「国民の16%がリアル視聴をやめた」下げ止まりの兆しすら見えないテレビ業界はどこに新たな活路を見出すのか
「国民の16%がリアル視聴をやめた」下げ止まりの兆しすら見えないテレビ業界はどこに新たな活路を見出すのか

フジテレビをめぐる問題をはじめ、大揺れのテレビ業界。しかし、業界全体の凋落は今に始まったことではない。

広告収入はネットの半分に落ち込み、まったくテレビを見ない若者が急増した。このままテレビを見る人は誰もいなくなるかもしれない。

元NHKアナウンサーの今道琢也氏の著書『テレビが終わる日』より一部抜粋・再構成してお届けする。

このまま行けばテレビは誰も見なくなる?

若者を中心に、テレビ離れが進んでいると言われます。ある高校の先生から聞いた話ですが、「最近の生徒は、学校でテレビのことをほとんど話題にしない」のだそうです。私の周りでも、「昔に比べて見なくなった」「もうテレビはほとんど見ない」という声を聞きます。

若い人に限らず、私と同世代の人でも、そう話す人が少なくありません。中には、「そもそもテレビを持っていない」という人もいます。かつては家の真ん中にテレビがあって、食事の時間などに家族そろって見る、というイメージがあったのですが、今では様変わりしてしまったようです。

かくいう私も、以前に比べるとテレビの視聴時間は激減しました。きっかけは、インターネットにダイレクトに接続できるテレビを買ったことです。テレビをつけると、リモコンのボタン一つでインターネットにつながり、YouTubeやAmazon Prime Videoなどのネット動画を見ることができます。

3年ほど前、このタイプのテレビに買い換えてから、本当にテレビ番組を見なくなりました。

視聴時間は、以前の5分の1くらいになったのではないでしょうか。

「以前テレビ局にいた私でさえ、テレビを見なくなった。このまま行けばテレビは誰も見なくなるのではないか?」

テレビの置かれた現状を考える上では、何よりも、今どれだけの人がテレビを見ているのか、昔と比べて視聴時間はどう変化しているのかを知る必要があります。そこで、まず、テレビを「リアルタイム」で見ている人がどれくらいいるのかについて、分析してみます。

総務省が毎年行っている調査に、「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」があります。この中の「テレビ(リアルタイム)の行為者率」を分析することで、国民のテレビ視聴が、どのように変化しているかを知ることができます。

国民の16%がリアル視聴をやめた

「テレビ(リアルタイム)の行為者率」とは、耳慣れない言葉なので、少し説明する必要があるでしょう。ここでいう「テレビ(リアルタイム)」とは、録画やネット上での番組視聴ではなく、放送時間にテレビ番組を見ることを指します。

調査では、その「行為者率」を出しているわけですが、1日のうちに少しでも、リアルタイムでテレビを視聴している時間帯があれば、その人は「テレビ(リアルタイム)の行為者率」の中にカウントされます。

抽出されているのは「テレビを少しでも『リアルタイム』視聴する時間帯のある人」です。このことをどう捉えるかですが、考えてみると、数分の視聴であれば、「テレビを見ようとして電源を入れたけれど、面白そうな番組がなかったのですぐ消した」とか、「テレビを見る気はなかったが、病院の待合室でたまたま目に入った」といったケースも多いはずです。

このようなケースは、本当の意味で「テレビを見た」とは言えないでしょう。

ですから、ここで言う「テレビ(リアルタイム)の行為者=1日のうちに少しでもテレビを『リアルタイム』視聴する時間帯のある人」とは、「リアルタイムで、ある程度ちゃんとテレビを見た人」という意味ではなく、これは、私達が一般的に思い浮かべる「テレビを見ている人」のイメージとはいささかズレがあるかもしれません。



それでも、この調査は過去10年以上にわたって行われていますから、国民のテレビ視聴がどのように変化しているのかを、定量的に捉えることができます。なお、この調査は、平日と休日にわけて行われていますが、傾向としてはだいたい同じです。また、平日の「行為者率」は、調査対象日となった2日間の平均で算出していることも付け加えておきます。

まず注目してほしいのは、「テレビ(リアルタイム)の行為者率」の推移です。年によって多少の変動はありますが、長期で下落傾向が続いています。

2012年には87.5%であったものが、2023年には71.1%にまで低下しています。これは「この10年余りで国民の16.4%が、テレビのリアルタイム視聴をやめた」、と言い換えてもいいでしょう。テレビ局にとっては、相当大きな数字です。

