《白バス暴走事故》「オレの指導を受ければ早稲田に入れてやる」と豪語していた“元名監督”のバス運転手は高級クラブに入り浸り…バス会社と学校は異なる主張で無責任の連鎖
《白バス暴走事故》「オレの指導を受ければ早稲田に入れてやる」と豪語していた“元名監督”のバス運転手は高級クラブに入り浸り…バス会社と学校は異なる主張で無責任の連鎖

私立北越高校(新潟市)の男子ソフトテニス部員を乗せたマイクロバスが道路脇に突っ込み生徒1人が死亡した磐越道の事故。過失運転致死傷容疑で逮捕された無職・若⼭哲夫容疑者(68)を蒲原鉄道(新潟県五泉市)に「ドライバー」として紹介した人物を福島県警が特定し、事情を聴いていることがわかった。

高校とバス会社との不透明な契約に、危険な運転の常習者だった若山容疑者がなぜ絡んだのか。事件の登場人物がついにそろった――。

「俺の指導を受ければ早稲田に入れてやる」

若山容疑者は事故の1ヶ月前からだけでも複数件の自損事故を起こしたことがわかっている。「免許を返納する」と周囲に口にしていたものの、今回バスの運転を引き受けて大事故を起こした。

若山容疑者とはいったいどんな人物か。

「彼は青森県出身で早稲田大学の英文学科に入学し、陸上部で活動していました。卒業後に体育教師となり、東京学館新潟高校(新潟市)で陸上部を率いたんです。

その後、県内のスポーツクラブで勤務し、2014年ごろにこのクラブの系列資本が新設した開志国際高校(新潟県胎内市)の陸上部指導者に転職。5、6年前に同じスポーツクラブに再就職しています」(元同僚)

ふたつの高校に籍を置いている時期は陸上競技の指導者として秀でていたとの評価で、「後に箱根の大学駅伝のスターになった選手を育てるなど新潟県の陸上競技界のけん引役でした」と元同僚は話す。

だが違う評価も。

「なりふり構わずやるんで嫌われてました。例えば中学生の有望な選手がいれば、まず高校の校長から中学の校長に『うちの陸上部の監督に挨拶させてください』と連絡を入れて礼を尽くすのが常識です。

でも彼はいきなりその生徒の家にバーンって押し掛けるんです。

そして殺し文句が『俺の指導を受ければ早稲田に入れてやる』でした。実際にそんなコネがあるはずはなく、約束が守られずトラブルになったこともあったと聞きました」(昔の友人)

陸上部監督として若山容疑者も部員を乗せたバスを運転する機会は多かったという。だがその運転にも悪評が。

「学校名の入ったバスを猛スピードで走らせ、住民から学校に苦情が入り、怒られてました。ほかにもしょっちゅう(車体を)こすったりしてました」(元同僚)

高級クラブに出入り「高校の教員でなんであんなに金があったんだか…」

酒好きでよく夜の街に繰り出し豪気に遊んだ姿も目撃された。

「昔は新潟市の歓楽街、古町の高そうなクラブに一時入り浸ってました。高校の教員でなんであんなに金があったんだか…」(関係者)

「奥さんと離婚し、子どもさんとの関係も悪いと口にしたのを聞いたことがあります。陸上の指導と酒で寂しさを紛らわそうとしたのかもしれません。いま彼が住む胎内市は街の中心部にしか飲み屋がなく、公共交通機関もありません。それでもしょっちゅう飲みに出ています」(元同僚)

2番目の高校も退職し、2度目のスポーツクラブ勤務になると心身の衰えが隠せなくなったと容疑者を知る人たちは口をそろえる。

「彼はスポーツクラブでもバスの送迎の仕事をしていたんです。しかし運転があまりにも危険だと判断され、1、2年前に乗務を外され事務に転換させられました。でも手が震えたりして事務作業もまともにできず解雇されたと聞きました」(元同僚)

陸上界が長かった容疑者は毎年春に開かれてきた「新潟ハーフマラソン」で棄権したランナーを拾う最後尾のバスの運転を長年担ったが、普段の挙動から正常な運転ができないと判断した主催者側は2024年を最後に運転をやめさせている。

(♯5)

また2022年春から胎内市の非正規職員としてイベントなどで時折バスを運転していたが、それも昨年春に辞めている。

胎内市は「勤務に問題はなかった」と説明するものの、他の勤務先や陸上界に次々と「ハンドル」を取り上げられた後まで運転をさせていたことが適切だったのか、疑問も残る。

無職になっても若山容疑者は車での外出を続け、時間が経つほどに事故の頻度は高まっていった。そして5月6日、高校生20人を乗せたバスで約220キロ離れた目的地の福島県富岡町へ向かって走り始めると、2時間後にノーブレーキで道路脇に突っ込んだ。

車体を貫通したガードレールは3年生の稲垣尋⽃(ひろと)さん(17)を車外に突き出し、命を奪った――。

バス会社と学校の異なる主張…無責任の連鎖が生んだ事故

これほど危険なドライバーを運転席に座らせたのは、男子ソフトテニス部の寺尾宏治顧問からバスの手配を請け負った蒲原鉄道の営業担当・金子賢二氏だ。

「寺尾顧問から費用を安く抑えるためレンタカーと外部のドライバー探しを頼まれた」と主張する金子氏は「知人」の紹介を受けて初対面の若山容疑者に運転を依頼。その際、容疑者の健康状態や運転歴、運転免許証の種類の確認もしていない。

若山容疑者が所持していない業務用の二種免許を「持っている」と説明しながら金子氏に紹介したとされる「知人」は、金子氏の依頼でドライバー探しをしたが「引き受けてくれる⼈が⾒つからず、若⼭容疑者に依頼した」と福島県警に供述したと報じられた。

いっぽうで北越高校と寺尾顧問は、金子氏にはレンタカーと外部運転手探しを頼んだのではなく、通常の営業バス手配を求めた、と主張している。

しかし、蒲原鉄道が男子ソフトテニス部に昨年度に送った請求書には「レンタカー代、人件費」と書かれたものがあることが発覚した。

違法な「白バス」運行を前提としたことがうかがわれる請求を受け取っていた寺尾顧問は、「請求書の項目は確認をせずに支払い担当者に渡してたので(「人件費」と書かれた請求書があることを)認識していませんでした」と弁解。

灰野正宏校長は、部活動絡みの契約は「学校全体の体制としては、こちらがグリップを持たず部活動に任せていた」と主張している。

北越高校と蒲原鉄道は「何」を契約したのか。そして周囲が「運転なんか絶対にさせられない」と口をそろえる若山容疑者がなぜ運転手として目をつけられ、運転席に座ることができたのか。

無責任の連鎖が生んだ悲惨な事故。しかし、どれほど明快に責任のありかを究明しようと17歳の命は取り戻せない。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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