前韓国大統領夫人の捜査で〈旧統一教会〉の容疑が浮上「裏金とダイヤのネックレスを…」日本政界への工作と資金集めの実態も明らかになるか
前韓国大統領夫人の捜査で〈旧統一教会〉の容疑が浮上「裏金とダイヤのネックレスを…」日本政界への工作と資金集めの実態も明らかになるか

韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権の不正を調べる特別検察官捜査チームは、9月18日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁(82)に対する政治資金法違反容疑などでの逮捕状を裁判所に請求した。尹前大統領の夫人で「疑惑のデパート」と呼ばれた金建希(キム・ゴンヒ)氏(53)の捜査から、金氏へのプレゼント攻勢が韓総裁の指示で行なわれた容疑が浮かび上がった。

絶対的権威をもつ総裁が収監されれば、教団運営への影響は不可避。来週には逮捕の可否が決まる見通しだ。 

旧統一教会側が違法な金品の提供を僧侶・全氏に託していた疑惑 

尹錫悦大統領が“自滅”するきっかけとなった昨年12月3日の内乱未遂事件の前から、妻の金建希氏には外車販売会社の株価操作など少なくとも7つの疑惑が持ち上がっており、それが今回の伏線となった。韓国紙記者が解説する。 

 「尹政権の崩壊前、国会で金建希氏の疑惑を捜査する特別検察官(特検)を置く法案が成立しても尹大統領が拒否権を行使して捜査させないということが繰り返されてきました。

金建希氏は『山で17年間修行し、幽体離脱ができるようになった』と主張する“天空(チョンゴン)”と名乗るシャーマンに帰依しており、この天空が尹大統領の政策判断にまで影響を及ぼしている疑惑もありました。

尹政権が崩壊し今の李在明(イ・ジェミョン)大統領の政権でようやく特検が任命され捜査が始まりました。天空に絡む疑惑の解明が進むことも期待されたのですが、その前に金建希氏のそばにいた別の宗教家の不審な動きがクローズアップされたのです」

それが“乾真(コンジン)法師”と呼ばれる全(チョン)ソンベ氏だ。僧侶を名乗る全氏は尹政権の与党だった「国民の力」に顔が利き、同党の国会議員候補者選定に介入しカネを受け取ったという政治資金法違反事件で起訴されている人物だ。

そして、旧統一教会がその影響力を買い、尹政権に食い込むための違法な金品の提供を全氏に託していた、という事件が浮上したのである。

「尹錫悦氏が大統領に当選した直後の2022年3月、当時(統一教会の)教団ナンバー2だった尹英鎬(ユン・ヨンホ)元世界本部長が尹錫悦氏と面談をしています。この時尹英鎬氏は大統領に対して、カンボジアで教団が進める開発事業へのODA(政府開発援助)による事実上の支援や、24時間放送局YTNの教団による買収への政府支援などを求めました。要求の一部は実際に尹政権の『国政課題』に選定されています。

この面談の席は(全ソンベ氏ではなく)旧統一教会が別ルートで手をまわした重鎮国会議員・権性東(クォン・ソンドン)氏が口利きをして実現しました。その際にも日本円で約1000万円の裏金が権議員に渡ったと特検は見ています。

そして面談後の“お礼”の段階で動いたのが全ソンベ氏です。ミッションは金建希夫人へプレゼントを渡すことでした」(韓国紙記者)

「裏金とプレゼントは韓総裁の指示によるものだった」とすでに公判で証言 

特検の調べでは尹英鎬氏は22年4月から2回にわたり、英国ジュエリーブランド「GRAFF」の600万円相当のダイヤモンドネックレスとシャネルのバッグを金建希氏に贈るよう全ソンベ氏に託している。

このプレゼントと権議員への裏金の支出の指示は韓総裁が尹英鎬氏に行なったと狙いをつけた特検が逮捕状請求に踏み切った形だ。

「全ソンベ、尹英鎬、権性東という他の登場人物はすでに逮捕されており、特検は立件に対して自信を深めています。9月に入り、逮捕前の最後の手順として必要な本人の事情聴取を韓鶴子総裁に要求しました。しかし、韓総裁は健康状態などを理由に3回にわたってこれを拒否しました。

それならばと特検が聴取なしでの逮捕をちらつかせると、韓総裁は17日にようやく聴取に応じました。これを終えたので粛々と逮捕状請求に入った形です」(韓国紙記者)

9時間超続いた事情聴取に対し、韓総裁は容疑を否認しながら「“真のお母さま”である自分の教えを受けた候補が大統領にならなければならない」などと『教団の教え』を主張したと伝えられている。

だが、かつての最側近だった尹英鎬氏は、権議員への裏金提供と全ソンベ氏に金建希氏へのプレゼントを託したことを認めた上で、これらは韓総裁の指示によるものだったと、すでに始まった公判で証言しており、特検には有利な状況だ。

「教団側は尹英鎬氏とその妻の元財政局長が勝手にやったことだと主張しています。しかし昨年12月、元財政局長が韓総裁の秘書室長に『(金建希氏に)贈り物をするのがいいという韓総裁の意見があった』とするメッセージを送り、こうした物証を特検が入手していると韓国テレビ局JTBCが17日夜に報じており、証拠を固めていることがうかがえます」(在京テレビ局国際部記者)

日本の政界への工作や資金集めの実態も韓国での捜査で明らかになる?  

いっぽうの金建希氏は、8月12日に逮捕されたが特検への供述を完全拒否。

8月29日にネックレスを不当に受領したり株価操作をしたりしたなどとして起訴された。これに加えて、高速道路計画を一族が所有する土地の近くに変更させたとする疑惑が追加で持ち上がり、捜査が続いている。 

韓国のキリスト教牧師は「旧統一教会は韓国キリスト教では異端扱いされていますが、韓国にはそうした教団は多く、日本社会が感じるような存在感はありません。グループ企業が食品販売や建設、病院経営まで展開しており、ビジネスに熱心な宗教団体、というイメージが強かったです」と話す。 

その教団が今回、前政権の腐敗の象徴のような形で注目されることになった。教団には韓総裁に次ぐ権威をもつ人物が見当たらず、トップが逮捕、収監されれば教団がどうなるか予測がつかないとの声が多い。

いっぽうで「日本の政界への工作や日本での資金集めの実態も韓国での捜査で明らかになる可能性があり、注視している」と大手紙社会部デスクは話す。

数十年前から米政界にも影響力を持ってきた教団への捜査に対しては、米連邦議会のキングリッチ元下院議長が、韓国の李在明政権に「マザー・ムーン(韓総裁)を破壊する狂った意図があるようだ」と非難したと報じられた。

トランプ大統領も過去に教団行事にビデオメッセージを寄せるなど良好な関係にあったとみられ、韓国裁判所が逮捕状を出すかどうかは日本や米韓関係にも影響する可能性がある。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 

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