「命は繋がっていくもの」妻夫木聡&窪田正孝が明かす『宝島』の深淵
左から)窪田正孝、妻夫木聡 (撮影/堺優史)

沖縄がまだアメリカの統治下だった戦後、米軍基地から物資を盗み、島の仲間に分け与える“戦果アギヤー”として生きた若者たちのその後の生き様を描く『宝島』。今作で“戦果アギヤー”としてアメリカと戦った幼なじみの関係性を演じた妻夫木聡窪田正孝

ふたりは沖縄の人たちの想いを知ることから始まり、撮影中はずっと自分はここで今を生きているという生命力を感じていたという。激動の時代を駆け抜けた若者を圧倒的な熱量で描いたこの映画は、戦後80年を迎えた今、戦争の痛みが風化しないためにも次世代にも届けたい作品だ。



沖縄の美術館で「沖縄戦の図」を見た時、動けなくなった

「命は繋がっていくもの」妻夫木聡&窪田正孝が明かす『宝島』の深淵

――戦後の沖縄を舞台に史実の陰に埋もれた真実に光を当てた原作を実写化した今作。脚本を読まれて最初にどんな役柄としてアプローチしようと思われましたか。



妻夫木聡(以下、妻夫木) 原作が持ってる圧倒的な熱量をどこまで脚本を通して役に落とし込もうかなと思いました。そして、沖縄と改めて向き合うっていうところが自分の課題だと思いました。ただ演じるということだけに集中すればいいわけではなく、沖縄の歴史を学ぶところから始めて、当時を生きた方々にインタビューしたり、資料館を巡ったり。沖縄の佐喜眞美術館で「沖縄戦の図」を見た時に、自分の中に入ってくるものが大きくて動けなくなったことがありました。沖縄のことをどこか分かった気になってるんじゃないかと言われたような気がして。その画を見た時に感じた体験は、自分にとってこの作品を演じる核になりましたね。



窪田正孝(以下、窪田) 最初に脚本を読んだ時、今の自分の感覚ではどうしても読み込むことができなくて。役のことを全く理解できなかったんですよね。戦後の沖縄は、今みたいに携帯電話もないアナログな時代で、隣との垣根のない世界。

近所の人がズカズカ家に入ってくるのが当たり前だった頃ですよね。今のように壁だらけの日本ではなく、もう皆が家族のようにオープンに生きていたんだなという感覚を落とし込んで脚本を読んでみたら、いろんなものが紐解かれていきました。今の時代に描かなくてはいけない、日本人が向き合わなければいけないところだと思います。



――2025年は本土復帰から53年、戦後80年の節目の年ですね。



窪田 そう、戦後80年経っても日本はどこまで行っても敗戦国で。その爪跡というのは沖縄をはじめ今も日本中に残っているし、それが今の日本の政治にも現れているし、それはどうやっても変わらない事実だと思います。だからこそ日本人がこの戦争があったことと向き合わなくてはいけない。エンターテインメントを通して役者という仕事をやってきた自分が、この作品に関わることができるのは、すごく光栄なことです。



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――冒頭の戦果アギヤーの米軍基地襲撃シーンは、お二人が本物のうちなんちゅに見えるくらいの凄まじいエネルギーを放っていました。あのシーンに取り組むにあたって話し合いはされましたか。



妻夫木 今回はキャスト同士で何か話すというのはなかったよね。



窪田 なかったですね。



妻夫木 オン役の永山瑛太くんもそうですし、お互いを知ってるからこそ、話さないでもいられるというか。窪田くんは窪田くんの中で、レイとしての正義というものに向き合って生きていて。僕はグスクにとっての正義とは何かということに、ずっと向き合っていました。最終的に二人がお互いの想いをぶつけ合うシーンがあるので、そのシーンに向かって、ずっとお互いの人生を生きていた気がします。なおさら話さなかったですね。キャストや監督だけじゃなく、スタッフ皆さんがそれぞれ想いを持って作品に取り組んでいるので、その時代にタイムスリップさせてくれた。現場に行くと不思議と役になれました。



窪田 本当にそうでしたね。監督は普段、いろんな話をしてコミュニケーションをとってくれる方。でも、セリフを求めてるわけではなくて、多分言葉じゃない何かを映し出そうとしているので、細かい指示はなかったです。



妻夫木 それぞれが思っている想いみたいなものを全員がぶつけ合ってる現場だったなぁ。



窪田 おっしゃる通り。

僕たちは本当に丸裸の状態で体現したというか。その人間の中から何が出てくるのかっていうのを監督はずっとフォーカスしていたから、それが出てくるまで逆にオッケーが出ないことはありましたね。その時代に人間が生きていて食べるものがなかったとしたら、どういう行動を起こすのかとか、どんな顔するのか。そういう想像をしてどう役に投影するのか試された毎日でした。



