〈サイゼリヤの快進撃〉店舗数拡大でガストを超え日本一も視野、「値上げしない」宣言でも営業利益が急伸のワケ
〈サイゼリヤの快進撃〉店舗数拡大でガストを超え日本一も視野、「値上げしない」宣言でも営業利益が急伸のワケ

値上げをしない姿勢を貫いてきたファミレスチェーン「サイゼリヤ」が快進撃を続けている。今年上半期の国内事業の営業利益が前年の1.9倍に急増した。

昨今のレストラン経営は客数を犠牲にしても値上げを断行し、収益性を高める傾向が常識となりつつあったが、サイゼリヤはそこに一石を投じた形になる。

値上げをせずにサイゼリヤが収益性を高めたことは、経営戦略において大きな意味を持つ。最大のライバルとなるガストの店舗数を超える未来も十分にありえる。

なぜ「ガスト」は減って「サイゼリヤ」は増えているのか?

サイゼリヤの2025年1月から6月までの「既存店」の客数は前年比13.9%の増加だった。既存店とはオープンから一定の期間が経過した店舗のことを指し、新規開業による高い集客効果を排除した本質的な集客力を表す。

サイゼリヤはすべての月で既存店の客数が2ケタ増となり、その強さを物語っている。客単価はわずか1.4%の増加に過ぎないが、売上高は15.6%の増加だ。

一方、ガストを運営する、すかいらーくホールディングスの同期間の客数は2.4%、客単価は5.8%の増加だった。売上は8.4%増えている。すかいらーくは今期も2ケタの増収、営業増益を予想しており、業績は極めて良好だ。ただし、客数と客単価のバランスをとる、難易度の高いかじ取りを余儀なくされている。

それを如実に示す数字がある。すかいらーくは2024年に55店舗もの業態転換を行なっている。

これは集客効果を高め、同時にカニバリズムを解消する取り組みだ。カニバリズムとは、同じ商圏内で顧客の食い合いが起こることを指す。

すかいらーくの主力ブランドであるガストは閉店や業態転換を進めており、2024年末の店舗数は前年から31店舗純減し、1249店舗となった。今年も3月末までに5店舗を閉鎖している。

すかいらーくは、今年都内初進出して話題を呼ぶ「資さんうどん」を買収したが、カニバリズムを解消するためには業態のまったく異なるブランドが必要だった。客数を犠牲にして客単価を引き上げ、収益性を高めた企業は自ずと多ブランド化が必要になるわけだ。

一方、サイゼリヤは2024年9月から2025年5月までで25店舗を出店した。前年から13店舗の純増となる1051店舗。「集客力」と「需要」はほぼ同じ関係にあるため、出店をする余力が残されていることになる。ファミレス業界で店舗数日本一を誇るガストだが、このまま退店や業態転換を進めて一進一退が続けば、サイゼリヤがそれを追い越す可能性は大いにある。

外食したくても思うようにできない庶民の懐事情

消費者の意識の変化もサイゼリヤには追い風だ。「外食したい」にも関わらず、インフレで外食を控えている庶民の姿が浮かび上がってくるからだ。

家計調査によると、2025年5月の外食の出費は1万7474円だった。

2019年同月比で11.4%の増加である。市場の値上げによって支払い額が増える一方で、外食頻度は落ちている。

リクルートの「外食市場調査」によると、2019年5月の外食頻度は月4.2回だった。2025年5月は3.9回である。月額の外食費は1割以上増えているにも関わらず、頻度は減って4回を下回った。

飲食店情報サイト「ぐるなび」が行なった外食の意向調査(「2025年の外食産業見通し」)では、2025年に「外食頻度を増やしたい」との回答は2割に及んでいる。そして、利用したい店の特徴で「お得感がある」との回答は4割近くに及ぶ。

コンビニではすでに安値への回帰が始まっている。「うれしい値!宣言」で価格訴求力を高めたセブンイレブンは、客数が回復に転じた。ローソンも値段を据え置いて50%増量した「盛りすぎチャレンジ」弁当が好調だ。

 近年の物価高のあおりを受けて、特に若者はコストパフォーマンスを重視するようになった。サイゼリヤのようなシェアがしやすく値ごろ感があり、品質が安定しているブランドは最適となるはずだ。



市場傾向から見ても、今後十分な出店余地が残されているように見える。

吉野家はラーメンでの巻き返しを図る

さらに、これまでサイゼリヤが値上げをせずにインフレ下で我慢を続けたことは別の意味も持つ。成長に必要なカードを残すことができたのだ。多くの企業はすでに値上げというカードを切っている。

2019年に売上が3000億円を下回っていたマクドナルドは、値上げによって瞬く間に4000億円を突破した。しかし、今の日本人の所得水準を考えれば、値上げ余地はもうほとんど残されていない。実際、今期は1%台の増収を計画しており、6%の増収だった前期からトーンダウンしている。

かつて280円で提供されていた吉野家の牛丼並盛は今や498円で、500円に限りなく近づいた。吉野家は今期の客数がすべての月で前年を下回っている。

牛丼に対して消費者は特に価格に敏感で、値上げ耐性がない。2024年12月にラーメン店「キラメキノトリ」を買収しているが、やはり多ブランド化の道を辿ろうとしているようだ。

飲食店の売上は客数と客単価で構成されている。

企業理念や経営者の意向にもよるが、理論的にはサイゼリヤは価格を引き上げる余力が十分に残されており、これは成長の潜在性があるのと同義だ。

値上げをしないという単純な戦略を貫いたサイゼリヤだが、ここにきてその成果は大きなものとなった。飲食企業は足元で大きな分かれ道を歩んでおり、サイゼリヤだけがライバルとは違う道を進み始めている。

取材・文/不破聡 写真/shutterstock

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