「あれはね“アイラブユー”なんですよ」夢枕獏がこの1000年の中でも極めて異常な事態だと感じる安倍晴明フィーバーに思うこと
「あれはね“アイラブユー”なんですよ」夢枕獏がこの1000年の中でも極めて異常な事態だと感じる安倍晴明フィーバーに思うこと

4月19日から劇場公開される映画『陰陽師0』。原作者の夢枕獏氏曰く、主人公の陰陽師・安倍晴明の人気っぷりは異常だという。

NHK大河ドラマ『光る君へ』にも登場する安倍晴明は日本史において、いかに愛されてきたか。そして山﨑賢人が演じる本作の完成度の高さについて、夢枕獏氏に話を聞いた。

安倍晴明を美形に設定したのは夢枕獏

──いまでは馴染みがありますが、最初に“陰陽師”や“安倍晴明(あべのせいめい)”という単語を使い出したのは獏さんですよね?

『高丘親王航海記(たかおかしんのうこうかいき)』を書いた澁澤龍彥さんが、短いエッセイか何かで安倍晴明の紹介はしてました。その後、『帝都物語』で荒俣宏さんが書いたりっていうのがあって、その後ぐらいですかね。

安倍晴明を主人公にして陰陽師をテーマそのものにして、晴明を美形にしたのはぼくが最初なんじゃないかな(笑)。

──活字における『陰陽師』の世界観しかり、本作の映画『陰陽師0』や、Netflixのアニメ版も、安倍晴明と源博雅(みなもとのひろまさ)の2人からは容姿の美しさを想起させられるのですが、そもそもそこにBL的な要素はイメージされていたのですか?

私の設定のなかではありません。途中から、そういう要素にもスポットがあたっているような評判は聞こえてきたので「なるほど、そうなんだ」と思ったぐらいで。

だからといってBL的な要素を増やそうという意識はなかったですね。

安倍晴明と源博雅の関係性を突っ込んで書くと、新たな評価をいただけたのは新鮮でした。自分はまったく意識してなかったんですけど、意識していたらたぶん間違った方向にいってしまっていたと思っています。

──これだけさまざまなコンテンツに取り扱われた作品も稀ですよね。

鎌倉時代から現在に至るまで歴史上の数多くの人が陰陽師のことを書いてきましたが、安倍晴明と源博雅を美形キャラにしてしまったのは歴史上、私が最初だと思うんです。

これまで描かれたてきた陰陽師・安倍晴明の多くは、明治の頃の講談にある晴明が子供の頃の尾花丸(おばなまる)の話。
あるいはもうおじいちゃんなんですね。

──現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』でも描かれています。

もちろん、小説の設定に置いた40代の頃もあるんだけど、菅原道長と一緒に語られるケースが多いですね。

あるとき道長がある屋敷の門をくぐろうとしたら、犬が吠えながら道長の前に立ちふさがるので、そこへ呼ばれた晴明がそれを止め、晴明が示した場所を掘らせてみると二枚の皿を合わせて一文字に縛ったものが出てきた。

「これを跨いだら死んでるところでした」と晴明が言うのが今昔物語にあるんです。ちなみにその頃は、晴明はもうおじいちゃんなんですけど。

──日本史史上、一番の人気者かもですね。

現代になって、何故こんなにいろんな晴明のコンテンツができたのかっていうと、私が初めて晴明を美形に設定したことと、もう一つは安倍晴明が実在の人物だったということですね。そして今後も誰がどんな解釈をしてもいいんですよ。

徳川家康とか織田信長とか、ときには粗暴に、あるいは名君に描かれるような人と同じで、さまざまな設定で晴明を主人公にして作品にすればいいと思う。

──監督や作家、それぞれの解釈で漫画やアニメ、小説や映像作品で多種多様な安倍晴明が誕生してきました。

それこそ1000年前からこうした現象はあったんでしょうが、こんなにこぞっていろんな人が晴明のことを書いたのは、日本の安倍晴明史上初めてで、ある意味異常ですよ、これは。



スサノオノミコトや信長と比べても、現代の晴明現象は歴史の特異点ですね。1000年近い歴史の中で極めて異常なことが起こっています。

「とにかく安心して観てください!」 

──先生が逆に、映画『陰陽師0』によって今後の小説『陰陽師』の創作にインスピレーションを受けることはありそうですか?

