高市首相と麻生副総裁に”亀裂”…党内からは「首相は王様のようだ」と不満噴出  ポスト高市を巡るグループ再編も加速か
高市首相と麻生副総裁に”亀裂”…党内からは「首相は王様のようだ」と不満噴出 ポスト高市を巡るグループ再編も加速か

高市早苗首相と麻生太郎副総裁の間に、微妙な距離が生じている。総選挙の大勝で「一強」とも言われる政権運営の裏側で、首相が党幹部に十分な説明を行わないまま重要判断を下す場面が相次ぎ、麻生氏周辺では不信感が広がっている。

かつて政権発足を支えた“後見役”との関係に、いま何が起きているのか。

高市首相と麻生氏の間に「微妙な距離」

「今国会中に皇室典範改正を実現することが何よりも求められている。私もそれに向け、力を尽くしたい」

今や自民党唯一の派閥で、最大勢力を率いる麻生副総裁は4月16日の麻生派会合でこのように語った。麻生氏は、自民党の「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」会長を務め、皇族数確保策を「死活的な課題」と位置づける。

4月10日には麻生派所属だった森英介衆院議長とも会談し、各党派で協議する全体会合に向けて意見を交わした。

皇位継承の安定化に向けた皇室典範の改正は、高市首相が副総裁への就任を麻生氏に要請した際にお願いしたテーマでもある。「女性・女系天皇」を容認しない保守的な立場は2人が共にするものだ。

言うまでもなく、麻生氏は昨年10月の自民党総裁選で高市氏への支持を呼びかけ、女性初の宰相を生んだ最大の立役者である。高市内閣発足後は「こういった内閣を生んだ以上は育てねばいかんという決意を新たにしている」と語り、首相を支えていく考えを繰り返してきた。

それもそのはず、高市氏は総裁選の際に「党の方はお任せします」と頭を下げることで支援獲得に繋げており、麻生氏には「高市政権の屋台骨を支えているのは自分たちだ」との自負がある。

実際、党ナンバー2の幹事長に麻生派の義弟・鈴木俊一氏を就かせ、総務会長にも麻生派から有村治子氏を送り込んだ。党3役のうち2人を麻生派が占め、自らも副総裁として君臨する様子には「第2次麻生政権のようだ」と不満を漏らす議員もいる。

だが、最近は高市首相と麻生氏の間に「微妙な距離」が生じているようだ。

最大の理由は、首相が党幹部らと十分に意思疎通を図る場を設けてこなかった点にある。

幻となった「麻生議長」案

首相は4月10日の昼、首相官邸に麻生副総裁や鈴木幹事長、萩生田光一幹事長代行を招いて1時間ほど会食したが、緊密にコミュニケーションを図るべき党総裁と副総裁の会食が昨年12月5日以来という点に驚いた人は少なくないだろう。

2月18日の衆院本会議で麻生氏側近の森氏が衆院議長に選出されたが、高市首相は当初、麻生氏に対して「三権の長」の議長に就くよう打診していた。首相経験者である麻生副総裁は、さぞ驚いたに違いない。

現行憲法下で首相と議長の両方を経験した例はなく、党中枢で高市政権を支える意向を繰り返してきた麻生氏の周辺からは「議長に祭り上げて、自民党内での影響力を削ぐつもりだったのではないか」といぶかる声もあがった。

麻生氏が固辞した上で、麻生派事務総長の森元法相を推薦したため「麻生議長」は幻となったが、2人の関係に微妙な変化が生じたのは間違いない。

皇室典範改正や憲法改正など保守路線で重なる部分はあっても、財政規律も重んじる財務相経験者の麻生氏と、「積極財政」を掲げて減税・経済成長路線を突き進む高市首相とは政策に根本的な違いがある。

酒席を嫌う高市首相が遠ざける「耳障り」な進言

求められれば助言するものの、「首相が最終的に決めたことには従う」というのが麻生流だが、酒席を嫌う高市首相が「耳障り」な進言を遠ざける点も距離を生じさせているようだ。

1月の通常国会冒頭の衆院解散も直前まで麻生副総裁に伝えておらず、もはや2人の関係にはヒビが入っているように見える。

高市首相は減税に慎重な旧大蔵省出身の宮沢洋一・党税制調査会長を交代させ、日本維新の会との連立政権合意に盛り込んだ衆院議員の定数削減をめぐり慎重姿勢を見せた逢沢一郎・衆院選挙制度協議会座長も“更迭”するなど、自らの政策遂行のためには「人事権」をフル活用する。逢沢氏の後任の座長に指名された鈴木馨祐前法相も麻生派所属だ。

3月には、党側との意思疎通を円滑にするために政務担当の首相秘書官に就いていた自民党職員の橘高志氏も代え、総務相時代の秘書官だった松井正幸氏を起用した。

昨年末以降、高市首相に直接進言できる秘書官は今井尚哉氏が推した飯田祐二氏だけで、他はメモを介して首相とやり取りする状況である。さすがに最近は首相が乗る車に他の秘書官も同乗することが許されたものの、当初、これを許されたのは飯田氏だけだった。

