住友不動産の子会社が異例の「歩合廃止」へ…元社員逮捕で露呈した不動産営業の危うい実態と「インセンティブの負の側面」
住友不動産の子会社が異例の「歩合廃止」へ…元社員逮捕で露呈した不動産営業の危うい実態と「インセンティブの負の側面」

住友不動産グループに激震が走った。子会社・住友不動産ステップの元社員が詐欺容疑で逮捕されたことを受け、同社は「歩合賞与の廃止」や「チーム営業への転換」といった異例の構造改革を発表した。

背景には、一社員の不正だけでは片付けられない、不動産業界特有の成果主義や「囲い込み」問題があるとの指摘もある。業界関係者への取材から、その実態を追った。

住友不動産の子会社「当社元従業員の不正行為について」

「当社元従業員の不正行為について」。住友不動産の子会社で不動産仲介を手掛ける住友不動産ステップは5月12日、同社の元社員が逮捕されたというプレスリリースを公開した。

財閥系企業の社員が売却意思のない物件を個人的に紹介し、架空の売買契約書を締結し手付金として不正に400万円を受領したという事件は全国ニュースでも取り上げられ、世間に大きな衝撃を与えた。

東京・五反田の廃旅館「海喜館」を舞台に約55億円を騙し取った地面師事件がかつて話題となったが、通常、地面師の場合、架空の名前も肩書きも用意した上でターゲットと接触するものだ。

この元社員がどのような絵図を描いていたのかは定かではないが、地元テレビの報道によると、これまでずっと取引があった相手に対し、偽造した免許証のコピーなどを提出してごまかそうとしていたという。

ちなみに、事件が公になる1年前の時点で、元社員は懲戒解雇になっていたと住友不動産ステップは今回はじめて明らかにしている。

「住友不動産の強さはその圧倒的な営業力であり、個人の力だ」

同社は事件を受け、「再発防止に向けた構造改革について」というリリースを発表。営業センターの所長が1人で業績や社員教育などの管理運営の責任を負う体制がこのような事態を招いたとして、営業センターの統合や管理体制の見直しを発表した。

業界を驚かせたのはその先だ。「歩合賞与を廃止し、個人ではなくチームでお客様を担当する体制に」「定期的に地域をまたぐ異動を実施」と、同社のビジネスの根幹に踏み込んだのだ。

「住友不動産グループの強さはその圧倒的な営業力であり、個人の力だ」。大手不動産デベロッパーの社員、A氏はこう語る。

財閥系とは思えない社風を窺わせる投稿がずらり

三井や三菱と並ぶ三大財閥として知られる住友だが、不動産業界における立ち位置は三井・三菱とは少し異なる。

三井不動産や三菱地所がそれぞれの財閥で中核企業として振る舞う一方、住友不動産は戦後の財閥解体後に誕生したため財閥内でも傍流であり、日本橋や丸の内のような「ホームグラウンド」を持たない。

現在、都心の一等地に建つ住友不動産のビルのほとんどが、同社の社員が靴底をすり減らして土地を買い上げ、開発してきたものだ。「うちは三井や三菱と違って、会社に座ってるだけで給料を貰う社員はいない」と同社の社員は公然と話す。

そうした精神は子会社である住友不動産ステップにも引き継がれている。徹底した実力主義をかかげる同社は給料に占める歩合の比率が高く、契約さえ取れればインセンティブにより若手社員でも年収2000万円を稼げるし、逆に40歳、50歳になっても成果が出せなければ給料は上がらない。

企業の口コミサイトであるオープンワークを開くと、「ひたすら営業成績を求められる」「ノルマ意識が強い」「実力主義」といった、財閥系とは思えない社風を窺わせる投稿がずらりと並ぶ。 

