5月12日、アフリカ出身で難民と認定されている男性が、「日本国籍への帰化を不許可とされたのは違法である」として処分の取り消しと国家賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は男性側の訴えを退けた。

会話ができても「日本語能力」が認められず

原告のエリックさん(仮名)は2013年10月に来日、2年後に難民認定を受けた。2018年に帰化を申請したが2020年に不許可とされる。
2021年に2度目の帰化申請をしたが、こちらも2022年に不許可となった。
2023年4月、エリックさんは2度にわたる不許可処分の取り消しを求めて、本訴訟を提起。なお、同年9月に3度目の帰化申請をしたが、2025年に不許可とされている。
判決後に会見を開いた原告代理人の鈴木雅子弁護士によると、本訴訟の主な争点は帰化の審査に関する「日常生活に支障のない程度の日本語能力」という条件の正当性について。
帰化(普通帰化)については国籍法5条で住所や生計など複数の条件が定められているが、そのなかに「日本語能力」に関する条件は含まれていない。
しかし、帰化手続きについては行政(法務大臣)に裁量の余地が認められており、「日常生活に支障のない程度の日本語能力を有するなど、日本社会に融和している」ことが法律にはない条件として設定されてきた。
さらに、上記における日本語能力には、日常的な会話のみならず読み書きに関する能力も含まれる。そして国側は、エリックさんは複数回の日本語テストで基本的な読み書きができなかったと主張している。
一方、原告側は、エリックさんは日本語での会話が可能なことから「日常生活に支障のない程度の日本語能力」を有していると主張。本訴訟においても、エリックさんは尋問に日本語で受け答えしていた。
しかし裁判所は「書く能力も含めて評価した場合において、原告に日常生活に支障のない程度の日本語能力があったと認めることは困難というほかはなく、原告が本件条件に適合していたとはいい難い」として、訴えを退けた。
また、エリックさんは日本の大学院の博士課程を修了しており、その専門性を国際機関で活かすというキャリアを計画している。
しかし、日本国籍への帰化ができなければパスポートを取得できず、銀行口座の開設も困難であるなど、キャリアに重大な支障が生じる。
上記の理由に基づき、原告側は国に不許可処分の取消しと、同処分による損害の賠償を求めたが、裁判所は処分の違法性を否定し、いずれの請求も棄却した。

帰化の条件は今年4月からさらに厳格化

日本も締約している難民条約34条は「締約国は、難民の当該締約国の社会への適応及び帰化をできる限り容易なものとする」と定めている。本訴訟では、エリックさんの帰化申請を不許可とした処分が難民条約に違反しているか否かも争点となった。
関聡介弁護士によると、原告側は、読み書きを含めた日本語能力の条件を厳しく設定することは、難民の帰化を困難にするという点で難民条約に違反していると主張したという。
しかし、裁判所は、現状の条件は法務大臣の裁量権の範囲内であり適法である、また難民条約は締約国に具体的な義務を課すものではないとして、原告の主張を退けた。
帰化手続きは不許可となった場合にも理由が開示されないという点で、行政手続きのなかでも特殊だ。鈴木弁護士によると、もともと日本で帰化が許可される件数は非常に少なく、処分の理由も不明であることから「ブラックボックス」と呼ばれてきたという。
本訴訟においても、不許可処分の理由が開示されなかったことは争点のひとつとなったが、帰化手続きに関する処分については行政手続法の適用が除外されており(同法3条1項10号)、また前述のように難民条約は締約国に具体的な義務を課していないとして、適法であると裁判所は判断した。
また、今年4月1日から、原則として10年以上在留していることを条件とする(※)、税金や社会保険料の納付状況が確認される期間が延長されるなど、法務大臣の裁量に基づき審査の条件が加重されている。
※国籍法上の条件は5年
しかし、上記の新条件が発表されたのは3月27日。鈴木弁護士は、このように重要な行政手続きの条件変更が運用開始のわずか5日前に発表されることは、通常ならあり得ない事態であると指摘する。

「今回の判決が、このような事態に対して警告を発してくれるものになることを期待していたが、残念ながらそうはならなかった」(鈴木弁護士)


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