値上げラッシュの中で“逆張り”…イオンが3500品目を「値上げしない」本当の狙い、トップバリュ1.2兆円の破壊力
値上げラッシュの中で“逆張り”…イオンが3500品目を「値上げしない」本当の狙い、トップバリュ1.2兆円の破壊力

イオンはプライベートブランド「トップバリュ」のおよそ4割に当たる3500品目を、8月31日まで「値上げしない」と宣言した。多くの食品メーカーは原材料費や人件費の高騰を背景に価格転嫁を進めている。

そんななかでイオンの「価格凍結」戦略はまさに逆張りだ。チェーンストアの王道を行くイオンの戦略で、ナショナルブランドはシェアを侵食される可能性もある。

プライベートブランドの台頭でナショナルブランドの勢力図に変化が

トップバリュの売上は2023年度に1兆円を突破した。2025年度の売上は前年比でおよそ1割増加し、1兆2000億円近くにまで達した。足元のイオンのプライベートブランドの売れ行きは好調である。特に低価格路線の「ベストプライス」の伸びが著しく、2025年度は13%も増加した。トップバリュは消費者の節約志向の受け皿になっている。

食品の値上げラッシュは今年も続いている。帝国データバンクによると、主要な食品メーカー195社の2026年4月における値上げ品目数は2798。値上げ1回当たりの平均値上げ率は月平均14%だった。即席めんなどの加工食品、マヨネーズ・ドレッシングなどの調味料、飲料の値上げが目立つ。

値上げによる消費者の買い控えは、ナショナルブランドですでに表れ始めている。日清食品の2025年度のカップめんの売上は前年比1%の微増、袋めんは2%減少した。

「カップヌードル」のレギュラーの希望小売価格は税別236円(2026年4月からは248円)。トップバリュのベストプライスのカップラーメンは本体価格が108円だ。「出前一丁」の5食パックは730円、トップバリュの「オールタイムヌードル しょうゆラーメン」が5食パックで238円。価格にだけフォーカスすると、プライベートブランドに軍配が上がる。

販売の伸びが鈍いカテゴリーは日清食品以外にも見られる。キユーピーも国内の消費者向けの調味料の売上は横ばい、伊藤園の緑茶の足元の販売数量は減少している。傾向として強く出ているのは、代替がききやすいカテゴリーであるということだ。

例えば、ごま油の国内シェア50%のかどや製油は、2022年と2023年に値上げを行なったが、2025年度の家庭用の販売数量は増加。売上は伸び続けている。イートアンドホールディングスは主力の「大阪王将 羽根つき餃子」を2025年9月から値上げしたが、冷凍餃子カテゴリーでシェアトップの座を守った。月間470万パックも売れており、今のところ勢いが衰える様子はない。

物価高で多くの消費者は「これでいい」か「これがいい」かを常に考えている。

トップバリュは前者の消費者意識を拾いに行く作戦だ。8月31日まで値段を据え置く「価格凍結宣言」の商品一例として、サラダ油やマヨネーズ、ケチャップ、スパゲッティ、オリーブオイル、即席めんを挙げた。まさに代替がききやすいものである。

アンケート調査からも見えてくる「これでいい」という消費者意識

トップバリュは包装の簡素化や大量仕入れ、原料の調達ルートの見直しなど、あらゆる手を使って価格を維持する見通しだ。そして、製造を委託する会社に発注した量はすべて買い取ってもいる。今や取引先に負担をかけて価格を下げるやり方は時代遅れであり、食品の安全性や品質を守るためにも会社同士の健全な関係の維持が必要だ。

こうした動きができるのも、食品スーパーだけで約2200店舗、小型店で1000店舗、コンビニで2000店舗という巨大な販売ネットワークを築いたイオングループのスケールメリットの賜物だ。同業態を多店舗展開してコストを削減し、低価格の商品を広く販売する手法こそチェーンストア戦略の要である。

一方、チェーンストア戦略は店舗の画一化を招きやすい。それがマイナスに働くこともあり得る。例えば、イオングループは「マルエツ」や「いなげや」などのスーパーを傘下に収めている。別ブランドにもかかわらず、同じ商品ばかりが並んでいては客が寄り付かなくなるだろう。

イオンはかつて画一化するこの現象に悩まされた。

その象徴的な存在となったのが中国・四国地方を中心に展開していたマルナカだ。イオンは2011年に買収したが、その後マルナカは生鮮食料品の仕入れがイオン中心となり、トップバリュの商品も多く並ぶことになった。

地元の農家や漁業組合などから新鮮な食材を仕入れることに強みがあったマルナカは、イオンと同質化してしまったという。それが客離れを引き起こし、しばらくイオンのスーパーマーケット事業は低収益化に苦しむ要因となったとみられる。

しかし、インフレで時代は様変わりした。日本政策金融公庫の「消費者動向調査」では、食費を節約したいという「経済性志向」が2023年7月の調査以降、40%超の高水準を維持している。消費者の節約志向は高まるばかりだ。

消費者が価格を優先して選択している様子は、プライベートブランドの調査で明らかになっている。アンケートツールを提供するアイブリッジの「PB(プライベートブランド)商品についての調査」では、1年間に購入したプライベートブランドのトップはトップバリュで45.4%に達している。一方、同ブランドを「とても好き」だと回答した割合は26.2%だ。満足度はコストコのプライベートブランド「カークランドシグネチャー」の64.1%と大きな乖離が生じている。

インフレ下で、消費者の「これでいい」傾向は強まっていると言えるだろう。

低価格で「これがいい」商品を届けるデフレスタイルは終焉を迎えたのだ。

消費者のニーズを的確につかんで商品開発に活かす

トップバリュも消費者の心をとらえる優れた商品の開発に邁進中だ。

2025年2月に「トップバリュ レンジでできる!中華 炒めないの素」を発売したが、これは共働き世帯の増加で料理に時間がさけない家事の軽減ニーズに応えたものだ。1人前×2袋が標準のセットとなっているが、これもカップルのニーズに沿ったもの。一般的な中華の素は3~4人前が中心で、量が多すぎるという声を拾い上げた。

「トキメクおやつ部」はZ世代を中心とした若年層向けの菓子を扱っている。プライベートブランドは簡素な包装で、価格を訴求するスタイルが一般的だった。「トキメクおやつ部」はパッケージのデザインや、「癒しの魔導士グミ」などネーミングにもこだわる商品開発を行なっている。

商品開発力も上げているイオンの「値上げしない」戦略はいかなる結果をもたらすのか。小売業界全体が関心を寄せている。

取材・文/不破聡

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