
7月20日投開票となった参院選で、「日本人ファースト」を掲げた参政党が14議席を獲得し、予算を伴わないという条件付きながら、単独で法案を提出できる議席を確保した。議会では少数勢力ではあるが、比例代表の得票数で野党第一党である立憲民主党を上回り、国民民主党に並ぶ7議席を獲得したという事実は重い。
参政党躍進に戦々恐々としている大手不動産デベ
参政党は今回の選挙にあたって公表した政策集で「外国人による住宅の購入に制限を設けて高騰を抑制し、土地購入は厳格化し基本禁止とする」「外国人による土地、不動産、インフラ設備、企業の売買監視と規制推進」という公約を掲げた。
都内のマンションの平均価格が1億円を超える状況が常態化し、持ち家が高嶺の花となった現在、こうした政策は国民感情に寄り添ったものだと言える。
今回、参政党と並び躍進を遂げた国民民主党も外国人による投機目的の不動産取得に追加の税負担を求める「空室税」導入を追加公約として盛り込んだほか、石破茂首相も「日本人が23区で部屋を持てないのはおかしい」として、外国人の不動産投機の実態を把握すると表明した。
参政党の掲げる政策と勢いに、既存政党が呑み込まれつつあるという構図だ。
こうした状況に戦々恐々としているのが、都心部で不動産を開発している大手不動産デベロッパーだ。三井不動産、三菱地所、住友不動産、野村不動産ホールディングス、東急不動産ホールディングスの大手5社の25年3月期の連結純利益はそろって増益で、全社が最高益を更新した。
各社とも、利益の源泉となっているのは住宅事業だ。いずれも近年は新築マンションの価格を引き上げることで莫大な利益を上げている。
例えば、三井不動産の場合、25年3月期に販売した分譲マンションの平均価格は1億220万円と、前期から2割近く上昇した。ちなみに、26年3月期はさらに上昇し、1億4280万円を予定しているという。
建築コストが大幅に上昇している中、利益を出すために価格転嫁をせざるを得ないというのが三井不動産側の説明だが、同社の住宅分譲事業の営業利益率は23.3%と、超高収益事業となっている。
強気の姿勢を支えた中国をはじめとした海外マネー
ちなみに新型コロナウイルス禍前の平均販売価格は7000万円台で、利益率は10%前後だった。価格を上げても購入する人たちがいるので、需要と供給に沿って価格を引き上げているというのが真相だ。
この強気の姿勢を支えている一端が、中国をはじめとした海外マネーの流入であることは間違いない。中国人が愛用するメッセージアプリであるWeChat(日本のLINEに相当)では、三井不動産をはじめとした日本の有力デべが手掛ける新築タワーマンションの情報が共有され、どの部屋の人気が高くなりそうか、相場と比べて割安かといった議論が交わされている。
実際にやり取りを見せてもらったところ、24年に販売され、超人気物件となったザ・豊海タワー マリン&スカイ(中央区)やリビオタワー品川(港区)の情報が飛び交っていた。
世界各国の都市の生活情報を収集するNumbeoによると、東京のマンション価格は1平方メートルあたり1万660ドル(約160万円)となっている。
アジアの主要都市と比較すると、上海や台北は東京の1.4倍、ソウルは約1.7倍、シンガポールは約2.1倍だ。かつての富の象徴とされた「億ション」だが、円安も相まって、海外の投資家目線でみると割安感が出ている。
モデルルームには中国語や英語を理解するスタッフ
各社とも、こうした需要を取りこぼさぬよう、モデルルームには中国語や英語を理解するスタッフを配置するなどして、「爆買い」を積極的に受け入れている。
三菱UFJ信託銀行が3月に公表したレポートによると、千代田区・港区・渋谷区で販売したマンションの外国人取得割合について尋ねたところ、「20%以上」という回答は約7割だった。
こうした状況下、投資目的の海外マネーの流入を止めるという政策は、国民から好意的に受け入れられる可能性がある。そもそも、不動産価格の上昇を抑えるために自国民と外国人で条件を変えるのは世界的に珍しい話ではない。
