
JR高輪ゲートウェイ駅に直結する商業施設「ニュウマン高輪」が開業した。かつての操車場跡地にJR東日本がゼロから作り上げた「高輪ゲートウェイシティ」の基幹施設を運営するのは、JR東日本子会社であるルミネ。
「意識の高さ」に満ちた空間
開業直後のニュウマンを訪れた筆者を待っていたのは、圧倒的な意識の高さに満ちた、驚きの空間だった――。
「世界に誇れる素敵な未来を高輪で作りたい」
9月12日、ニュウマン高輪の開業式典で居並ぶ報道陣と2500人を超える来場者を前に、ルミネの表輝幸社長は意気込みを語った。
この手の式典といえばスーツ姿の男性がずらりと並びテープにハサミを入れる「テープカット」が定番だが、この日、行われたのは人と街のつながりを意識した「テープ結び」だった。
半分近くが女性で、服装もスーツだけでなく制服なども交じっており、年齢構成も含めて「多様性」を前面に押し出した。
式典の段階で色濃く漂っていた意識の高さは、店に一歩足を踏み入れたあとも随所から感じ取ることができた。
着用されなくなった衣服を買い取って修復し、新品と並べて販売するという「衣料品の資源循環モデル」を打ち出す店があったかと思えば、大型書店が入居するフロアでは子供用の遊具が設置されたスペースが何箇所かあり、「親子の過ごし方を提案する」と紹介されている。メイドインジャパンを謳う、日本産にこだわる店も目立った。
極めつきは高層階に位置する「LUFTBAUM」というフロアだ。日本全国から取り寄せたうえで地上150メートルまでクレーンで持ち上げたという植物がずらりと並び、「自然の移ろいを感じてほしい」と声高にアピールしていた。
都心に超高層ビルを建て、わざわざ植物を運ぶのは自然との共生というよりも、むしろバブル期の発想に近いのでは……と思わなくもないが、多くの人々が高層階に向かうエレベーターに乗るための行列を作り、都心に新たに誕生した植物園のような光景に感嘆の声を上げていた。
「多様性に満ちた未来価値を提供します」
実は今回のオープンはまだ部分開業で、26年春にオープンする「MIMURE」エリアではビールやコーヒーなどを楽しめる産地直送型の店舗が入る計画だ。まだ詳細は不明ながら、「多様性に満ちた未来価値を提供します」と鼻息が荒い。
米国でトランプ政権が発足し、欧州では反移民デモが大規模化。日本でも排外主義が盛り上がるなど、多様性とは真逆の方向に社会が進みつつあり、ニュウマン高輪に漂う「意識高い系」のコンセプトは地に足がついていないようにも見えるが、これには理由がある。
ニュウマン高輪の開発にあたり、ルミネは「100年後のまちづくり」というテーマを設定している。入居するテナントに対しても、「挑戦」を求めた。
普段から同社と付き合いのあるアパレルブランドの経営者は、「ほかの商業施設の店舗とは違う、とにかく新しいことを打ち出した店にしてほしいというリクエストがあった」と明かす。
こうした状況下、テナント側もルミネの顔色をうかがい、「正解」として出した末の着地点が「意識高い系」だったとみるのが自然だ。
開業日である9月12日から3連休にかけては多くの客でごった返し、テレビや新聞などのメディアも好意的に取り上げるなどスタートダッシュに成功したニュウマン高輪だが、これは必ずしも今後の成功を約束したものではない。
アパレルブランド経営者「昔から上から目線だった」
もともと、ルミネはJR東日本のターミナル駅のビルという超一等地の圧倒的な集客力を武器に有力テナントを集めるという手法で事業を拡大してきた。
前述のアパレルブランド経営者は「昔から上から目線の印象はあった。『俺たちが出店するテナントを選んでやる』という態度を感じることも」と振り返る。それでも、テナント側からすればJR東の圧倒的な集客力がある以上、頭を下げてでも契約したいというのが実情だった。
しかし、ニュウマン高輪に関しては前提が異なる。
オフィスやニュウマンの開業で乗降人数を1日13万人まで増やすとしているが、1日に200万人以上が利用する新宿や横浜とは比べるべくもない。ルミネの得意とする、圧倒的な集客力という武器は封じられており、「わざわざ訪れる人」を獲得する必要がある。
「意識高い系」の店舗を並べたことが吉と出るか凶と出るか
開業直後は訪れる人も多いだろうが、大型の商業施設があちこちにある東京において、物珍しさが一巡した後にどうなるかは心もとない。
ルミネとしては前述のように新規性のあるテナントを集めたことで集客につなげたい狙いだが、「意識高い系」の店舗を並べたことが吉と出るか凶と出るか――。
来場者の感想には濃淡がある。ハイブランドの化粧品や小物を扱う店の紙袋を手にしたインバウンドが大股で闊歩する一方、開業日にベビーカーを押していた30代の女性は「普段使いできる店が少ない」とこぼす。
豊洲のららぽーとのように、ユニクロやアカチャンホンポといった子育てに便利なテナントは入っておらず、大手チェーン店の食事が安価に楽しめるフードコートもないためだ。
現状、物販が中心で、六本木ヒルズのように映画館があるわけでもない。今冬には植物由来の食事を楽しめるプラントベースのレストランやワークスペースなどを備えた「都市型サウナ」が営業を開始する予定だが、これも万人受けする施設とは言い難い。女性は「一度来れば十分かな」と語る。
ニュウマン高輪に残る不安
もちろん、ルミネ側も手をこまねいている訳ではない。開業に先立ち、周辺一帯の住宅にニュウマン高輪の店舗を紹介する冊子を配布。
また、高級スーパーである明治屋の中には北海道産の商品を並べる「北海道どさんこプラザ」を入れ、集客力の足しとした。ハイブランド系を中心に高価格帯の店舗ばかり誘致し、商業施設には閑古鳥が鳴いている虎ノ門ヒルズなどを他山の石としたとも言える。
しかし、この点でも不安は残る。開業翌日の13日にニュウマン高輪を訪れると、駐車場は満車となっており、警備員が「路上で入庫待ちをしないでください」と道行く車に注意する光景があった。
まだ工事が完成していないという事情があるとはいえ、現時点での高輪ゲートウェイシティの駐車場のキャパシティは600台弱と、2200台を誇るららぽーと豊洲や1000台を超える六本木ヒルズよりも劣る。
不動産デベロッパーが開発した商業施設では、提携クレジットカードを保有していれば一定の時間の駐車料金が無料になるサービスが一般的だが、これも導入していない。
顧客目線の不在を感じる光景
鉄道事業者であるJRとしては自動車ではなくできるだけ鉄道を使ってほしいという意図なのだろうが、顧客目線の不在を感じる光景だった。
とはいえ高輪ゲートウェイシティのオフィス棟はすでにKDDIやマルハニチロ、神戸製鋼所などの大手企業が入居を決めているほか、現在建設中のレジデンス棟やライブ空間を備えた文化創造棟も順次稼働する予定だ。
マンション大手の野村不動産が高輪ゲートウェイ駅から徒歩5分の好立地で土地を取得するなど、周辺開発も盛り上がりつつある。
庶民的ではない、少し気負ったように見える店舗のラインナップも、高輪エリアの発展を先取りしたとも言える。ルミネの掲げる「100年後のまちづくり」の成否がはっきりするのは、もう少し時間がかかりそうだ。
文/築地コンフィデンシャル