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「人が最大の飾り」迫力の暴動シーン

「命は繋がっていくもの」妻夫木聡&窪田正孝が明かす『宝島』の深淵

――クライマックスのコザ暴動シーンでは、エキストラさんは延べ5000人、アメリカンクラシックカー50台が火を噴くという壮大で大迫力のシーンでした。



妻夫木 コザ暴動のシーンは最初、千葉でオープンセットを組んで、結構ダイナミックにやろうとしてたんです。予算と時間もかかるので、東宝スタジオでやることになり、オープンセットを組むと言っていたものが縮小されたイメージがあったので最初は不安もありました。でも、監督が「人が最大の飾りだ」っておっしゃっていて、エキストラ1人ひとりに演出をされたんです。沖縄出身の俳優さんたちをいっぱい呼んで芝居をさせて、「アメリカ出てけ」ってどんどん鼓舞していって。そしたら、エキストラさん一人ひとりに命の炎が宿っていった。あの瞬間を見て、コザ暴動が動き出す瞬間っていうのを目の当たりにしました。生命力の塊だし、コザ暴動っていうのは、魂の叫びみたいなものだったのかなって。「俺たちはここに生きてるんだ」っていう叫びを感じて、僕はエキストラの皆さんのお芝居で学ばせてもらうものがありました。



――暴動シーンの迫力は本当に震えました。



妻夫木 コザ暴動を演じるにあたって、実際参加された方々にインタビューもさせてもらったんですが、文献で読むと、過去にあった背景と事件のきっかけとなった出来事について、憎しみや怒りっていうものを中心に書かれてることが多かったんです。でも、実際にお話を聞くと、怒りっていう感情以外のものがあったっておっしゃるんですよ。暴動シーンからどんなことを感じていただけるのか、楽しみです。



窪田 そうですね。コザ暴動は歴史的に見てもすごく大きな出来事で。この作品も1番あのシーンにフォーカスしています。あの暴動に参加した人々の姿は、本来の人間の姿なんだろうなとも思いました。当時の沖縄は、アメリカ兵たちに虐げられ、女性は犯されたり、殺されたり、ひき逃げされたりっていうことが当たり前の毎日で何も言えない時代だったんですよね。でも、沖縄はそんなアメリカ兵のことを捕まえられない。それはブチ切れるじゃん、当たり前じゃんって。溜まりに溜まって、沖縄の魂が1つの方向を向いて、ああいう暴動が起きたっていうのは、すごく必然だったのかなって思いましたね。



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――コザ暴動のシーンで監督はエキストラさんにどんな演出をされたのでしょうか。



妻夫木 コザ暴動と呼ばれてるけど、1人も死者が出ていないんですよね。だから騒動と捉えてる方もいるくらいなんです。監督はそういった話をはじめ、エキストラさんに当時の沖縄についていろんなお話をされていました。「いきなり家に入られて、いろんなものを盗まれたっていう人もいるし、それぞれに絶対ストーリーがあります」って。1番最初に動かした時に、モブみたいになった瞬間があったんですよ。それで監督がエキストラさん何百人、一人ひとりと向き合った。その結果、皆にどんどん火がついていった。よく見ると笑ってる人もいたり、野次馬の人もいたり、傍観者もいたり。結構、それぞれにストーリーが感じられますよ。もちろん僕らも皆さんに誠心誠意にぶつかっていくべきだなと思いました。日本人って優しいから、僕が歩くと、本当はまっすぐに行きたくても、ぶつからずに避けてくれちゃうんですよ。

だから、「全然、気にせずこっちに来てくださいね」って声をかけましたね。



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――窪田さんは当時の沖縄の若者たちがどんな決意や覚悟を抱えていたか、レイを演じたことで感じるものはありましたか。



窪田 レイにとっては兄がいなくなったことで課題が生まれたんです。兄がいたら、ずっとオンの弟として生きてたと思うんだけど、兄がいなくなったことによって、彼は自分で1人の人間として兄の背中を追っているんですよね。兄が作った道を行くのではなくて、自分でちゃんと志を持って選択をして、そこに意思を持って行動するっていう風になった。兄がいなくなったことは悲しいけど、いなくなったことで彼には新しい課題ができて。兄を探すということが彼にとっての正義に変わっていったんです。



