「アメリカは本当に日本を守るのか」トランプの要求で現実味…揺らぐ“核の傘”と「核共有」という選択肢
「アメリカは本当に日本を守るのか」トランプの要求で現実味…揺らぐ“核の傘”と「核共有」という選択肢

日本が核攻撃を受けた際に同盟国であるアメリカはどこまで日本を守ってくれるのか。不透明な状況下で、日本が取るべき選択肢の一つの議論として、「核保有」ではなく「核共有」がある。

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※本稿は、すあし社長『この国の「なぜ?」が見えてくる日本経済地図』(かんき出版)の一部を再編集したものです。 また、本書は2025年12月時点の日本経済、世界情勢に基づいた内容です。

アメリカの「核の傘」と、自主防衛路線への活路

日本の安全保障政策の根幹には、アメリカの「核の傘」への依存があります。これは、日本が核攻撃を受けた場合、アメリカが核兵器を含むあらゆる手段で報復するという約束です。

しかし、この約束は本当に信頼できるのでしょうか。

冷戦期、この問題は「ロンドンのためにニューヨークを犠牲にするか」という問いで議論されました。ソ連が西ヨーロッパを攻撃した場合、アメリカは本当に核戦争のリスクを冒してまで同盟国を守るのか、という問題です。

この問題は、日本についても同様に当てはまります。中国が日本に核攻撃を行った場合、アメリカは本当に中国に核報復を行うのでしょうか。それは、アメリカ自身が中国の核報復を受けるリスクを意味します。

トランプ大統領の言動は、この疑問をさらに深刻化させました。トランプ氏は選挙戦中、「アメリカは世界の警察官ではない」とくり返し主張し、同盟国の防衛コストを問題視してきました。

2016年の選挙戦では、日本と韓国の核武装を容認する発言すら行いました。
24年11月に再選を果たしたトランプ氏が、第2期政権でどのような同盟政策を取るのか、不透明な状況が続いています。

一方、中国の軍事力は急速に増強されています。中国は極超音速兵器の開発でも先行しており、アメリカのミサイル防衛システムを突破できる能力を持ちつつあります。

独自の核抑止力の保有という選択肢

このような状況下で、日本はどのような選択肢を持つのでしょうか。一つは、自主防衛能力の強化です。政府が進める防衛力の抜本的強化はこの方向性の表れと言えます。しかし、核保有国である中国やロシア、北朝鮮に対して通常兵器だけで対抗するには限界があります。

もう一つの選択肢は、独自の核抑止力の保有です。これには「核兵器禁止条約」や「核不拡散条約(NPT)との整合性」「国際的な孤立のリスク」「莫大な開発・維持コスト」「国民の反核感情」など、多くの議論があります。

仮に日本が核開発を決断したとしても、実戦配備までには10年以上を要するでしょう。その間の安全保障をどう確保するかというと、実際には当面の間、日本はアメリカの核の傘に依存せざるを得ないというのが現実でしょう。

しかし、その依存度を減らし、より自立的な防衛体制を構築していくことは、長期的な課題として重要です。

そのためには通常戦力の強化に加えて、「サイバー防衛能力」「宇宙領域での能力」、そして「外交力の強化」が不可欠です。

「核の傘」の信頼性への疑問は、日本の安全保障政策における根本的な課題です。
この問題に対する明確な答えはありませんが、現実を直視し、さまざまな選択肢を冷静に検討していく必要があります。

一つの議論として、「核保有」ではなく「核共有」があります。こちらを検証していきましょう。

「核共有」という論点

「核共有」(ニュークリア・シェアリング)について、高市首相は「タブー視せずに議論すべき」と主張してきました。この政策は非核保有国が核保有国の核兵器を自国領土内に配備し、有事の際には使用に関与できる仕組みを指します。

NATOでは、冷戦期から核共有が実施されてきました。ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコの5カ国が、アメリカの核兵器を自国内に配備しています。

平時はアメリカが管理していますが、有事の時のために配備国の航空機が核兵器を運搬・投下する訓練が行われています。これにより配備国は核抑止力の一部を担い、核戦略の決定過程に一定の発言権を持つことができます。

高市首相が核共有の議論を提唱する背景には、前述した「核の傘」の信頼性への懸念があります。特にトランプ政権の再登板により、同盟へのコミットメントが再び問われる可能性があります。

核共有は完全な核武装よりもハードルが低く、かつアメリカとの同盟関係を維持しながら核抑止力を強化できる選択肢として検討されているのです。

しかし、日本での核共有導入には多くの論点が存在します。

まず、法的な問題があります。政府は従来、憲法9条の下でも自衛のための必要最小限度の実力として核保有は理論上可能としてきました。ですが、原子力の利用を平和目的に限定している「原子力基本法」という法律があります。

