
参院選で減税を否定した上で、農業へのバラマキ、現金給付を掲げて大敗した自民党。税金は生活を支える一方、家計や企業の負担となる。
政治家は歳出を拡大する要請に常にさらされている
政治家は歳出を拡大する要請に常にさらされている。地元支援者との会合では、公共事業や福祉制度・補助金などの提供が求められている。
政治資金パーティの開催の際には、出席者がパーティ券を購入する際に、具体的な支出要望を提示する場面が多い。ロビイストとの会合では、業界や団体の利益を守るための予算拡充が強く主張される。
ほとんどの議員にとって、支援者の要請を無視することは難しく、支出拡大が支持を得るための手段と認識されることが多い。反面、政治家の周りでムダ遣いをやめろと求める声は非常に少ない。パーティ券を購入し、補助金も口利きも要求せず、かつ減税を求める人など皆無だろう。
有権者は減税や財政健全化の必要性を支持するが、個々の補助金の削減について具体的な提案を行うことは稀である。歳出拡大を求める圧力の方が強く、議員にとって歳出削減を推進する動機が生まれにくい環境が存在している。
この不均衡が議会全体の財政運営における構造的な問題を引き起こしている。これは全世界で共通する政府の腐敗を説明するものであろう。
有識者会議や審議会では、支出拡大を支持する意見が主導権を握る状況が多い。例えば、農業補助金や地方創生事業などの政策について議論する場では、支出を求める立場の関係者が中心となる。
発言者には、農林水産省の担当者や補助金の恩恵を受ける地方自治体の代表、さらに政策を支える関連団体の代表が含まれる。政策の基本的な価値を疑問視する専門家や、削減を求める意見を持つ関係者はほとんど招かれない状況が続いている。
これにより、有識者会議は政策の客観的評価や批判を行う場ではなく、むしろ政府支出の正当性を補強し、拡大を推進する場となっている。
増税や財政赤字への社会的悪影響が軽視されていく現状
議論の進め方も一方的で、支出削減の可能性や予算の妥当性を検討する議題が取り上げられることは少ない。支出拡大を求める意見が主流を占める結果、政策の偏りが進み、財政負担の増大につながる問題が生じている。
有権者の声が届かなくなる原因はさらにある。議員は自分が実施した補助金が効果を発揮しているとの意見を繰り返し聞かされている。
地方創生事業では新たに創出された雇用数や地域経済への寄与だけが強調される。教育関連の補助金では学力向上の部分的成果がアピールされる。
これらの事業を担当する官僚や自治体の担当者、関連団体の代表からは、さらなる予算投入が必要とされる理由が詳細に説明される。
しかし、これらの政策に要する財源の確保に伴う税負担や、経済全体への悪影響についてはほとんど言及されない。議員は翼賛的な説明に影響され、支出権限を問題解決の手段として信じる傾向が強い。
有権者にも政策の効果を強調し、さらなる支出を正当化する説明が行われる。このため、増税や財政赤字への社会的悪影響が軽視されていく。
Xで抗議しても即ブロックとなる
議員は支出を行うことを「善行」「慈善活動」と捉えているフシがある。地方のインフラ整備や教育支援事業に資金を投じた場合、地元住民や自治体から感謝状を受け取ることが多い。
文化振興の名目で地方劇場や美術館の改修に予算を割いた場合、関係者や文化団体から称賛される場面がある。地域医療の充実を目的とした予算配分では、医療関係者からの感謝の言葉が寄せられる。
こうした感謝や称賛が議員にとって自己満足を生み出し、支出を拡大する動機となる。表彰式や感謝状の授与などの場面では、議員が公の場で名を上げる機会となるため、さらに支出を促す心理的要因となる。
議員はまた、支出が生む直接的な効果に強い関心を持つ一方で、その財源が納税者から提供されているという事実への認識が薄い。
