警視庁本部の課長だった男性警視正(60)が、部下に不機嫌な態度を取るいわゆる「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」で、2025年12月に警務部長注意の処分を受けていたことが報道からわかった。
男性は2021年9月から25年9月にかけて、日常的に不機嫌な態度で接し部下を委縮させ、職場環境を悪化させていた。
過去にも周囲や上司から問題を指摘されていたという。男性は3月9日付で辞職した。辞職は処分とは関係なく、事実上の定年退職に当たるという。
フキハラとパワハラ(パワーハラスメント)に違いはあるのか。男性に下された「警務部長注意」は妥当な処分なのか。労働問題に詳しい松井剛弁護士に話を聞いた。

フキハラはパワハラの一種?

本件は、警視庁などに寄せられた「(男性から)パワハラを受けている人がいる」という複数の内部指摘によって発覚したようだ。
しかし、警視庁は最終的にパワハラの認定を行っていない。その理由は、被害者とされる人物に、パワハラを受けているという認識がなかったためだったという。
しかし、そもそも「フキハラ」と「パワハラ」に明確な違いはあるのだろうか。
松井弁護士は、厚生労働省が定めるパワハラの定義を以下のように示したうえで、「フキハラもパワハラに当てはまり得る」と話す。
<パワハラの定義>
①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
②業務上必要かつ相当な範囲を超えて行われること
③身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること
ただし「不機嫌さ」は、ハラスメントの“程度”が測りにくいと松井弁護士は指摘する。
「典型的なパワハラであれば、殴ったり暴言を吐いたり、第三者にもハラスメントがわかりやすい。
一方で、たとえば『ムスっとしてるけど、話は聞いていて返事はする』という状態はフキハラと言えるか、言えたとしてどのくらい重く判断するか、意見が分かれると思います」

「部長注意」という処分の妥当性

“程度”の評価が難しければ、自ずと“処分”の判断も難しくなる。今回の事案では、警視庁は男性に「警務部長注意」の処分を下している。
松井弁護士は「本件の処分の妥当性を語るには情報が少なすぎますが」と前置きしつつ、「『警務部長注意』という処分が下されているところを見ると、具体的なエピソードがあり、本人が事実を認めた部分もあったのだろうと思います」と推測する。
「しかし、単に不機嫌だったという理由だけで、これ以上重い減給や出勤停止といった処分をいきなり下すことは警視庁としても難しいと思います。
もちろん何度注意処分があっても直らなければ、最終的により重い処分に至る可能性はあり得ますが、パワハラであっても初めての処分はやはり注意から行われることが多いです。普通の人は、処分に納得がいかなかったとしても、一度注意されれば意識しますから」(松井弁護士)

フキハラの法的責任

暴言や暴力といった直接的な“攻撃”であれば、被害者は民事訴訟で慰謝料等の損害賠償を求めることもできるだろう。しかし不機嫌な態度や表情は、法的に責任を追及することも容易ではないと松井弁護士は話す。
「損害賠償請求をするとなれば、フキハラの事実を裁判所に認めてもらう必要がありますから、動画や音声など、多くの人がこれは損害賠償の対象になると感じるような証拠が必要です。しかし先にも述べたようにフキハラの判断は、その場にいなかった第三者にはとても難しいものです。
仮に証拠によってフキハラが認められたとしても、典型的なパワハラ事案よりも慰謝料は少額になるでしょうから、費用倒れになってしまう可能性も大いにあります」
他方で、職場の環境改善が目的であれば、弁護士が助けになれることもあると松井弁護士は続ける。
「依頼者がフキハラでストレスを感じているのであれば、弁護士が代理人となり、会社側へ加害者への指導を求める書面を送るなど、職場環境を正常化させるためのお手伝いはできると思います。その場合は、フキハラの有無を裏付けるために、裁判で必要とされるほどの厳格な証拠は必要ありません」

フキハラが招く組織のリスク

当然だが、処分が軽いからといって、フキハラは許容される行為ではない。
誰もが安心して発言や質問ができる状態を「心理的安全性」と呼ぶが、フキハラはこの状態を壊し得る。
部下が「上司の機嫌を損ねたくない」「相談しにくい」と感じるようになれば、重大なミスやトラブルの共有が遅れ、結果として組織全体が致命的なダメージを受けることにもなりかねない。

松井弁護士は一社会人の視点から、職場における「機嫌」の重要性をこう強調した。
「たしかに職場でニコニコしていなければならないという義務はありません。しかし当たり前の話ですが、自分の機嫌の良し悪しで、他人に対する態度を変えるべきではありません。仕事をしている以上、体調管理と同様に機嫌を整えるのも大切です」


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