なぜ「即時無力化」なのか…
「不用意な銃撃は、リスクを『可能性』から『確実性』へと増大させる」こう警告するのは、岐阜大学名誉教授で野生鳥獣の保護管理を専門とする鈴木正嗣氏だ。鈴木氏は環境省の鳥獣プロデータバンクに登録されるコーディネーターとして、銃器を用いる捕獲手技や体制整備について行政等への助言を続けてきた。
そうした中で、同氏が強調するのが「即時無力化」だ。文字通り、「即時」にクマを「無力」にすることで、「命中した『地点』で動きを止め、逃亡もしくは反撃のリスクを可能な限り抑制することが目的」だ。単に「クマの体のどこかに弾を当て、最終的には死亡させること」とは一線を画す。
この考え方は、環境省が今年4月に改訂した「緊急銃猟ガイドライン」の中にも盛り込まれている。その107ページには、「クマを即時に無力化させるためには、…」という記述があり、着弾部位と威力の両面からの具体的な考え方が明記された。
手負いグマによる人身事故が4割の衝撃
クマ対策における銃撃でなぜ、「即時無力化」が重要なのか。その理由は明確だ。ヒグマが人の日常生活圏に出没した場合、確かに人の生命や身体に危害を及ぼす「おそれ(可能性)」がある。しかし、仕留め損なって逃走させた個体――いわゆる「手負いグマ(半矢)」の発生は、危険の性質を「おそれ(可能性)」から「確実性」へ変えかねないためだ。
北海道庁環境生活部環境局自然環境課が作成した「ヒグマ捕獲テキスト」も、この点を明確に記している。「弾が命中したにもかかわらず逃げたヒグマのことを『半矢』あるいは『手負い』と言います。
クマ銃撃の実情に危機感をあらわにする鈴木氏
手負いグマが逃走した場合に起きる影響を鈴木氏は次のように整理する。
- 森林内や藪など見通しのきかない場所に逃げ込むため、生きているのか死んだのかが分からなくなる
- 逃げ込んだクマの捜索には反撃のリスクを伴い、捕獲従事者や行政職員等が危険にさらされる
- 発見できなければ、生き延びて逃亡したクマが、どこかで別の人と遭遇する恐れがある
どうすれば「即時に無力化」できるのか
では、即時無力化を達成するにはなにが必要か。当然、狙い撃つ部位は重要だ。前述のヒグマ捕獲テキストには、ヒグマの急所として「脳や脊髄などの中枢神経」と「胸部(心臓、肺周辺)」の二か所が示されている。捕獲熟練者の間では「アバラ3枚目」が急所とも言われる。
しかし鈴木氏は、国内外の資料やテキストも踏まえ、胸部への着弾だけでは即時無力化が達成できない場合があることを指摘する。
「胸部に着弾してもヒグマはすぐには止まらない。60秒ほどは走ることができる。その60秒は、近くの藪などに逃げ込んで見えなくなるのに十分な時間とされます」
そこで重要なターゲットとなるのが、上腕骨だ。
「背骨や首の骨は人間の拳程度の太さで、数センチずれただけで致命傷にならないこともある。狙いやすさと即時無力化の確実性を考えると、心臓や肺、太い血管などが存在する胸部を基本としつつ、運動能力に直結する上腕骨の破砕も意識した発砲が求められる」と鈴木氏は説明する。
緊急銃猟ガイドラインも「急所である頭頸部(脳や脊髄)や胸部(肺や心臓)を狙うのが望ましい」としつつ、「胸部(肺や心臓)は頭頸部よりも命中させやすいが、クマが即倒せずに短時間であっても逃走もしくは反撃を行う可能性があるので、そのリスクも考慮する必要がある」と明記している。
「逃げられること」こそ最大のリスク
ただし、射撃技術の向上だけでは完結しない。しかるべき装備の標準化、公的な訓練体制の確立、そして状況によっては「撃たない判断」をも可能にするだけの準備と余裕がなければ、銃によるクマ駆除の遂行には不十分と言わざるを得ない。逆にいえば、これらすべてが揃って初めて、「即時無力化」という理想に近づくことができる。鈴木氏が補足する。
「狩猟、特に巻き狩りでの発砲は、じっくり狙い狙撃する状況とはしばしば異なります。動く個体を追って撃つ習慣が身についていると、人の日常生活圏での緊急対応には向かないのです。
