「だったら先に言ってくださいよ!」Z世代の育成に頭を抱える上司たちの悲鳴…ミドル層との分断が深刻化「4つの特徴」厳しい指導は苦手、作業の意味を気にする…
「だったら先に言ってくださいよ!」Z世代の育成に頭を抱える上司たちの悲鳴…ミドル層との分断が深刻化「4つの特徴」厳しい指導は苦手、作業の意味を気にする…

近年、職場で深刻化するZ世代(20代前半)とミドル世代(35歳以上)の分断。新入社員のOJTを若手に任せる管理職の増加、そして「叱られた経験がない」Z世代の価値観との衝突が、この溝を深めている。

リクルートマネジメントソリューションズの調査では、Z世代が「個性の尊重」や「丁寧な指導」を求める一方、ミドル世代は「鍛え合う職場」や「厳しい指導」を理想とする、真逆の価値観が浮き彫りになった。さらに、初任給の引き上げがミドル世代の不満を増幅させ、世代間の対立は激化する一方だ。この世代間ギャップが企業に与える影響について、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。 

なぜ?Z世代とその上の世代が互いに疑心暗鬼 

今、職場内で20代前半のZ世代と35歳以上のミドル世代の間で深刻な分断が生じている。今年入社した新人は配属先でのOJT(職場内教育)の最中であるが、企業研修を手がける外部講師は「まだ一人前とはいえない入社2~3年目の社員に指導役を任せようとする管理職層が増えている」と語る。

「以前なら中堅の30代社員が指導役を担当したものだが、新人とのコミュニケーションギャップを気にしてか、何を話していいかわからないという不安もあり、入社2~3年目の社員なら年齢が近く話も通じやすいからという理由だ。

上司も『君に任せる。あとはよろしく』というパターンが多い。一方、指導役も『自分じゃ無理でしょ』という不満を抱える人もいれば、鬱になったとか、夜シャワーを浴びていてもずっと育成のことがこびりついて休めないという声も聞く」

Z世代とその上の世代が互いに疑心暗鬼を抱いている様子がうかがえる。しかも、自分たちに指導役を押し付けられたZ世代の不満や恨みはミドル世代に向く。

結果的に分断がさらに拡大していくことになる。なぜミドル世代はZ世代を避けようとするのか。建設関連業の人事担当者はその事情をこう語る。

「10年前は当社でも『お前、仕事やる気があるのか』と叱りつける根性論のミドル層も多かったが、今は部下に気を遣う人が増えている。今の新人は大体叱られたことがない人たちが多い。

例えば取引先から電話の応対が悪いというクレームを受けて、数人の若手社員を叱りつけた上司がいた。ところが若手の1人が『僕は悪くないのにどうして一緒に叱られなければいけないんですか、人格の否定です』と文句を言ってきたことがあった。

上司もあ然としていたが、昔と違って叱り方を間違えれば、すぐに反発を招く。それが重なり、萎縮している上司も少なくない」

Z世代の特徴の一つ「厳しい指導は苦手」 

分断の背景にはZ世代の働き方や仕事に対する価値観が昔と変化していることにある。Z世代はSNSに慣れ親しんでいる一方で、対面コミュニケーションの経験に乏しく、『仲間』以外の世代との距離感に戸惑う面もある。また、タイパやコスパを重視し、唯一の正解を求める傾向がある。

仕事の面では、①厳しい指導は苦手、②タイパ・コスパを重視し、自分にとって意味があることを重視、③長時間労働よりもプライベートを重視、④会社への見切りが早く早期離職の傾向――という特徴がある。その特徴は調査でも浮き彫りになっている。

リクルートマネジメントソリューションズが調査した「理想の職場・上司」の2013年入社の社員と、2023年入社のいわゆるZ世代の比較によると、2013年の新入社員の理想の職場は「皆が1つの目標を共有している」「お互いに鍛え合う」「活気がある」職場が上位を占めていた。

しかし10年後の2023年は「お互いに個性を尊重する」「お互いに助け合う」職場が上位を占めている。

また、理想の上司像も2013年は「周囲を引っ張るリーダーシップ」「仕事に情熱を持って取り組む」「言うべきことは言い、厳しく指導する」上司が上位を占めていたが、2023年は代わって「一人ひとりに対して丁寧に指導する」「よいこと・よい仕事をほめる」上司が上位を占めている。

