
コロナ禍を経て、ECサイトで買い物をするという購買習慣が日常になった人も多いだろう。しかし、実は日本のEC化率はそれほど高まっていないという現状がある。
その現状について『小売ビジネス』より一部抜粋・再構成してお届けする。
オンラインに向いている商品と向いていない商品
突然ですがクイズです。日本のEC化率は何パーセントでしょうか?ここでは食品や書籍や日用雑貨をはじめとした物販について考えてみてください。ご自身の普段の生活を思い描きながら、直感で結構です。
経済産業省の調査によると、答えは9.38%(2023年度調べ)です。
「え?たったそれだけ?」と思われたかもしれません。普段の買い物を振り返りながら思い描いた答えが、50%や60%以上という方、あるいは20%程度とお答えになった方もいらっしゃるでしょう。ただ1桁と思った方は少ないのではないかと思います。
このEC化率クイズは、講演やディスカッションの際の私の鉄板ネタの一つです。これほど生活実感を裏切る数字はありません。ただ、客観的に生活を振り返る上で、この問いは多くのことを教えてくれます。
イメージと客観的な数字が異なる一つ目の大きな理由は、「食品がEC化していないから」です。
でも、普段の食生活はどうでしょうか? さすがに日々の食生活のほとんどをECで購入する方はまだ多くありません。日々の食品市場はおよそ65兆円ありますが、そのうちまだたったの4.3%、2.9兆円しか食品はEC化していないのです。
そもそもECには、オンラインで買うのになじむ商品となじみにくい商品があります。
EC化しやすいものの特徴は、汎用的な商品、なおかつ購買頻度が低い商品です。先ほどの書籍や生活家電は、実店舗で現物を目で見て買っても、事前情報を検索してオンラインで買っても、買う前の想像を裏切らないものです。
一方で、個別性の高いものはECで売るのにかなり工夫が必要です。ECより実店舗で買うのが好まれるのが食品、生鮮食品です。
首都圏と郊外のEC利用格差
そしてもう1点、客観的な数字とイメージが異なる理由は地域差です。冒頭のクイズで50%以上と思われた方は、首都圏や大都市圏にお住まいの方でしょう。また20%くらいをイメージされたとしたら、地方・郊外にお住まいの方かもしれません。
EC販売額は2023年度実績で14.6兆円あります。
つまり、ECはそもそも首都圏や大都市圏の生活にフィットしたもので、地方や郊外の生活では実店舗が利用される傾向にあります。
では、なぜ都市と地方でそんなに大きな違いが出るのでしょうか?もっともシンプルかつ強力な答えは、買い物習慣の違いです。特に地方郊外の生活では、「生活動線であるロードサイドに店舗があって、自動車で買い物できるから」だと考えています。
共働きで買い物を担う女性や男性は、そもそも生活に必須な軽自動車という機動力を持っています。そしていつものパート勤めや通勤途上のロードサイドに出れば、そこにはドラッグストアやスーパー、そのほかの専門店が充実しています。
品揃えも充実して価格競争力もあります。ECで頼むと数日~数週間待つ必要がありますが、即、ワンストップショッピングができる実店舗のほうが便利です。
文/中井彰人 中川朗
『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
中井彰人 中川朗
グローバル化から離れ、ガラパゴス化した業態。
海外からも注目される独自進化した「小売」の今。
生活に密着している業界だからこそ、その進化から目を離せない。
「小売」というと、製造業がいて、問屋があって、というイメージだが、実態はもっと複雑で、従来型の「仕入れて売る」という業態もあれば、もっと総合的なかたちですべてのサプライチェーンを内製化している企業もある。
(目次)
近現代史から学ぶ日本市場のガラパゴスな世界
チェーンストアから学ぶ小売の栄枯盛衰の世界
食品ディスカウンターに学ぶ覇権争いの世界
変化対応力から学ぶ小売専門店の世界
ネットスーパーから学ぶECの世界
インバウンド需要から学ぶアウトバウンドビジネスの世界
メーカーと問屋から学ぶ物流システムの世界
データから学ぶ小売DXの世界
最新テクノロジーから学ぶ未来の小売世界