選んだ今と選ばなかった未来、恋と愛の違いとはー京本大我(SixTONES)主演、『シェルブールの雨傘』上演中
『シェルブールの雨傘』

1964年に公開され、近年では『ラ・ラ・ランド』がオマージュを捧げた映画としても注目を集めたジャック・ドゥミ監督の『シェルブールの雨傘』。カトリーヌ・ドヌーヴの奇跡的な美しさやミシェル・ルグランによる甘く切ない音楽は時を超えても色褪せず、今でも世界中で愛され続けている。

このミュージカル映画の傑作は日本でも舞台化され、これまで何度か再演されてきた。10年ぶりの上演となる今回の演出を手がけるのは、元宝塚歌劇団演出部の荻田浩一。主演を『エリザベート』『ニュージーズ』と華と実力を兼ね備えたミュージカル俳優としてのステップを踏み、『流星の音色』では主演に加えて音楽も担当した京本大我が務めている。宝塚歌劇団のトップ娘役として活躍し、本作が退団後初のミュージカルとなる朝月希和をはじめ、井上小百合渡部豪太春野寿美礼ら魅力的なキャストが揃った。



舞台はフランス、シェルブール。自動車整備士のギイと17歳のジュヌヴィエーヴは愛し合う恋人同士だが、雨傘店の店主である彼女の母親は若すぎるふたりの結婚に反対していた。

そんな中、ギイにアルジェリア戦争への召集令状が届き、ふたりは離れ離れになってしまう。まず目を惹きつけられるのが、石畳の港町の美しさを感じさせる美術。実際に雨が降り注ぎ、カラフルな傘を使ったダンスがこのミュージカルの魅力を伝えている。花道から登場した京本は日焼けした肌と鍛えた体というアプローチで上品なイメージを封印し、新聞配達の少年を演じた『ニュージーズ』とはまた違う印象の働く青年に。冒頭で葛藤や戸惑いを感じさせる緩急のあるコンテンポラリーダンスを踊り、これから始まるギイのやるせない物語へと観客を誘った。



登場人物たちがすべてのセリフを音楽に乗せて語っていく点が、この作品の独自のスタイルだ。

メロディなしにセリフを口にするシーンは皆無で、常に音楽とともに心情が明かされ、物語が進んでいく。そしてこの作品を唯一無二のものにしているのは、映画音楽の巨匠として知られるミシェル・ルグランの音楽。あの有名なメインテーマは場面によって色合いと温度を変え、いつまでも深い余韻を残す。伸びやかな高音に定評のある京本はこの舞台では低音をよく響かせ、ミュージカル俳優としての可能性をさらに感じさせてくれた。



仕事終わりにワクワクしながら『カルメン』を観劇するデートシーンや、軽やかなデュエットダンス、包容力を感じさせるギイのバックハグは、思わずキュンとしてしまう名場面。雨傘店の内装やそれぞれの部屋の壁紙、ジュヌヴィエーヴのカラフルでクラシカルな衣装も愛らしい。

けれども将来を誓い合ったふたりの幸せが伝わってくればくるほど、この先に訪れる運命がどうしようもなく胸を締め付ける。



ギイが出征してから、彼の子供を身ごもっていることに気づいたジュヌヴィエーヴの選択。闇落ちするほどの絶望の先で、ギイが見つけた光。やがてふたりが再会する場面では、選んだ今と選ばなかった未来、恋と愛の違いとは、そして本当の幸せとは? といくつもの答えのない問いが投げかけられる。京本が見せた最後の表情から伝わるのは、それでも続いていく人生の哀しさと美しさかもしれない。



取材・文:細谷美香



<公演情報>
『シェルブールの雨傘』



脚本:ジャック・ドゥミ
音楽:ミシェル・ルグラン
演出・上演台本・訳詞:荻田浩一

出演:
京本大我
朝月希和
井上小百合
渡部豪太
春野寿美礼


【東京公演】
2023年11月4日(土)~11月26日(日)
会場:新橋演舞場

【大阪公演】
12月3日(日)~12月10日(日)
会場:大阪松竹座

【広島公演】
2023年12月14日(木)~12月16日(土)
会場:広島文化学園 HBGホール



公式サイト:
https://cherbourg-2023.jp/



※公演が終了したため舞台写真は取り下げました。