インスピレーションというか、いつか博雅と晴明の出会いを書こうとは思っていたんです。今回は出会いの部分が描かれたので、ぼくがやるときは違うやり方にしようとは思っています。本作があったおかげで、逆に違うことを考える楽しみができました。

──改めて映画への純粋な感想を教えてください。



本作のプロモーション用の取材で、すでに20回ぐらい言ったかもしれませんが(笑)。

最初に東宝スタジオで観たんです。スタッフがいて、監督と一緒に並んで観てたんだけど、どのタイトルでも映像化作品を観る前って原作者にはちょっとしたプレッシャーがあるんですよ。

でも、観た後に気が楽になった(笑)。「これイケるんじゃないの? これはくるんじゃないの?」と言ったのが最初の言葉だと思います。

──手応えを感じられたと。


純粋にいい作品で、第一印象は「これが陰陽師だ」とか「陰陽師じゃなかった」とか「私の書いた晴明に近いな」とかそういう感想ではなくて「ああ~実にいい映画を観たなぁ」だったんです。映画としてとても素晴らしいものになったなと思ったんですね。

──予告編にも切り取られていますが、晴明が博雅に「俺を信じろ」というシーンなど、グッときますよね。

やっぱりそこはね、落涙寸前ですよ。私的にはあれはね「アイラブユー」なんですよ。

それまで博雅にすれば晴明に対して「なんだよ、こいつ」みたいな要素もあって。でもちょっとは気になる。晴明は晴明で「博雅、うざい」という温度でずっと進んできたのが、いつの間にか「俺を信じろ」ですよ。

その言葉はもはや「俺とお前はもうラブラブだろ?」という前提が2人の間にないと言えないセリフじゃないですか。男女の関係だったら、もう愛の告白のシーンなんですよ、あそこは。

──CGもヤバかったですね。

いやもうCGは、山崎貴監督と映画『ゴジラ-1.0』を作った白組(総合映像制作プロダクション)が担っているので。彼らは相当昔から本当にすごいですよ。

──今後も小説『陰陽師』は永遠に書かれてゆく物語であって、最終回は描かれない気がします。

最終回はないですね。書かなくなるのはたぶん私が死んだときだと思っていて。そのときがラストでしょうね。でもまだまだこれからも、いろんな展開がありますよ(笑)。

──小説『陰陽師』しかり、映画『陰陽師0』しかり、やっぱり強い衝撃でした。よくぞあそこまでロマンチックにしてくださいましたと感じています。映画を待ちわびるファンにメッセージを!

「とにかく安心して観てください!」につきます。原作小説や原作漫画のファンで実写化されると「私の思っていた○○様ではない」と思われる方が必ず一定数いらっしゃる。でもそれはもうしょうがないんです。しかし、今回はそういう心配は一切ありません。

それぞれが想う安倍晴明像と寸分違わぬ完璧に同じイメージなどはあり得ないけど、この映画については、「これは晴明じゃない」っていうセリフは出ないと思うんです。たぶんあなたが考えている安倍晴明像があれば、必ずその中のどこかに引っかかってくる晴明になっているはずなので、そういう心配はね、今回はいりません。

取材・文/米澤和幸(lotusRecords)
撮影/殿村忠博
場面写真/©2024映画「陰陽師0」製作委員会

『陰陽師0』

4月19日(金)全国ロードショー

出演:山﨑賢人、染谷将太、奈緒、安藤政信村上虹郎板垣李光人國村隼北村一輝、小林薫
原作:夢枕獏「陰陽師」シリーズ(文藝春秋) 
脚本・監督:佐藤嗣麻子
配給:ワーナー・ブラザース映画

公式サイト onmyoji0.jp
公式X @onmyoji0_movie 
公式Instagram @onmyoji0_movie
公式TikTok @onmyoji0_movie

呪いや祟りから都を守る陰陽師の学校であり省庁――《陰陽寮》が政治の中心だった平安時代。呪術の天才と呼ばれる若き安倍晴明は陰陽師を目指す学生とは真逆で、陰陽師になる意欲や興味が全くない人嫌いの変わり者。

ある日晴明は、貴族の源博雅から皇族の徽子女王を襲う怪奇現象の解決を頼まれる。衝突しながらも共に真相を追うが、ある学生の変死をきっかけに、平安京をも巻き込む凶悪な陰謀と呪いが動き出す――。史上最強の呪術エンターテイメントが幕を開ける!