カナダ政府は23年から外国人の住宅用不動産購入禁止令を導入した。シンガポールでも同年、外国人が不動産を購入する際に支払う「加算印紙税」の比率を60%と、これまでの2倍に引き上げた。
オーストラリアも25年4月、居住者ではない外国人による投資目的の中古物件の購入を2年間にわたり禁止する規制を導入している。いずれも、中国人を念頭に置いたものだ。
参政党や国民民主党が提案している外国人向けの規制は、こうした国々を参考にしているとされる。
財閥系デベ「いくらでも抜け道はある」
ある財閥系デベロッパーの社員は「中国人は法人を通じて物件を購入するケースもあり、法人の代表を日本人にするなど、抜け道はいくらでも作れるのでは」と予想するが、政府が表立って海外からの投資マネーの受け入れを制限するようになれば、その影響は計り知れない。
「日本人ファースト」が不動産に影響を与えるのは、販売面だけではない。「外国人労働者抜きでは、日本の建設現場は成り立たない」と断言するのは、日本を代表する大手ゼネコン会社の社員だ。
建設現場では職人の高齢化が進んでおり、残業規制の強化も加わり人手不足が深刻化している。ゼネコン各社はベトナムやインドネシア、ミャンマーなど外国人人材を建設現場に受け入れることでなんとか仕事を回している状況だ。
出入国在留管理庁によると、人手不足の産業を支援する目的で外国人を受け入れる「特定技能制度」の下で建設業で働いている外国人は24年末の時点で、3万8578人と、前年から2割増、2年前から6割増となっている。建設事業は製造業や介護に続く、外国人受け入れ産業となって久しい。
外国人労働者の受け入れは経済界の要望を受けたもの
少子化により日本人の労働力が減少している上、若年層を中心とした肉体労働への忌避感が増す中、現場作業を担う外国人労働者が今後も増え続けることは間違いない。
埼玉県川口市でクルド人が解体工事業を営んでいるのも、そもそも日本人の成り手がおらず、そこに目をつけたクルド人たちが事業を請け負うようになったという事情がある。
一方、外国人労働者の増加は、参政党を躍進させた最大の要因でもある。参政党は「実質的な移民政策である特定技能制度の見直しを行い、外国人の受入れ数に制限をかける」とぶち上げ、受け入れる外国人の人数制限や日本語習得条件の厳格化といった施策を掲げる。
そもそも、外国人労働者の受け入れは経済界の要望を受けたもので、自民党長期政権下でなし崩し的に進んできた経緯がある。
特定技能制度の事実上の前身である「技能実習制度」ではこれまでに約1万人の失踪者が発生し、その一部は不法就労に就いたり、犯罪組織に加わったりといったことが社会問題になっている。
政府として「移民ではない」という態度を取り続け、本質的な問題から目を背け続けてきたことが参政党躍進の一因となったゼノフォビア(外国人嫌悪)の感情を生んだのは事実だ。
ますます日本人がマンションを買えなくなる可能性
国会の議論次第ではあるが、今後、外国人労働者の受け入れに一定の歯止めがかかる可能性がある。そうなれば、建築コストがさらに上昇し、中野サンプラザや新宿駅南口の再開発のように、建設プロジェクトが止まる事例が多発し、新規物件の供給が減ることは間違いない。
海外マネーの流入を抑えたところで、新たな物件が供給されなくなれば、価格は下落するどころか上昇し、「ますます日本人がマンションを買えなくなる可能性が高い」(全国紙経済記者)。
不動産業界における「自国民ファースト」を成功させるためには極めて絶妙なバランス感覚が不可欠だ。
例えばシンガポール政府は外資の購入規制を用意周到に準備した上で政策発表後に即実施することで抜け道を防ぎつつ、建設業の7割を占める外国人労働者は引き続き受け入れることでバランスを取っている。
翻って、我が国はどうだろうか。少数与党で求心力を失った与党と批判だけで無責任な野党が構成する国会に、我々の「住まい」の未来は託されている。
文/築地コンフィデンシャル