テレビのメディアとしての最大の強み

しかも、下げ止まりの兆しは見えません。直近の2023年の行為者率は、前年の73.7%から、2.6ポイントも減少しています。もし今のペースで減り続ければ、あと10年もしないうちに、テレビをリアルタイムで視聴する人は6割を切ることになります。

テレビのメディアとしての最大の強みは、全国一斉に番組を送り届け、同時に何百万人、何千万人もの人が視聴するという点にありますが、その強みが、今失われつつあるのです。

一方、家庭用のブルーレイレコーダーなど、様々な録画機器があるため、リアルタイムではなく、録画でテレビを見る人が増えているのではないか、という推測も成り立ちます。

これについては、「テレビ(録画)の行為者率」の推移で、確かめることができます。

こちらの数値は、2012年から2023年まで10%台後半で推移しており、さほど大きな変化はありません。つまり、リアルタイム視聴が減った分を、録画機器による視聴が補っているわけではないのです。

では、リアルタイム視聴が減った分の時間は何に使うようになったのかと言えば、やはりインターネットです。「インターネットの行為者率」は、2012年に71.0%でしたが、2023年には91.2%にまで伸びています。

ただし、以上のことから単純に、「テレビ番組を見る人が減っている」とは言い切れません。最近では、インターネットでテレビ番組を視聴している人がいるからです。テレビ局各社は、インターネット経由で視聴者を取り込もうと必死です。

NHKには「NHKプラス」がありますし、民放は共同で「TVer」を運営しており、インターネット上で見逃し番組等を見られるようになっています。また、テレビ局がYouTubeに公式チャンネルを持ち、自局のニュースや過去の資料映像を配信しているケースも珍しくありません。

そのことを踏まえると、テレビを見る人が減ったのではなく、「リアルタイム視聴」から、「ネット上での視聴」に移っただけではないかという仮説も成り立ちます。ひとまず、「テレビのリアルタイム視聴」をする人は減り続けている、ということは間違いありません。



文/今道琢也 写真/shutterstock

『テレビが終わる日』(新潮社)

今道琢也
「国民の16%がリアル視聴をやめた」下げ止まりの兆しすら見えないテレビ業界はどこに新たな活路を見出すのか
『テレビが終わる日』(新潮社)
2025年6月18日968円(税込)192ページISBN: 978-4106110917

フジテレビをめぐる問題でテレビ界は大揺れだ。しかし、業界全体の凋落は今に始まったことではない。広告収入はネットの半分に落ち込み、まったくテレビを見ない若者が急増、就活人気ランキングでは今や 100位圏外という。反転攻勢をかけようにも、個人の嗜好に強く訴えるネットのコンテンツには歯が立たず、といって海外展開も難しい。かつての「メディアの覇者」に未来はあるのか? データを駆使して徹底分析。

【目次】
第1章  テレビ離れはここまで進んだ
いずれ誰も見なくなる?/国民16%がリアル視聴をやめた/録画でも視聴時間を補えない/激減する10 代、20 代の視聴/7割以上がネット動画を優先テレビ番組は「補欠要員」に

第2章  落ち込む収入、広告はネットの半分に etc.
供給量が増えれば価格は下がる/人口減少が経営を直撃/海外への進出も困難/系列を超えて進む効率化 etc.

第3章  就職人気ランキング100位から消滅
マスコミの中でも取り残される/民放連も指摘する採用難/今も好待遇なのだが…/「すごくブラック」「落ち目な感じ」 etc.

第4章  テレビへの信頼性はなぜ落ち込んだのか
やらせ、捏造、誇張、切り取り/「世界の中心」という錯覚/ネタ探しに追われる日常/飲み会費用38万円を経費として精算/テレビは「既得権者」/最後の「護送船団方式」 etc.

第5章  テレビからネットへ、なぜ主役は交代したか
ネット動画の多様性/嗜好に合ったディープな内容/中途半端さはテレビの宿命/パーソナル化は止められない/技術革新による淘汰 etc.

第6章  テレビに残された優位性はあるのか
ネット企業進出で崩れる優位性/国際スポーツ中継はどうなる/AIによる動画生成の衝撃/競合品が無限に生産される etc.

第7章  テレビが終わる日
船底に穴が空いたタイタニック/20年後の衝撃的な未来像/「岩盤支持層」の入れ替わり/「鉄道会社」型の企業に/テレビなき時代は来るか etc.

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