「安倍氏の右腕」とも意見の相違

飯田氏は2025年7月まで経済産業事務次官を務めた人物だが、政務秘書官になったのは安倍晋三政権で筆頭秘書官を務めた今井氏のプッシュがあったからだ。

史上最長政権を築いた安倍氏に憧れる高市首相は当初、安倍氏の「右腕」だった今井氏を筆頭秘書官に就くよう要請したものの固辞され、内閣官房参与として招き入れた経緯がある。

ちなみに、政権発足後まもない時期の衆院解散を進言したのは今井氏で、首相はそのまま党執行部に相談することなく解散総選挙に踏み切った。

ただ、今井氏が描いた解散時期は「年末」または「年始早々」というもので、2026年度当初予算の年度内成立に影響しないスケジュールであった。それよりも遅い1月23日召集の通常国会冒頭で衆院を解散すれば、3月末までに十分な国会審議の時間を確保できないのは自明で、首相と今井氏の間にはズレも生じた点は否めない。

加えて、今井氏は首相が総選挙で掲げた消費税減税の方向性をめぐっても距離があり、一部月刊誌や週刊誌で「意見の相違」が生じていると報じられる。

自民党内で「ポスト高市」をにらんだグループ再編

首相就任から半年を迎え、高市氏が頼りにする自民党議員は萩生田光一幹事長代行や高鳥修一衆院議員、山田宏参院議員らに限られる。官邸では木原稔官房長官や尾崎正直官房副長官といった側近がいるものの、官邸と党執行部との意思疎通は十分とは言い難い。

自民党閣僚経験者からは「とにかく総選挙で勝ったのだから、何でも思い通りにやらせてほしいという『王様』のような首相の姿勢は間違っている」との不満も漏れる。

たしかに2028年の参院選まで大型国政選挙は衆院解散がなければ実施されることはなく、これから約2年間は衆院で圧倒的な議席数を誇る自民党のトップ、高市氏の「天下」だ。

ただ、参院では連立与党である日本維新の会を足しても過半数に達しておらず、慎重な国会運営を迫られることに変わりない。

高市首相と麻生副総裁の「微妙な距離」に注目が集まるのは、自民党内で「ポスト高市」をにらんだグループ再編の動きが見られるためだ。

派閥としては麻生派が唯一であるものの、参院自民党で影響力を持つ石井準一参院幹事長らが4月15日に新グループ「自由民主党参議院クラブ」を結成。すでに40人を上回る参院議員が参加しているという。

官邸と党執行部の間には「見えない壁」

かつて「参院のドン」といわれた青木幹雄参院議員会長の影響力を例に挙げるまでもなく、参院は時の内閣の意向をあまり気にしない「良識の府」として機能し、石井氏が君臨する今の参院自民党も行政府と立法府で一定の距離を保っている。

高市首相がこだわった2026年度当初予算の年度内成立を断念させたのも、十分な審議時間確保を優先した参院自民党の調整によるところが大きい。絶大な権力を持つ首相と言えども、石井氏らの新グループ結成は“警戒すべき動き”と映っているに違いない。

首相と自民党サイドとのコミュニケーション不全が指摘される中、本来であれば「調整役」としての役割が期待されるのは鈴木幹事長である。ただ、麻生副総裁と義弟の鈴木氏には衆院解散の意向を直前まで首相から伝えられないなど、意思疎通をめぐって不満があるのは当然だ。

人事面では麻生派から重用されているものの、首相が信頼を置く萩生田幹事長代行を除けば官邸と党執行部の間には「見えない壁」が存在し、調整役としてどのように動けば首相の意向に沿うのかも分かりにくい。

意に沿わない人物を更迭するのか否か

総選挙の大勝で「高市一強時代」が到来したとはいえ、直近の地方選で自民支援候補が3連敗し、内閣支持率が下落フェーズに入っていることも気がかりだ。

党内では武田良太元総務相が新しい政策集団を作り、林芳正総務相や岸田文雄元首相らの側近たちも勉強会を重ねる。これらの動きは「ポスト高市」をにらんだものと受けとめられて当然だろう。

目下の注目は、今秋に予定される内閣改造・党役員人事だ。これまで麻生派の重要ポスト獲得が目立ってきたが、足元の「微妙な距離」を反映した人事が断行されるのか。

さらに首相が悲願とする消費税減税や憲法改正などをめぐり、意に沿わない人物を更迭するのか否かに注目が集まる。この人事次第で、首相と麻生副総裁らの距離が変化していく可能性は高いだろう。

来年には4年に1度の統一地方選が待ち構えており、今後も地方での選挙敗北が続くようであれば、高い内閣支持率を維持できたとしても「高市首相の下では戦えない」という声が出ないとも限らない。

その時、麻生副総裁や石井参院幹事長らはどのように動くのか。精力的に仕事をこなす一方、歴代宰相と比べて早い時間に首相公邸へ帰る高市氏にとっては耳障りかもしれないが、「盛者必衰」という言葉がそろそろ浮かんできそうな永田町である。

文/竹橋大吉

 

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