〈歩きタバコしてる人、たぶんあなたの想像の100倍ぐらい後ろまで匂いと副流煙が届いてます。細い道や後ろに子供がいる時は本当にやめてほしいです。

6月上旬、Xでこうした投稿が話題となった。リプライには「本当に迷惑」「もはやテロ」「副流煙も自分で吸い込んで飲み込んで欲しい」「こっちが後ろにいると灰も飛んでくるんだよ…」といった声が並び、歩きタバコに対する不満の根強さが伺える。「自分は喫煙者ですが、歩きタバコは絶対にしません。」と、マナーを守っている喫煙者からも迷惑がる声が寄せられていた。
現在、多くの自治体が歩きタバコを条例で禁止しているが、その先駆けとなったのが、東京都千代田区で2002年6月24日に成立した「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」だ。
同条例は、路上禁煙地区で喫煙および吸い殻のポイ捨てをした場合に罰則(過料2000円)を設けたもの。2026年6月現在、千代田区は皇居を除く全域が路上禁煙地区となっているため、実質的に区内すべての路上が対象である。
条例成立から24年、歩きタバコを巡る状況に変化はあったのか。

地域住民の「不満の声」から始まった条例

千代田区は、夜間人口(住民)が約4万人(条例成立時)であるのに対し、昼間人口が100万人ともいわれ、昼夜人口の差が極めて大きいという特徴がある。条例制定の背景には、来街者の歩きタバコや吸い殻のポイ捨てに対する住民の不満の声の高まりがあった。
区は歩きタバコについて、吸う側がその危険性や迷惑を認識していないことが少なくなく、「マナーやモラルに期待しながらまちの環境を良くしていくことは非常に難しく、人々の道徳心のみに頼ることは、もはや限界である」として、罰則を伴う条例の制定に踏み切った。
当初、路上禁煙地区は区内面積(皇居を除く)の30%だったが、2010年4月1日からは区内全域が対象となっている。

条例成立から24年、効果と課題は?

条例成立から24年が経過したが、その効果と課題はどのようなものか。千代田区・地域振興部安全生活課に取材した。
区のデータによると、路上喫煙による過料処分件数は、コロナ禍で一度減少したものの、その後は急増。
2024年度には8032件となり、おおむねコロナ以前の水準に戻ったという。区はこの要因について、経済活動の正常化に伴う人流の回復や、インバウンドを含む来街者の増加が大きく影響していると分析する。
しかし、処分件数には地区によって大きな差が見られる。2024年度のデータでは、東京駅地区が213件と低水準で推移しているのに対し、秋葉原地区は4025件と突出して多い。
この格差について、区は次のように見解を示す。
「東京駅・大手町周辺などのオフィス街においては、ビル内に従業員向けの喫煙所が整備されていること、また来街者の多くが就業者であり、区の路上喫煙禁止ルールの認知が比較的浸透していることから、違反件数が低水準にとどまっているものと考えております」
一方で、違反件数が高止まりしている秋葉原地区については、課題を認識している。
「観光・買い物等を目的とする一時的来街者が非常に多く、条例の認知が十分に行き届いていない側面があることに加え、受け皿としての喫煙所が不足している状況も相まって、違反件数が高止まりしているものと認識しております」
このため区は、周知啓発だけでなく、喫煙所の整備と規制の実効性確保を一体的に進める必要があるとし、今年度から秋葉原・神田地区で公衆喫煙所の整備助成を拡充し、秋葉原地区への区営喫煙所の設置にも着手している。

「過料2000円」一定の効果発揮も…据え置きに課題

いまだに年間8000件以上の処分がある現状は、24年間据え置かれた「過料2000円」という罰則の抑止力に限界があることを示唆しているのではないか。
この点について区は、「条例制定以来、一定の抑止効果を発揮してきた」としながらも、「現行水準が十分な抑止力として機能しているかについては、率直に課題があると受け止めております」と認める。
来街者の多様化や物価水準の変化といった社会環境の変化の中で、過料額が長期間変わっていないことが、抑止効果の相対的な低下につながっている可能性も否定できないという。区は、過料額のあり方について、引き上げの可能性も含め、他自治体の動向や制度全体のバランスを考慮しながら検討を進めている段階だ。

「今後は実効性あるルールの再構築が不可欠」

地域住民の声から始まった条例は、24年を経て区民の生活環境を「安全・快適」にしたと言えるのか。区は、条例の理念である「マナーからルールへ、そしてマナーへ」のもと、社会的認識の醸成や吸い殻の大幅な減少など、先進自治体として一定の成果を上げてきたと評価する。
実際に、この取り組みは他の自治体のモデルともなってきた。
しかし、年間8000件を超える過料処分が発生している現状を重く受け止めてもいる。
「喫煙者の自律的なマナーのみに依拠した取組には一定の限界があるとの認識に立ち、今後は実効性あるルールの再構築が不可欠であると考えております」
今後は、取り締まりの強化、喫煙所整備の加速、普及啓発を一層推進するとともに、過料制度の見直しも含めた総合的な検討を行い、区民の安全で快適な生活環境の確保に向け、より踏み込んだ施策を計画的に実行していく方針だ。
路上喫煙を規制する条例は、千代田区を皮切りに全国の自治体へと広がった。当初は環境美化の観点から導入されることが多かったが、近年では屋外における受動喫煙対策として、子どもたちが利用する施設周辺にも対象を広げる動きが見られる。罰則のあり方や喫煙所の整備など、課題は多いが、誰もが快適に過ごせる環境づくりに向けた模索は続いていく。


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