この記事をまとめると
◼︎2021年のカーオブザイヤーを日産ノートシリーズが受賞◼︎日本にあったプレミアムコンパクトカーを振り返る
◼︎あまり日本では根付かなかった文化ではあるが、ノートオーラは大成功の兆しがある
日本でも高級路線のコンパクトカーはあるにはあった
2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したのが、日産ノート/ノートオーラ/ノートオーラNISMO/ノートAUTECH。5ナンバーサイズのノートの評価の高さもさることながら、3ナンバーサイズとなったノートオーラは、何とルーフとフロントドア以外はノートと別物。
トレッドの拡大、17インチタイヤの装着、そして先進感溢れる装備、ワディング10mm(低反発層)とソフトウレタン20mmの高級車並みの30mmのソフト層を持たせた3層構造の本革シート、あちこちにあしらわれたツイード調織物、高級感ある15もの工程を経た微細加工の木目調パネルなどを採用し、上質コンパクトをテーマに開発。

まさに日本車が不得意としていた「小さな高級車」、プレミアムなコンパクトカーをついに国産車で実現したと言っていい力作であり、2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞の大きなポイントとなったことは間違いないだろう。筆者もそうしたところを評価させていただき、2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤーでノート軍団に満点の10点を投票したひとりである。
しかし、これまでも国産コンパクトカーに「小さな高級車」、プレミアムなコンパクトカーを謳うクルマがあるにはあった。が、基本的には既存のコンパクトカーにちょっとした化粧を施し、高級感を”演出”していただけのクルマがほとんどだった。

過去の欧州車にあった、英国BMC(ブリティッシュモーターコーポレーション)によるバンデンプラ・プリンセスや、比較的新しいところではルノー5バカラといった本物の「小さな高級車」は、日本では大量生産、コスト重視の国産コンパクトカーでは、ユーザー側の価値観の違いもあって、実現するのがなかなか難しかったと言えるだろう。
これまで、プレミアムなコンパクトカーを目指した国産車は、まずは2004年に登場し、2004-2005日本カー・オブ・ザ・イヤーでベストバリュー賞を受賞した、シンプル・クォリティ・コンパクトを標榜するマツダ・ベリーサだ。ベースは当時の2代目デミオ。

なんとなく往年のミニを意識したようなデザインで、当時のコンパクトカーとしてはめずらしいハーフレザーシートの用意まであったのだが、今ひとつ高級感に欠けるもので、広島では多数見かけられたものの、全国的な人気を得るところまではいかず、2016年まで長きに渡って生産されたものの、1代で消滅。とはいえ、そうしたプレミアムコンパクトのコンセプトは、3代目デミオ、マツダ2の標準車にしっかりと引き継がれている。

国産プレミアムコンパクトとして一定の存在感を示したのが、トヨタ・プログレである。実際、1998年のデビュー時、「小さな高級車」と謳われて登場。当時のトヨタの最上級サルーンのセルシオをスケールダウンしたかのようなモデルであり、駆動方式は高級車にふさわしいFR。

ただ、価格的にはクラウンとかぶり、エクステリアデザインに華がなかったことから、販売は思ったほどではなかった。兄弟車にはブレビスもあったのだが、1代限りで消滅している。もっとも、ノートオーラクラスとは車格が違い、厳密にはコンパクトカーではないから、国産車初の「小さな高級車」は、やはりノートオーラになるだろう。
1台をベースにさまざまなバリエーションを展開した例も
元祖クリエイティブムーバー、アイディアや発想に優れたクルマ作りは得意でも、高級車作りはあまり得意ではないとされるホンダにも、かつて「小さな高級車」があった。それが1988年デビューのホンダ・コンチェルト。

当時、ホンダが提携していた、シビックをベースにローバーと共同開発したコンパクトセダン。とはいえ、エクステリアは地味で、インテリアに英国テイストの高級感は乏しく、ホンダ車っぽくない、という声もあって、わずか4年の短命となった。
「小さな高級車」とは謳っていなかったものの、結果、「小さな高級車」を誕生させたのが、2008年に日欧向けにトヨタから発売されたiQである。全長2985mmと、軽自動車よりショーティなボディに、3+1名のキャビンを構築した、コンセプト優先のマイクロカーだった。

そのエクステリアデザインはいま見ても斬新で、小さいながらも存在感あるもので、2009年にはGRMN(GAZOO Racing tuned by MN)モデル、2012年にはそのGRMNスーパーチャージャーバージョンも加わり、マニアの間で話題を呼んだ。とはいえ、価格と大きさ、居住性、実用性を考えるとかなりニッチなクルマであり、プレミアムでもあるのだが、販売台数に結びつかなかったのも事実で、2016年までの1代で消滅(極狭駐車場の人には需要ありだが)。

ただし、そのiQ をベースになんとアストンマーティンがシグネットという車名で発売。内外装のアストンマーティン化はもちろん、パワーユニットまで独自のものを用意し、まさにマイクロプレミアムという希少なクルマを創造したのである。

ただ、プレミアム化したのはアストンマーティンだから、純国産コンパクトプレミアムと呼べないのが惜しまれる(だからノートオーラが国産車初のプレミアムコンパクトというわけだ)。
最後に、「小さな高級車」を実現した日産ノートオーラの本気度を浮き彫りするのが、以前のノートにあった上質、高級グレードのメダリストとの比較だ。メダリストのキャッチコピーは「それは、あなたらしさを豊かに彩るプレミアム」。さらに、「今まで存在しなかったプレミアムコンパクトの誕生です」とも謳われていたのである。とはいえ、内外装、装備、パワーユニット、足まわりともに標準のノートと大きく変わるところはなく、乗って、走って、「プレミアム!」と感じさせることはなかったと記憶する。

ゴールドっぽい専用ボディカラーやメダリストのエンブレムが唯一のプレミアムの証!? ……と云ったら怒られそうだが……。ノートメダリストというグレードが最新の3代目に引き継がれなかったわけで、グレード的には撤退と言えるが、それはもちろん、本気の上質、プレミアムコンパクトのノートオーラの企画、設定が決まっていたからにほかならない。