支出を通じて短期的な成果(業界団体にお金が行き渡る)が見られる場合、その背後にある経済的負担を軽視しやすい。納税者が直接的に抗議する場面が少ないため、議員が税負担の問題に直面する機会も限られるわけだ。あまりに小さい効果と割に合わない大増税について、Xで抗議しても即ブロックとなる。
減税による経済成長がもたらす税収増加は、財政赤字の補填にも寄与
バラマキを改めるためには、財政の原則として減税を最優先に位置付ける必要がある。減税は政府の財源を制限し、自然に無駄な支出を抑える手段となる。
税収を通じた歳出拡大の仕組みを解体することで、財政の持続可能性を高めることが可能である。減税が実現すれば、国民の購買力が高まり、経済全体の活性化につながる。減税による経済成長がもたらす税収増加は、財政赤字の補填にも寄与する。
政治家の意識改革も必要である。支出を拡大することで問題を解決するという誤った信念を改めるべきである。減税を通じた財政の引き締めは、政治家に支出の必要性を冷静に判断させる契機となる。
支出を抑えた上で本当に必要な政策を選別する姿勢が求められる。
だが、このような財政原則を実現するには、政治家に期待するだけでは不十分である。彼らが減税や歳出削減に消極的なのは、信念や知識の問題ではなく、票にならないからだ。
どれほど正しい政策であっても、政治家にとって「選挙に勝てる提案」でなければ動機にはならない。つまり、財政健全化の実現には、政治家の姿勢を責めるより先に、私たち有権者自身が「どうすれば彼らに動いてもらえるか」を冷静に考える必要がある。
「カネ・票・ポスト(人事)」が最優先
少し乱暴な言い方だが、政治家を応援するだけでは、あなたは何ら影響力を持てない。政治家は「信念」で動くのではなく、「票数」で動く。多くの政治家は国全体の未来よりも、自分の選挙や利益を重視して行動する。それは悪いことではなく、むしろ活用するべき現実である。
たとえば、減税を求める際に、「先生、信じています!」と言うよりも、「減税を公約に入れるかどうか、はっきり教えてください」と問いただす方が効果がある。その上で、約束を破った場合は、口コミやSNSで広く批判を展開する。
政治家は一人のためには動かないが、こうした声が増えれば、政治家は選挙に勝つために公約を守るために行動せざるを得なくなる。信じたり応援したりするのではなく、約束を取り付け、それを周囲に広める。
政治家は表では「国民のため」と語るが、本音では「カネ・票・ポスト(人事)」が最優先だ。選挙資金を集めるために、支援団体や企業と密接な関係を築き、票を獲得するために特定の地域や業界に利益を提供することは多々ある。
また、人事に関しては、自分に忠実な人物を重用し、権力基盤を強化する傾向がある。こうした裏の動きは、表の「国民のため」という言葉とは大きなギャップがある。
選挙後にどれだけ公約が実現されているかは疑問
さらに、政治家は公約を掲げるが、それが選挙後にどれだけ実現されているかは疑問だ。選挙期間中に掲げた理想的な政策が、支持団体の意向や党内の力関係で変わることも少なくない。
これらの事実は、政治家がどれだけ「私益」と「公益」を分けて行動できているのかを問い直す必要があることを示している。
だから私たちは、政治家が掲げる理想だけでなく、実際にどのような行動を取っているのかを注視する必要がある。
そのためには、選挙中だけでなく、日常的に情報を収集し、議員の言動をチェックすることが大切だ。政治家を監視し、行動を変えさせる力は、有権者の手にある。
ソーシャルメディアや口コミを活用して、不透明な部分を指摘し、批判の声を上げることが重要だ。また、政治家の行動に注意を払うだけでなく、建設的な意見を伝えることも効果的。
透明性と行動の一貫性を求める有権者の力は、政治の質を向上させる。表と裏の二面性を見抜き、適切な働きかけを行うことではじめて、私たち自身が政治を国民の方へと導くことができる。
文/小倉健一
図解 「減税のきほん」新しい日本のスタンダード
小倉健一 , キヌヨ , 土井健太郎