――なるほど。そうだったんですね。



窪田 当時を生きてる人達に比べて、今は言葉にすごく溢れてる世界じゃないですか。人と人が顔を合わせなくても簡単にSNSで繋がれるし、簡単にメールもできる。でも、携帯電話が今無くなったら人間どうすんだろうという話で、多分アナログなことしかできないんですよね。本来はそうだと思うんですよ。この作品では、沖縄がアメリカに虐げられてる世界で、自分たちの声が全く届かない状態。いくら訴えても何も変わらない。なぜなら敗戦国だから。負けたものは勝ったものに従わなければいけないという残酷な戦争の結果だから。言葉で言っても通じないから、彼に残されたものっていうのは、暴力しかなかったのかなとは思うんですよね。男だから武力行使しかない。だからレイは、警察になって、うちなんちゅを見守るのではなくて、裏ルートのシンプルに世の中が見えるようなヤクザの道から、兄を探そうとしたんですよね。彼には彼なりの正義があったのかなって思うし。兄への愛情がなかったら、あんな生き方はできなかったと思います。



今作で死生観が変わった

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――レイの兄・オンへの愛情は、伝わってくるものがありました。



窪田 僕にも兄弟がいるけれど、そこまで兄弟の繋がりを感じたことがあったかなと思うと、すごい関係性だなと思いました。昔は人と人との関係性が、今よりもっと濃厚で、みんなが家族のような世界だったのかなって。沖縄にいて、そんなことを感じましたね。自分がレイを演じるならば1番自分がレイの味方でいなければいけないなと思って、誰からも非難されるような行動をしたとしても、自分だけは味方でいたいなって思ってました。



――戦後の沖縄の人たちを生きたことで、これから自分はどんな風な生き方をしていきたいなと思ったのかお伺いしたいです。



妻夫木 僕は今作で死生観みたいなものが変わったところがあるんですよね。死って終わりを意味するものだと思ってたんです。だけど、死んでもその人の想いっていうものが誰かの中で生きていて、残っていくんだなと思いました。僕はこの作品から命のバトンをもらったような気がして。命っていうのは繋がっていくという考え方に変わりましたよね。



「命は繋がっていくもの」妻夫木聡&窪田正孝が明かす『宝島』の深淵

――この作品にも沖縄に生きた人たちの魂が宿っていますよね。



妻夫木 そうですよね。生命あるものだけが、命じゃないと思います。物1つでも命みたいなものが存在しているんじゃないかな。死後の世界もあるんでしょうし、死に対して、ポジティブにはなれないけど、あんまりネガティブにも感じないようになりましたね。



窪田 いろんな意味で日本はどんどん海外の人が入ってきて、昔の日本じゃなくなってきていると思うんです。良くも悪くも、もっとグローバル化して、この渦からは逃れられない。例えば庭師とか、神社を建てる人とか、漆塗りをする人とか、藍染めをする人とか、歌舞伎にしてもそうなんだけど、日本の伝統っていうものを継ぐ人がいなくなってるじゃないですか。どんどん日本の伝統なるものが失われていくのは寂しいですよね。もっと日本のいいものを発信していけばいいなと思うので、この作品のように沖縄の史実に基づいた話から伝えられるものは確実にあるかなと思う。



――本当に日本や世界に向けて発信したい、知って欲しい映画になりましたね。



窪田 やっぱり人生の中で時間というものは有限だから、良いものを生み出そうとすれば、それなりに時間がかかると思います。もちろん役者という仕事は好きだけど、今は役者という仕事を自分の中心に置いてなくて、自分の人生にフォーカスしてる時間を大切にしたいと思うようになりました。生きている時間は限られてるから、その中でもっと家族の時間を作ったりとか、海外に行ったり、やりたいことをやったり。そうしないと本当にあっという間に月日が経ってしまう。いろんなところへ行ったり、いろんなもの見たりして得た経験というものを役者に還元していく生き方をしたいですね。そして、こういった価値のある作品に携われたらいいなと思います。



「命は繋がっていくもの」妻夫木聡&窪田正孝が明かす『宝島』の深淵

「命は繋がっていくもの」妻夫木聡&窪田正孝が明かす『宝島』の深淵


<作品情報>
『宝島』



9月19日(金)より全国公開



「命は繋がっていくもの」妻夫木聡&窪田正孝が明かす『宝島』の深淵

出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太
塚本晋也、中村蒼、瀧内公美、栄莉弥、尚玄、ピエール瀧、木幡竜、奥野瑛太村田秀亮、デリック・ドーバー
監督:大友啓史
原作:真藤順丈『宝島』(講談社文庫)
配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会




撮影/堺優史、取材・文/福田恵子



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