たとえばヒグマ捕獲テキストには『逃げるクマは撃たない』という熟練者の証言が複数記されています。『息を整えて立木などに依託(支えてもらう)して撃つ』というような『慎重な狙い』が、熟練者が共通して語る鉄則です。
これは『動きのある個体であっても、チャンスと見込みがあれば撃つ』という巻き狩りの習慣とは根本的に異なる発想です。趣味の狩猟を通じて身につけた技能は、緊急銃猟で求められる技術とは合致しないかもしれません。
その観点からも、緊急銃猟ガイドラインでは、『実際に銃器により鳥獣を捕獲する者』を捕獲者と呼び、狩猟者やハンターという言葉は用いていないのです」
市街地にクマが出没したら、ハンターが駆けつけ、緊急銃猟により駆除する――ここまでのプロセスで思考停止していると、クマ問題は取り返しがつかない状況へ進んでいきかねないと鈴木氏は危機感をあらわにする。
体制整備という根本課題
なにが問題なのか。鈴木氏が訴える。「現状は全国的に、クマ類の捕獲の経験が不足しているハンターが、クマ類の捕獲には必ずしも適さない持ち合わせの装備を使い、バラバラな発想のまま、応急的に取り組んでいる状態です。国内にも、シカやイノシシを対象とする一般的な銃ではなく、より重量のある弾丸を発射できる口径を採用する方針が既にあるのです。
解決の方向性としては、系統的カリキュラムに基づき、汎用性と実効性を備えた公的な捕獲者教育システムの迅速な確立・実施が求められます。狩猟免許は比較的容易に取得できるものであり、それを持っているだけでは即戦力にはなりません。いま流行の『ガバメントハンター』についても同じことが言えます。
緊急銃猟ガイドラインも『人の日常生活圏に出没したクマ等の対応は人の生命・身体に関わる公共の安全に必要な行為であり、本来ならば公的な存在により対応されるような性質を有する』と明記しているように、従来の私人による対応体制から早急に脱することが求められます」
警察官の銃と「即時無力化」――装備の問い直し
鈴木氏はさらに、警察官が銃を用いてクマを駆除する場合の装備の不足を指摘する。警察庁はライフル銃を持つ機動隊によるクマ駆除に乗り出す方針を決め、東北6県と北海道の警察を念頭に訓練などの準備を急ぐという。鈴木氏はこの動向を歓迎しつつも、装備の選定に警鐘を鳴らす。
「もし対人目的で装備されているライフル銃が流用されるのであれば、弾頭の重量不足のみならず、構造的にも必要とされる貫通力(侵徹力)を期待できないかもしれません」
現状の装備のままでは即時無力化には不足する可能性があるという。
警察官の拳銃についても同様の問題がある。クマ対策を想定した拳銃の選定には、海外では「4-3-1」と呼ばれる最低基準が提唱されている。弾頭の直径が0.4インチ(約10.2mm)、弾頭重量が300グレイン(約19.4グラム)、初速が秒速1000フィート(304.8メートル)を超えるという基準だ。
「警察には系統的なトレーニングを積む体制があり、指揮命令系統も明確です。適切な装備と訓練を備えれば、民間ハンターよりもはるかに早く即時無力化の担い手として機能できると思います。
しかし、懸念されるのは、装備をも含めた包括的対応の発想が十分に浸透していない可能性です」
緊急銃猟ガイドラインには、人の日常生活圏でのクマ対応は「本来ならば公的な存在により対応されるような性質」と記されている。警察官がその担い手となるためには、「即時無力化」という概念を軸に、装備・訓練・指揮命令系統を一体的に整備することが不可欠というのが、鈴木氏の提言だ。
クマ問題はいまや、ハンターと行政の問題を超え、公共安全の根幹に関わる社会課題となっている。その実現には、たとえば銃によるクマ対策だけをとっても、有効に機能させるためには上述のように相当な知見や経験、技量が求められる。取り返しがつかなくなるまでの猶予は想像以上に切迫している。

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