東京都が発表した『令和6年度 痴漢被害実態把握調査 報告書』では、電車内で女性たちの痴漢被害の経験がまとめられています。
記事の後半では、最新の調査データから「どこからがアウトか」をズバッと解説。バスの運転手さんが持つ「迷惑客を無理やり降ろす力」も、わかりやすくお届けします。
隣の席に座った中年男性が…
語ってくれたのは羽多野琴美さん(仮名・24歳)。羽多野さんによれば、「バスに乗っていて1番怖かった」体験だという。「大学1年生の夏休みに帰省する時のことです。出来るだけ安いルートにしようと思い、実家がある関西地方まで長距離バスで帰ることにしたんです。夜行バスにひとりはちょっと怖かったので、昼便のバスに乗ることにしました」
羽多野さんが窓側の席に座っていると、出発時間ギリギリになって隣の席の乗客がやってきた。
「テカテカした素材の真っ青なシャツを着た派手な感じの中年男性でした。バスが動き出すと、『若いね。いくつ?』『仕事は何してるの?』と矢継ぎ早に聞かれました。あまり個人情報を話したくはなかったんですが、圧がすごくて、当時の年齢と学生であることを答えてしまったんです」
体臭と混じった香水の匂いが流れてきて…
教えてくれたお礼に、と思ったのかどうかは定かではないが、男性は自分語りを始めた。「不動産関係の仕事をしていて、あちこちで土地や建物の売買を行っているという話でした。『マンションの売買で数億稼いだ』とか『東京の一等地に土地を持っている』とか。
「そうしたら、今度はその男性は腕を伸ばしてストレッチをしはじめて……その手が私の顔のすぐそばまで来るんです。本を読んでいても視界に入ってくるので気になっていると、『ジム行ってるんだけどさ、筋トレって良いんだよ』といかに筋肉をつける必要があるか説明をはじめたんですが……その男性は小太りで、正直あまり説得力がなくて……」
長く続くストレッチに辟易していると、さらなるアプローチが……。
「今度は『暑いなー』と言いながら、シャツの胸元をパタパタしはじめたんです。いつの間にか第2ボタンまで外していて、胸元から胸毛が覗いていました。たぶん見せたかったんだと思います。体臭と混じった香水のニオイが流れてきて……正直きつかったです」
眠っていたら、顔を近づけられており…
男性は再び話しかけてきた。「『君みたいな可愛い子は危ないよ。こんなに席が近かったら触ろうと思ったら触れちゃうよ。隣が俺みたいなちゃんとした男でよかったね』と言い出して、さらに痴漢にあったことがあるか聞いてくるんです。渋々『ある』と答えたら、どんな感じだったかしつこく聞かれて……」
いつまでも続く不毛なコミュニケーションに辟易した羽多野さんだったが、前日、大学の友人たちと夜中まで鍋パーティをしていたので、話が止んだところで眠気に襲われた。
アナウンスによって助けられる
「不意にアナウンスが流れたんです。『中央に座っている青いシャツの方、隣の席の方に接近するのはおやめください』って。通路を挟んだ場所に座っていた女性の乗客が運転手さんに不審な男がいると伝えてくれたんです」
隣の男は席に座り直すと、新聞をめいっぱい広げて読むそぶりをし始めた。
「アナウンスがよほど恥ずかしかったのか、ついには新聞を被って隠れているような感じでした。結局、目的地までそのままで、バス停に着くと、コートの襟を立て、顔を隠して逃げるように降りて行きました」
■「息を吹きかける」のも完全にNG。データが示す車内のリアル
今回のエピソードで羽多野さんが受けた「至近距離での鼻息」という被害。これを単なる迷惑行為で済ませてはいけません。最新のデータと法律を紐解くと、加害者が言い逃れできない「厳しい現実」が浮かび上がります。【事実1:最新調査で判明した「現代型痴漢」の正体】
東京都の『令和6年度 痴漢被害実態把握調査 報告書』では、女性が体験した「卑わいな言動」の具体例を詳しく挙げています。驚くべきは、その範囲の広さです。
・今回のケースに類似:匂いをかぐ、息を吹きかける
・スマホ悪用:AirDrop等で卑わいな画像を送りつける、画面を見せつける
・巧妙な接触:カバンやスマホをわざと身体に押し付ける
これらは、東京都迷惑防止条例(第5条第1項第3号)が禁じる「卑わいな言動」に該当する可能性が高い行為です。条例では、直接身体に触れていなくても、相手に性的羞恥心を与え、嫌悪感を抱かせる「下品でみだらな言動」を厳しく制限しています。この規定に違反した場合、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」、常習犯であればさらに重い罰則が科される可能性もあります。
つまり、「触っていないからセーフ」という理屈は、行政の調査現場でも、実際の法解釈においても、もはや通用しないのです。結論。相手が嫌がることを強いるような卑劣な行為は、いかなる形でも「アウト」なのです。
さらに、こうしたトラブルを防ぐため、公共交通の現場には明確なルールが存在します。法律(旅客自動車運送事業運輸規則 第13条)では、バス事業者は「他の旅客の迷惑となるおそれのある者」などに対し、運送の引受けや継続を拒絶(乗車や乗り続けを断ること)ができると定めています。
今回の運転手さんのアナウンスは、まさにこの法律に基づいた正当な「排除」への第一歩。今の高速バスは防犯カメラの導入も進んでおり、こうした「証拠」は逃さず記録されています。
「バスの中ならバレない」という幻想は、最新のデータと法律によって完全に打ち砕かれています。違和感を覚えたら、迷わず周囲や運転手さんに助けを求めてください。その一歩が、卑劣な加害者に正当な「社会的制裁」を下すための、最強の武器になるのです。
<取材・文/和泉太郎 再構成/日刊SPA!編集部>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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