「インセンティブの負の側面が無視できなくなったのでは」

もっとも、厳しい環境がゆえに、年功序列でぬるま湯を狙うのではなく、「個人の力」で稼ぐ姿勢が最大の強みとなっていたのも事実だ。

数字をあげるためにテレアポやチラシのような泥臭い営業も厭わず、長時間働く社員は同業他社からも畏敬の念で見られていた。

しかし、今回の事件を機に、グループの最大の特徴である歩合を減らすとなれば、前提が大きく崩れることになる。

前述のA氏は「どこまで歩合の比率を減らすかは分からないが、インセンティブの負の側面が無視できなくなったのでは」と分析する。ここでいう負の側面とは、今回発覚した犯罪行為に直結するような行為だけでない。

一般的に、不動産仲介会社は仲介手数料が最大の収益源となる。400万円以上の物件の場合、仲介手数料は「成約価格の3%に6万円を足した数字」が上限となっており、物件価格が7000万円のマンションの場合、216万円となる。

しかし、売主も買主も自分で見つけた場合、2倍で432万円まで引き上げることができるのだ。

不動産業界ではこうした取引を「両手取引」と呼ぶ。

売り手も買い手も自分で見つけてくる人が正当な対価を得るという意味で、両手取引自体は悪いことではない。しかし、両手取引を実現するために、他社経由の買い手を拒絶する「囲い込み」を実施しているとなれば話は別だ。

売主からすれば、売りに出している物件を購入してくれる可能性を知らないところで握りつぶされることになるからだ。しかし、歩合制の会社の場合、自らのインセンティブを達成するために、こうした取引が発生しやすい。

ダイヤモンド不動産研究所が24年に公開した情報によると、住友不動産ステップ(旧住友不動産販売)の両手取引比率は50.9%と、競合の三井不動産リアルティグループ(38.42%)や東急リバブル(32.61%)と比べても明らかに高い。

もちろん、歩合のために社員一人一人が努力したという側面もあるのだろうが、X(旧Twitter)上では、同社の囲い込みを疑うような投稿も頻繁にみられた。国土交通省は25年、宅地建物取引業法を改正し、囲い込みが発覚した場合、是正の指示処分の対象とするとしている。

コンビニ店舗数より多い不動産仲介会社

現代はSNSで悪評がすぐに広がる時代でもある。こうした評判を気にしてか、24年11月には親会社の住友不動産が「お客様の利益を損なう『囲い込み』が起こり得ない、疑われようがない体制構築を推進しています」とわざわざ表明したほどだった。

信賞必罰の徹底により事業を拡大してきた住友不動産グループだが、今回の事件を機に、行き過ぎた歩合の見直しが必要だと判断したのだろう。

不動産業界に限らず、歩合によって給与をコントロールするという手法は業界を問わず広く用いられているが、近年はこうした取り組みが逆効果となるパターンがよく見られる。

トラブルが続出している生命保険業界でも、社員による金銭詐取問題が明らかになったプルデンシャル生命やソニー生命は完全歩合制に近い報酬体系で知られており、高額の報酬につられて入社した社員が焦りから不正に手を染めた例が報道されている。

経済が右肩上がりの昭和や、デフレで人が余っていた平成ならともかく、企業が大きくなればなるほど、歩合で人を動かすという文化はリスクになりつつある。

もっとも、前述のA氏は「不動産業界で歩合が完全になくなることはない」と断言する。仲介会社は大手企業から零細まで幅広く、日本全国に13万2000社以上ある。これはコンビニの店舗数の2.3倍の数字にあたる。

監督官庁・国交省は、金融業界の金融庁と比べて権限小さい

人材の流動性が高い業界でもあり、他社へ転職したり、独立したりするのも容易だ。大手企業が歩合制度を見直したとしても、大金を稼ぎたいというモチベーションを持った社員は歩合制の会社に移るだけだという。

そもそも、金融庁に厳しく監視されている金融業界に比べ、不動産業界は監督官庁である国土交通省の権限が小さい。前述の囲い込みに関する指導もあくまでポーズであり、実際に囲い込みがあったことを証明するのは困難だ。

また、歩合にこだわる、ハングリー精神のある社員のほうが優秀であることが多い業界でもある。消費者である我々にできることといえば、大企業の看板を盲信するのではなく、人を見る目を磨くしかないのだろう。

文/築地コンフィデンシャル 写真/shutterstock

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