
7月30日午前8時25分頃、ロシアのカムチャツカ半島付近でマグニチュード8.7の巨大地震が発生した。その後、9時40分頃に北海道から近畿地方の太平洋側に津波警報が、四国、九州には津波注意報が発令されたが、日本と違い地震や津波になじみのない訪日中の外国人観光客らはその時何を思ったのか。
逃げろと言われても「どこへ?」…宿泊ホテルには安否を確認する電話も
7月30日午前、カムチャツカ半島沖でマグニチュード8.7の大地震が起き、各メディアはそろって津波に関する報道特別番組を放送。
番組放送中、どのテレビ局も“津波!逃げて!”というシンプルで緊迫感のあるテロップを表示しており、そのテロップは、日本人だけにではなく外国人向けに“TSUNAMI”、“EVACUATE”(避難して)という英語表記を交互に表示していた。
フィンランドから来日したという30代の男性は、異国の地で未知の災害に遭った恐怖と、日本人の親切な対応に安心感を覚えたと語る。
「昨日(29日)の夜に初めて日本に来たんだ。今朝いきなり“TSUNAMI”という文字を見てすごく驚いたよ。今まで生きてきてフィンランドの土地では大きな地震も津波も経験したことがなかったんだ。東日本大震災の被害を知っているから怖かったけど、ホテルのフロントに問い合わせたら『日本で地震が起きたわけではないけど、海や川には近寄らないでください』と言われた。僕は日本語が話せないんだけど、親切に対応してくれて安心したよ」
また、カナダから来た20代男性は初めての経験に驚いたという。
「朝、スマホのニュースで地震があったことを知ったよ。一応何かあるかもしれないから(カナダにいる)家族と友達に連絡したんだ。心配こそしてくれたけど、カナダは地震が少ないからあまり気にしている様子はなかったよ。もうだいぶ落ち着いたようだから浅草に来たんだ」
津波に関する報道特別番組を観ていたという、隣の友人男性が続ける。
「せっかく旅行に来られたタイミングで大変なことになったと思ったよ。“TSUNAMI”“EVACUATE”という文字が見えたんだけど、カナダでは全く馴染みがないから、何をすればいいか分からなかった。逃げろと言われても『どこへ?』という感じで、ただただ不安な時間だったよ。
でも周りの日本人はあまり焦っている様子がなくて、『日本で大きな被害はなかったのかな』と思ったから外に出たんだ。いざ危機が迫る状況だと何をしたらいいかわからなくなってしまうね」
地震に馴染みのない国の人々にとって“TSUNAMI”や“EVACUATE”の表示はわかりやすいかもしれないが、その後の具体的な場所や手段などを示す対策が今後は必要になってくるのかもしれない。
さらに、取材を続けると外国人観光客たちが泊まるホテルには、地震のニュースを見た家族や友人などから安否確認の電話があったという。都内にある外国人観光客向けゲストハウス A の従業員は話す。
「外国人観光客のご家族の方から、安否を心配するお電話がありました。ヨーロッパからの国際電話で、『家族は大丈夫ですか?』というお問い合わせでしたが、個人情報もあるので詳細まではお伝えできませんでした」
同じく都内の外国人観光客向けゲストハウス B のフロント担当はこう続ける。
「私の見たかぎりでは、ロビーで電話をしている方で、内容的に津波のことを話していたと思われる外国人観光客の方が3名ほどいました。それぞれ特に焦っている様子はなかったですし、『大丈夫だよ。心配しないで』と(通話相手に)言っていましたよ」
やはり異国の地にいる大切な人の安否は気になるのだろう。
「『これが予言の...』って一瞬頭をよぎったね」
「今年の7月5日に日本で大災害が起きる」という漫画の“予言”がネット上で拡散され、これをきっかけに、中国では大使館が日本への渡航や不動産購入について“慎重に”と発表するまでに至ったことも記憶に新しいが、中国からやってきた40代の男性は苦笑いで語る。
「驚いたよ。『これが予言の...』って一瞬頭をよぎったね。中国では“日本で7月5日に災害が起きる”という予言がメディアでも取り上げられていたんだ。それで7月中の旅行をキャンセルした友人もいたよ。『何かあってからじゃ遅い』って言ってた。母親はそのニュースを見ていたから、月末に旅行することをものすごく反対していたんだ。『7月だけはやめておけ』って」
彼が津波警報について知ったのは母からのモーニングコールだったという。
「昨日は夜遅くまで酒を飲んでいて、今朝はぐっすり寝ていたんだけど、母親からの電話で目が覚めたよ。母には『だから言ったでしょ』と言われて、心配かけたことを少し申し訳なく思ったね。『早く戻ってきなさい』と言われたけど、7月ももう終わりだし、せっかくの機会だからまだ楽しんでいこうと思うよ」
この予言の広がりは外国人観光客向けのホテルにも影響を与えているという。前述のゲストハウスBの担当者は怒りを込めた口調で話す。
「7月5日の予言のせいで、6月末から7月上旬にかけてアジア圏の利用者は1/3近くまで減りましたよ。
ゲストハウスAでは津波警報の後、本日から滞在予定だったアジア圏の宿泊者の方からキャンセルの連絡が2件ほど入ったという。
『TSUNAMI Dangerous?』と不安げな様子で何度も…
都内の外国人観光客の混乱は「海から離れた場所で気をつけながら過ごす」ということで落ち着いた様子だったが、海にほど近い観光地の逗子のゲストハウスは全く違う様相を呈していたようだ。
逗子のとある民泊オーナーは語る。
「今朝、9時40分頃にスマホの緊急速報が一斉に鳴って、外国人のお客様が驚いてフロントに駆け込んできました。音の大きさや内容に慣れていない方が多くて、不安げな様子でした。英語で『TSUNAMI? Dangerous?』と何度も確認されましたね。
特別報道番組が繰り返し放送されていたのを見て、中国人の女性が、『これはドキュメンタリーですか? それとも本当の出来事ですか?』と真顔で聞いて来られました。フィクションの境目がわからないくらい、状況を飲み込めなかったようです。『この音は空襲警報みたいだ』と言っていたヨーロッパから来たカップルもいました」
外国人観光客が増える昨今だが、突如として起こる災害への対応は難しいとオーナーは続ける。
「うちは築年数の古い木造家屋なので、『もし波が来たら大丈夫か』と聞かれることもありました。高台ではないので、避難所の場所や海抜の話にもなりました。
津波警報によるトラブルもあったと嘆く。
「混乱は最小限でしたが、ひとつトラブルがありました。とあるお客様が、夜に予約していたレストランが臨時休業になったらしく、『せっかく予約したのに残念だ』と言って苛立っていました。事情を説明すると納得してくれましたが、災害に対する受け止め方に文化差があるなと感じました」
観光大国であると同時に地震大国でもある日本。今回の津波警報であらためて、誰もが “もしも”の時に生き残れるように、国籍問わず助け合いの意識を高める必要があるはずだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班