
厚生労働省が発表した「外国人雇用状況」の届出状況によると、2024年10月末時点で在留外国人労働者は230万人を超え、過去最多となった。日本の労働市場において重要な役割を果たしており、特に人手不足が顕著な業種での需要が高まっているが、それに伴うトラブルも増えている。
外国人従業員なしでは成り立たないコンビニ業界
近年、街のいたるところで外国人店員を見かけるようになった。コンビニでは、大手3社(セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート)の外国人アルバイトの数が、すでにアルバイト全体の10%に達している。(共同通信 2024年5月15日報道)
さらに、東京23区にいたっては30%に達している時期もあったという。
いま接客サービス業全体が、慢性的な人手不足に陥っている。外国人店員なしでは、シフトを組めない店も多い。しかも複数の言語を話せるスタッフは、インバウンド対応においても貴重な戦力になる。そのため最近では、「近隣の店同士で、留学生アルバイトの取り合いになっている」(都内のコンビニオーナー)との声も聞かれる。
こうした需要を背景に、外国人店員の姿は、私たちの日常にすっかり溶け込んでいる。
一方で、外国人店員を快く思わない日本人も少なくない。悪質なカスハラとみられる言動を繰り返す人もいる。外国人店員へのクレームは、「おまえ日本語わかってんのか?」「外人が日本の店で働くな!」といった差別的な色合いが強く出るのが特徴だ。
外国人店員にカスハラする人の心理
外国人店員に対するカスハラはなぜ起こるのか。そこには大きく二つの心理があると考えられる。
① 「ちゃんとした接客をしてほしい」という心理
日本では、おもてなしや丁寧な対応が当然とされ、店員の言葉づかいや気配りにも厳しい目が向けられる。そのため日本語力が十分でない外国人店員に対し、一部の客は、「接客が不十分」と不満を抱いてしまうのだ。
② 「外国人に接客されること自体がイヤ」という心理
なかには、「日本で生活していて、なぜ外国人に接客されなければならないのか」と考える人もいる。その根底には、接客内容への不満というより、根深い「差別意識」がある。
カスハラによって跳ね返ってくるブーメラン
カスハラは、やる側にとっては「逆らえない相手に言いたいことをぶつけて、すっきりする」程度の行為かもしれない。しかし、まぎれもなく働く人に対する悪質な加害行為である。さらに、立場が弱くなりがちな外国人に対して行なうなど絶対にしてはいけないことだ。
また、外国人店員にカスハラを続けると、いずれ自らに不利益として跳ね返ってくるということも認識するべきだ。具体的には、次のような内容が典型例である。
①利便性・安全性の低下
コンビニは以前から、留学生のアルバイト先として人気がある。清潔な職場環境で働けることに加え、日本語や日本文化を実地で学べる点が魅力とされている。一定レベルの日本語力は求められるが、「一度はコンビニで働いてみたい」と考える留学生は少なくない。
しかし、カスハラを受けることが増えれば、しだいにアルバイト先としての魅力は失われていく。
「深夜のコンビニでアルバイトをしていますが、変なお客さんが本当に多いです。酔っ払いに大声で怒鳴られたことも何度かありました。ネパールの悪口を言われたときは、本気でケンカになりそうでした。正直、こんなひどいことを言われるなら辞めようと思ったこともあります」
深夜のコンビニは、もはや外国人店員なしでは成り立たない。経済産業省の調査でも、深夜勤務を経験した従業員の半数以上が、「今後は働きたくない」と答えている。省人化が進んでいるとはいえ、もし留学生アルバイトまで敬遠するようになれば、24時間営業を続けられない店も出てくるだろう。
結局のところ、カスハラ行為は巡り巡って、自らの生活の利便性や安全性を損なう結果を招いてしまうのである。
②サービスの質の低下
人が定着せず、つねにスタッフが入れ替わるような状況では、サービスの質は安定しない。教育が行き届かないまま新人が店頭に立てば、ミスやトラブルが増え、結果として利用者の不満や負担を増大させる。
一方で、外国人店員の多くは日本語力こそ十分ではないものの、接客態度が悪いわけではない。むしろ日本文化を学ぶ目的で接客業に就いている面もあり、より良いサービスを身につけようとする姿勢が強い。
皮肉なことに、「良いサービス」を求めて行なったカスハラ行為が、かえってサービス意欲の高い店員を辞めさせ、結局は自らの快適さを損なうことになるのである。
③商品価格の上昇
人手不足が深刻化すれば、店は人材を確保するために時給を引き上げざるを得ない。人件費の上昇は必然的にコストを押し上げ、最終的には商品価格に転嫁される。
外国人店員を排除しようとする行為は、結果的に利用者の負担を増やし、家計をじわじわと圧迫する。カスハラをする人にとっても、それは生活コストの上昇として自らに降りかかってくるだろう。
カスハラは社会全体の活力を削ぐ行為
④地域の安全性の低下
深夜のコンビニは、防犯効果を高める社会的役割も担っている。2024年に日本フランチャイズチェーン協会が公表した資料によると、女性のコンビニへの駆け込みは4076店、延べ5497回に達し、その約半数が23時から5時台の深夜時間帯に発生していたという。
そのため24時間営業を維持できない店が増えれば、地域の防犯体制は弱まり、治安悪化のリスクが高まる。とくに住宅街や地方都市では、その影響は大きい。結果として、カスハラをした本人やその家族の安心・安全が損なわれてしまうのだ。
⑤地域の経済活動の弱体化
いまの時代、ネガティブな光景はSNSを通じてまたたく間に世界へ広がる。実際、数年前には、ある建設会社で起こったベトナム人技能実習生への暴力行為が映像で拡散し、国際社会から厳しい視線を浴びることになった。
同じように、外国人店員へのカスハラ映像が広がれば、「日本は外国人に冷たい国だ」というレッテルを貼られかねない。そのようなイメージが根づけば、留学や観光先として日本を選ぶ人は確実に減る。その結果、人手不足はますます深刻化し、観光地の活気も失われていく。
つまり、カスハラは一店舗の問題にとどまらない。巡り巡って、自らの地域の経済活動を弱めるブーメランとなって返ってくるのだ。
外国人店員へのカスハラは、許されない加害行為であるだけでなく、自分たちの暮らしを不便にし、社会の活力を削ぐ結果を招いてしまう。人手不足のいま、彼らが私たちの日常を支えてくれる担い手であることを認識し、それに感謝しなくてはいけない。
すべてを日本人と同じように求めるのではなく、「多少の違いはあっても受け入れる」姿勢こそが大切だろう。
取材・文/千葉祐大 写真/Shutterstock