〈戦隊シリーズ50周年〉「グリーンは極力使わないようにした」製作陣も怯える“グリーン恐怖症”を名物プロデューサーが解説
〈戦隊シリーズ50周年〉「グリーンは極力使わないようにした」製作陣も怯える“グリーン恐怖症”を名物プロデューサーが解説

1975年に『秘密戦隊ゴレンジャー』が誕生し、スーパー戦隊シリーズは50周年を迎える。これまで49作品が作られてきたが、いつの時代も子どもたちのヒーローとして活躍してきた。

 

 

そんなスーパー戦隊シリーズには「お約束」がある。5人あるいは3人がそれぞれ色分けされたスーツに身をつつみ、リーダーはレッド。女性にはたいていピンクが割り当てられ、最後は巨大化した敵と合体ロボットで戦う……。しかし、色分けは作品ごとのモチーフによって異なっている。それはなぜだろうか。50年の歴史とその秘密に迫るーー。 

実は少ないグリーンの戦士

スーパー戦隊シリーズといえば、レッド・ブルー・イエロー・グリーン・ピンクの『ゴレンジャー』型が基調ではあるが、ホワイトやブラックが加わる場合もあり、必ずしも「女性ヒーロー=ピンク」というわけでもない。

実際、今期放送の『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』では、スーパー戦隊シリーズ史上初となる“女性ブラック戦士”が登場している。

こうした構成人数やカラーリングについて、スーパー戦隊や仮面ライダーシリーズなど、数多くの特撮作品にプロデューサーとして携わってきた東映の白倉伸一郎氏に話を聞いた。

 スーパー戦隊シリーズは、若手俳優たちの登竜門でもあるため、オーディションは非常に熾烈な戦いになる。そこで、「女性ヒーローはピンクだけだが、2番目によかった女優もイエローで採用しよう」「この俳優はイエローよりもブラックの方が似合うから変更しよう」といった配役や配色の調整がなされるのだろうか?

「いえ、オーディションの段階で男女比はすでに決まっているので、行き当たりばったりにはなりません」

それでは、色の組み合わせは、どのように決まるのだろうか?

「ベタなのは、合体ロボットの完成形から逆算する方法です。車や飛行機など、戦士ひとりひとりに色違いのメカがあり、それらが『車は脚、飛行機は右腕』というように、色違いのパーツが合体してロボットになります。そのロボットになったときのカラーバランスをもとに、実際の等身大キャラクターたちの色が決めるということは多いですね」

歴代作品の色分けを見ていると、白倉氏の言うようにレッドとブルーは皆勤賞。

次いでイエローとピンクが続き、グリーンは実はブラックと大差がない。グリーンがメイン色に比べて少ない理由とは?

「製作陣の間では、かつて“グリーン恐怖症”と呼ばれ、グリーンを極力使わないようにしていた時期がありました。理由は2つあります。1つ目は発色の問題。グリーンは衣装の素材としていい色味の生地がなかなか手に入りません。

染めようとしても、染料に対応していない素材が多く、塗装しても剥がれやすいことがあります。特にスーツはタイツ地が多いため、生地の制約を受けやすいんです。

2つ目は合成処理の都合です。スーパー戦隊シリーズではグリーンバック(クロマキー合成)を多用するため、ブルーとグリーンが同じ画面にいると“抜け(背景と同化してしまうこと)”が発生しやすく、非常に扱いづらいのです」

モチーフだけでなく、技術的な理由からもカラーリングは決まってくる。それでは、構成人数が3人だったり5人だったりするのはなぜだろうか?

「最低構成人数は3人と決めていて、なるべく奇数にしようとしています。ストーリー構成的にも、実は3人のほうが描きやすいんです。5人の場合、ひとりひとりを順番に登場させると、全員が揃うまでに最低でも5話は必要になります。

序盤のキャラクター紹介としてはいいのですが、その後の日常パートで5人全員を毎回出すとなると、一人ひとりのキャラクターを掘り下げる余裕がありません。その点、3人構成なら30分の中で10分ずつ、しっかり描けますよね」

スーパー戦隊の女性キャラは必須

一方で、「なるべく奇数に」という白倉氏の発言も気になる。なぜ4人組は避けられるのだろうか?

「明確なルールはありませんが、『奇数』というのが“お約束”なんです。そしてこれは、スーパー戦隊シリーズに限った話ではありません。映画『七人の侍』もそうですよね。『六人の侍』ではしっくりこないでしょう。集団は3人・5人・7人が基本……。これは歌舞伎など伝統芸能の時代から続く、業界の“申し送り事項”のようなものです」

予想外の回答だが、他方で主な視聴者層である男の子たちのことを考えると、「全員男性でもいいのでは」とも思えてくる。多くの男の子にとって、欲しいのはレッドの玩具であり、ピンクを与えられても戸惑うかもしれない。

「実際、スポンサーの立場から見ても、全員男性キャラクターのほうが都合がいいこともあります。男の子にとって、同じ“男性”という“なりたい理想像”としてのヒーローに憧れるのは自然なことです」

ただ、スーパー戦隊シリーズの視聴者層は男の子だけに限らない。

「とはいえ人口比でいえば、男女は半々です。

番組人気という面では、女の子を含めた“女性層”も間違いなく大切なお客様。番組として、女性視聴者は決して取りこぼしたくない存在なのです」

「ニチアサ(※)」は、『プリキュア』シリーズから始まり、『仮面ライダー』シリーズを挟んで『スーパー戦隊』シリーズへと続く構成になっている。『プリキュア』を見て、そのまま『スーパー戦隊』シリーズを視聴する女の子がいても不思議ではない。(※テレビ朝日系で放送されていた、子ども向け番組の放送時間帯に付けられた愛称)

「ただ、女性もスーパー戦隊シリーズを“男の子向けの番組”として認識しているため、やはり主役であるレッド(=男性キャラクター)に注目が集まりがちです。女性キャストがいても、女性視聴者が必ずしもそこを見ているとは限らないのです。

とはいえ、男性キャラクターだけでは“バランスを欠く”こともあります。そういった意味でも、敵役を含め、女性キャラクターは大事な存在なのです」

知れば知るほど奥が深いスーパー戦隊シリーズの舞台裏。こうした前情報を踏まえて、最新作『ゴジュウジャー』を視聴するのも、ひとつの楽しみ方かもしれない。

映画「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー 復活のテガソード」7月25日公開

取材・文/千駄木雄大  

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