「三谷さんの頭のつくりは、三島さんと似ている」

かつての人気番組『オーラの泉』で三谷幸喜がゲスト出演した際に、こんなようなことを美輪明宏は言っていました。「三島さん」とはいわずもがな、『金閣寺』『仮面の告白』などで知られる、日本文学史上屈指の大作家・三島由紀夫のこと。

この昭和の文豪が原作を担当した戯曲映画『黒蜥蜴』を引き合いに出し、「三谷ドラマは物語の起こりから結末までが精緻に伏線で繋がっていて、その部分が三島作品を想起させる」という主旨で評していたと記憶します。

厳しい意見多数の『真田丸』


現在、その三谷幸喜が脚本執筆しているのが、NHK大河ドラマ『真田丸』です。本作は戦国時代きっての名武将・真田幸村の生涯を描いた物語であり、主役を演じるのは堺雅人。当代きっての人気俳優と有名脚本家がタッグを組んだ作品とあって、放送開始前から大いに期待されていました。
それでは1月10日の初回放送から数週間が経った今、現状はどうなのでしょうか? 確かに去年井上真央が主演し、数字的に散々な結果に終わった『花燃ゆ』よりは多少ましなものの、大河ドラマとしてはそこそこの視聴率に落ち着いているようです。

「放送スタートから4週間(2月6日まで)に、厳しい意見が423件寄せられ、好評意見(200件)の2倍以上だったことがわかった」
こんなニュース記事もありました。「動き、表情のどれも軽々しく戦国時代とはミスマッチだ」「チャラチャラした演出でガッカリ」などの否定的な意見が多勢を占めているよう。

確かに、三谷時代劇では軽い印象を受けることもしばしば。その傾向は、1996年に放送された『竜馬におまかせ!』や、2013年公開の映画『清洲会議』でも見られました。本来は喜劇作家ゆえの、どうしても抜ききれないコミカルな調子が、時に作品全体を支配してしまうのです。

しかし、そこで振り返ってほしいのは前述の美輪明宏の三谷評。そう。三谷ドラマの真骨頂は、計算しつくされたプロットであり、周到に準備された伏線にあります。
まだ半分も話が進んでいない今(2016年3月現在)、判断を下すのは早計ではないでしょうか?

新撰組ファンが激怒した『新選組!』


思い出されるのは、三谷が今から12年前に執筆した大河ドラマ『新選組!』です。この作品も当時、大きな批判を浴びました。登場人物の現代的言葉遣いによるフランクな芝居は、今回の『真田丸』同様、反感の対象に。さらに、史実などお構い無しの独自解釈によるキャラ・ストーリー設定に、古くからの新撰組ファンは激怒しました。
何せ、実際は会ったこともないとされる坂本龍馬と新撰組が友達みたいな間柄になったり、粛清されたはずの隊士を生きたまま退場させたりしていたのだから、司馬遼太郎作品に慣れ親しんだ層からすると、異質に見えるのも無理はありません。

若い世代も 新たなファンを獲得した『新選組!』


アンチの反発もあった『新選組!』ですが、話が進むほどに、新たなファンも獲得していきました。その多くが若い世代だったそうです。悩みや不安、恐れを抱えながらも奔走する若き新選組隊士の姿に、自身を重ねる視聴者が増えたのでしょう。

こうした若年層からの支持は、山南敬助役の堺雅人や、土方歳三役の山本耕史による好演あってのことですが、一番の功労者は間違いなく三谷幸喜。同年代の肌感覚に馴染みやすい現代語調の台詞回しと、登場人物一人ひとりの人物像をはっきりと描くための軽妙ながらも力強い筆致があってこそ、成し得た業ではないでしょうか。

伏線の回収が見事な三谷幸喜


人物像の描き方もさることながら、話の進め方も見事というほかありませんでした。一見無意味だと思われていた事象が、実は、巧妙に張り巡らされていた伏線であり、物語終盤になって次々と繋がっていき、新撰組の悲劇的な結末へ向けて加速していくのです。
視聴率は低調に終わったものの、DVDボックスが大河作品最高の売上を記録したことからも、この群像劇が多くの人から愛されていたことが分かります。

話を現代に戻し、『真田丸』です。
今のところは否定派が多いようですが、序盤に嫌われるのは『新選組!』と一緒。そこは三谷幸喜のことです。前作同様、おそらく、中盤から終盤にかけて、あっと驚くような伏線を用意していることでしょう。そのときを楽しみに視聴するのが、この『真田丸』との上手な付き合い方なのではないでしょうか。

(文 こじへい)

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