロポーションをとる。



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が、いわゆる大衆車ブランドのVWとプレミアムブランドのアウディで、走りのテイストが同じはずもない。1リッターターボモデル比較では、ゴルフは16インチタイヤ、A3の1st editionはなんと18インチタイヤを履いていたりする(標準は17インチ)。



A3はなるほど、プレミアムブランドのコンパクトカーらしく、より静かで滑らかな走りを見せる。が、アウディ一流の内外装、乗り味の上質感に対して、1リッターターボエンジンでは物足りなく感じてしまうかもしれない。できれば2リッター直4ターボエンジンを積むモデル(40TFSI)で、プレミアム感を堪能したいと思わせる。その点、ゴルフなら1リッターターボエンジンでも、軽やかな中にゴルフならではの高い質感を持つ走りに満足でき、また、世界基準のベーシックカーとして相応しいと思えるのも本当だ(ゴルフ7の走りの質感に近いのは1.5リッターターボ+17インチタイヤだが)。



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ちなみに、価格はアウディA3スポーツバックでもっとも安い30TFSI(110馬力、16インチタイヤ)が310万円。ゴルフ8で下から2番目のグレードとなる実質的なベースグレードのゴルフe TSI Active(110馬力、16インチタイヤ)は312.5万円。おやおや、ほぼいっしょじゃないか? と思ってしまうのだが、さにあらず。A3の場合、ゴルフに全車標準装備されるACC(アダプティブクルーズコントロール)などが47万円のセットオプションとなり、純正ナビゲーションの価格も高く、ボディカラーもほとんどが有償となるため、ならしてみると、じつはけっこうな価格差があったりする。



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もちろん、内外装、走行性能を含め、A3にアウディならではのプレミアムブランドとしての誇り、プレミアム感の演出があるのは当然で、そうでなければそうした値付けが正当化されるはずもない。ただ、両車を同時に乗り比べなければ、最新のゴルフは国産コンパクトカーと一線を画す、先進性、商品性を味わえ、満足できるのも本当だ。そのあたりは、兄弟車でも、走りの味付けの違い(個性)がメインとなるスープラとZ4、BRZと86との比較と異なる点と言っていい。