とくに厳しく指導する上司は20.6ポイントも下がっていた。この傾向は2025年の調査でも変わらない。

組織の結束より自分という個を優先 

こうした違いについてリクルートマネジメントソリューションズの担当者は「10年前は組織に適応し、一致団結して目標を達成し、成果を上げること、同時に社員同士が切磋琢磨し、競争し合う職場が自分も成長していくことにつながると考えていた。

しかし今は我慢して組織にあわせるのではなく、個性を尊重し合い、それぞれの強みを活かして助け合う組織を好む傾向に変わっている。上司も情熱的で厳しい上司ではなく、一人ひとりの個を尊重し、丁寧に指導し、ほめてあげる上司を望むようになっている」と語る。

組織の結束より自分という個を優先し、しかも自分の成長につながる丁寧な指導を求めるというのは10年前とは真逆の価値観であり、Z世代の特徴がよく表れている。

しかも2013年に入社した人が今では先輩や上司の世代でもある。当然ながらZ世代とミドル世代とでは価値観がぶつかることが多い。

今の若手「だったら先に言ってくださいよ!」

前出の担当者は「以前はとりあえずやらせて、何か失敗したら、どうして失敗したのかを考えさせる指導法だった。しかし今の若手は『だったら先に言ってくださいよ!』という思いが強い」と語る。

仕事を指示する場合もなぜそれをやるのかという納得感が大事であり、昔ながらの「とりあえずやらせて失敗したら教える」では腹落ちするどころか逆に反発さえ招くことになる。

また、昔であれば「そんなこともできないのか」「学校で習わなかったのか」という言葉がつい出がちだったが、今では禁句となりつつある。

部下がミスしたら「二度とするなよ、ではなく、なぜやってはいけないのか、その理由をちゃんとフィードバックする」(担当者)必要があり、それができなければ離職を招くリスクも高くなる。

長年Z世代を見てきた文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所の平野恵子所長は

「嫌なこと、自分には無理と思ったら、『ファーストキャリアだし、辞めてもいいや』という感覚はZ世代のほぼ全員が持っているのではないか。

例えば学生時代に在宅でのオンライン生活を長く強いられたため、社会人になって惰性的に対面で何かをやらせると、『これってわざわざ出社して対面でやる必要ある?』とか、『タイパが悪いのでは』といった違う価値観を持っている。なので働き方のスタイルにギャップを感じたら転職を考えはじめる可能性はある」と指摘する。

人手不足の時代に若手に辞められたら会社も困る。しかし、仕事に対する考え方や価値観の異なるZ世代とのコミュニケーションを円滑にするには、ミドルの側の対話力、言語化力が問われることになる。

だが、そうした能力を持つ管理職は2割もいないという声もある。そうなるとミドルの不満や反発もさらに高まり、分断が拡大することになる。

分断に拍車をかけているのが、昨今の初任給の引き上げ 

実はその分断に拍車をかけているのが、昨今の初任給の引き上げだ。初任給の引き上げによってミドル世代の昇給が抑制されることへの反発や不満が発生している。

もちろん初任給引き上げ率と同様に社員全員を底上げすれば問題はないが、当然、人件費が増大し、経営を圧迫しかねない。

会社としては給与が逆転しないためには入社2年目以降の社員は初任給のアップ率と同率の賃上げを実施していき、年齢が高くなるにつれて賃上げ率を徐々に引き下げて調整することになる。

ただし、30代社員の給与の引き上げ率は若手に比べて低く、数千円程度の上げ幅にしかならない。

Z世代が恩恵を受け、ミドル世代が割を食う 

当然、中堅社員の不満は高まる。今年、初任給を22万円から25万円に引き上げた建設関連会社の人事部長はこう語る。

「初任給を高くすると逆転現象が発生するので少なくとも30歳ぐらいまでは賃金の補正をしないといけない。その結果、あまり差がつかない中堅の社員から『自分たちががんばってきたこの7~8年は何だったんだ』という反発も発生している」

会社としては人材獲得のために初任給を引き上げざるを得ないが、結果的にZ世代が恩恵を受け、ミドル世代が割を食うことになる。その矛先は会社ではなくZ世代に向かう。世代の分断が広がれば、社員のモチベーションに悪影響を与え、生産性にも影響することになるのは間違いない。

文/溝上憲文

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