物置で見つけたちょっとH? なもの
我が家の物置で見つけてしまった『完全なる結婚』
モノが捨てられない我が家では物置は“パンドラの箱”状態になっている。
禍というのはちょっと大げさだが、「何かを入れるためには片付けが絶対必要」なのである。


そんな物置で先日『完全なる結婚 生理とその技巧』という本を見つけた。見るからに古いその本はなぜか食器戸棚の中に編物の本と一緒に入っていた。著者はヴァン・デ・ベルテ、医学博士神谷茂数、原一平共訳となっている。
発行年は1949(昭和24)年6月30日、定価は150円、地方売価は160円。この頃は書籍の値段はまだ全国一律の値段になっていないようで都市部以外で売られる本は輸送費などが定価に上乗せさせられていたらしい。

中をのぞいてみると、目次には緒言、前書きですね、「一般の性生理」、「特殊な性生理及び解剖」、「性交」、「高級結婚の衛生」とある。
何と夫婦生活のことに関して書かれているではありませんか。
何でこんな本が我が家に……とちょっと赤面しつつ、いつものごとくこの本について調べてみた。

本を発見した時には分からなかったが、なんとこの本、戦後のベストセラーだった。

著者のヴァン・デ・ベルテはオランダの産婦人科医で1926年にこの本を出版。発売後はオランダのみならず各国で訳され出版されたという。女性が性的快楽を追求することを肯定し、夫婦の愛はセックスにおいてこそ最高度に実現されるとするという新しい考え方に多くの人が共感したということだろうか。
日本でも戦前、各国と同様に1930(昭和5)年に『完全なる夫婦』というタイトルで訳され出版された(訳者は平野馨)。けれどもこの「完全なる夫婦」はその後、発売禁止に追い込まれてしまった。
手元にある『完全なる結婚』の序にはこのことについて、内容が不真面目な人や認識が充分でない人に卑猥の書ととられやすく、当時の検閲に許可されなかったと書かれている。
国会図書館の蔵書検索で調べてみると『完全なる夫婦』には当時発禁本であった名残りで請求記号に特500がついている。

そして、戦後新しい時代となり、『完全なる結婚』というタイトルで訳者や出版社を変え、数種類が出版されたようだ。この当時のことについて書かれた新聞記事を見てみると、「禁欲を強いられてきた人たちが戦後、性の解放のような空気がある中でヴァン・デ・ヴェルデの『完全なる結婚』に傾斜しベストセラーになった」といった記述がある。
またこの本がきっかけとなってその後“HOW TO SEX 本”が出版されるようになったとも書かれている。

我が家にあったのはその戦後出版されたものの一つのようだ。
医学書だけあって出てくる単語がストレートなのだが、よく読めば卑猥という言葉は当てはまらない。「よく調和された満足な性生活が結婚を幸福にするものだ」と説きつつ、人間の生理の部分がきちんと書かれている。平成に生きる私が読んでも「ああっそういうことなのね」と思うところも多々ある。エロとは決して思わないけれど、でも何となく気恥ずかしく思ってしまうのもまた事実。
これはやはり性にまつわる内容ゆえか。

1949年出版の我が家のこの本の持ち主は父ではないかと思うが、あまり読んだ形跡は見られない。
モノのない時代の本ゆえに紙も製本もあまりよくないためシミや日焼けが目立つがページの折れや破けはないし、メモ書きのようなものもない。古いけれどきれいだ。
これはどうしたことか? でもあまり読んでいない、という方が娘としてはありがたい。
結婚、性生活のバイブルのような本でバリバリに線が引かれていたり、メモ書きとかあったりしたらどう反応していいか困ってしまうし。


そういえば、以前にもどこかの温泉土産とおぼしきエッチな絵柄のハンカチが出てきた時には母が「どうしてあの人はこんなものを後生大事に持っているのか」と苦笑しあきれていた。
読んだ形跡があまりないこの本も、もしかしたら温泉土産なノリで買ったか貰ったりしたものなのかもしれません。

ヴァン・デ・ベルテの『完全なる結婚』は1950年代、1960年代に何度か出版されているが、1982年にも河出書房新社から出版され、それが最後になっている。現在でもまだ出版されているのか河出書房新社に問い合わせたところ、「ただいま品切れ、重版未定の扱いになっています。版権は放棄したわけではないので絶版ではありませんがそれに近い状態です」とのことだった。
1968年には西ドイツ(当時)でこの『完全なる結婚』がフランツ・ヨセフ・ゴットリーブ監督により映画化されていて、現在はDVDとして発売されている。

映画は見ていないので何ともいえませんが、原作に関してはエロでないことは確かです。
(こや)