核共有導入におけるさまざまな論点

また、非核三原則との関係も問題になります。核共有は明らかに「持ち込ませず」の原則に反します。非核三原則は法律ではなく政策ですが、国民感情に深く根付いており、これを変更することへの抵抗は大きいでしょう。

さらに、国際的な反発も予想されます。日本は唯一の戦争被爆国として、核軍縮の推進役を果たしてきました。核共有の導入は、この立場と矛盾します。

そして、核不拡散条約(NPT)との整合性も問題となります。NPTは核兵器国以外の核保有を禁じています。

NATO型の核共有は冷戦期に始まったため、条約上は明確に禁止されていません。しかし、新たに核共有を始める国が出れば、NPT体制全体を揺るがす可能性があります。

地理的・軍事的な問題もあります。最大の課題は「運搬手段(デリバリー)」です。NATOの核共有で使用されるB61核爆弾は、戦闘機が敵地上空まで侵入して投下する「自由落下爆弾」です。例えば世界で最も濃密な防空システムを持つ中国軍に対し、自衛隊機が核爆弾を抱えて北京上空へ侵入することは、現代戦においてほぼ失敗に終わります。

したがって、日本にとって軍事的に意味のある核共有とは、NATO型のコピーではなく、「中距離核戦力(INF)」や「潜水艦発射型巡航ミサイル(SLCM―N)」の共同運用という、より高度で政治的ハードルの高い形態にならざるを得ません。

核以外にも抑止力のカードはある

最後に、アメリカ側の意向も不透明です。トランプ大統領は同盟国の防衛費の負担増を求めていますが、核兵器の管理権限を部分的に移譲することには慎重かもしれません。また、アメリカ国内でも、核兵器の拡散リスクを懸念する声があります。

高市政権下で核共有の議論が本格化するのでしょうか。安全保障環境の変化により、これまでタブー視されてきた政策オプションが議論の俎上(そじょう)に載ることは、ある意味で健全な民主主義の表れとも言えます。

重要なのは感情的な反発や思考停止に陥ることなく、冷静に分析し、国民的な議論を深めていくことです。

核共有の導入には多くの論点がありますが、「核の傘」の信頼性をどう確保するかという問題は、日本の安全保障にとって避けて通れない課題です。

なお、日本が持つ抑止力のカードは核だけではありません。日本には権威主義国家が持ち得ない最強の非対称兵器があります。それは「法の支配」と「信頼」です。

力による現状変更を許さず、国際法とルールを遵守する日本の姿勢は、アジア諸国やグローバル・サウスからの深い信頼を集めています。

軍事的なハードパワー(防衛力・同盟)を強化し、「隙」を埋めることは大前提です。その上で日本が目指すべきは、核兵器の数で競うことではなく、「日本を味方につけることが、国際社会での評価につながる」というような、外交的・道徳的な高みを確保することです。

ハードパワーで国を守り、ソフトパワーで秩序を作る。「守られる国」から、アジアと世界の平和秩序を「支える国」へ。その姿勢があれば日本は真の自律国家としての歩みを始めることができるのではないでしょうか。

文/すあし社長 

この国の「なぜ?」が見えてくる日本経済地図

すあし社長
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【目次】
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─なぜ、日銀は「金利」を上げられないのか
─なぜ、「株価」と「不動産」だけが上がるのか
─なぜ、「給料」が上がらないのか

2章 〈軍事・防衛〉 ――果たして、戦争に向かっているのか
─なぜ、「台湾有事」は、「日本有事」なのか
─なぜ、防衛費を倍増したの
─なぜ、防衛DXが最重要課題なのか
─なぜ、日本の「自主防衛」は進まないのか

3章 〈貿易・産業〉 ――「日本製」という強みは、今
─なぜ、「グローバル・サウス」に、世界の焦点が当たるの
─なぜ、製造業に復活の兆しがあるのか
─なぜ、日本は「モノづくり」で勝てなくなったの
─なぜ、日本の「食料自給率」は低いままなのか
─なぜ、「アニメ・ゲーム」「インバウンド」に可能性があるのか

4章 〈人口動態・社会〉 ――スクラップ・アンド・ビルドを実現できるか
─なぜ、「少子化対策」が不発なのか
─なぜ、「高度成長の遺産」が、リスクになったのか
─なぜ、「人」に投資できないの
─なぜ、経済大国なのに「幸福度」が低いの

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