CDセールスの落ち込みは毎年々々伝えられており、今や売上高はピーク時の半分以下とのことである。音楽をダウンロードで入手できるようになったこと、しかもそれが楽曲単位で可能になったことで、わざわざパッケージソフトを入手する必要がなくなったというのがその最大の理由だろうが、CD以外の音楽ソフト自体も年々売上を落としていて、もはやデジタル配信ですら頭打ちという状況だとか。「何と嘆かわしきことよ」とお思いも読者も少なくないかもしれないが、その因果関係には諸説あるので、この辺の話はどなたかにお譲りして、ここではむしろそのCDセールスピーク時のアーティスト、作品を取り上げ、振り返ってみたいと思う。1996年に発表した1stアルバム『Red』がチャート初登場で1位を記録。翌年リリースの2ndアルバム『paraDOX』も同様にチャート初登場1位し、さらには1998年の3rdアルバム『crimson』もチャート初登場1位という偉業を成し遂げた相川七瀬は、CD全盛期のミュージックシーンのド真ん中を堂々と闊歩したアーティストのひとりだ(女性ソロアーティストでデビューアルバムから3作連続で初登場1位を獲得したのは当時としては初の快挙であったという)。
『crimson』はM1「○○○○?」で幕を開ける。ギターリフとパーカッシブなリズム、そして何よりサビメロにザ・ローリング・ストーンズへのオマージュをいかんなく感じさせる王道R&Rナンバーだ。電子音の被せがちょっと気にならないでもないが、一時“和製ジョーン・ジェット”との異名を取っただけのことはある(筆者はそう呼ばれていたことは知らなかったけど、この呼び名は微妙ですね/苦笑)。オープニングから景気はいいし、カッコ良い。ロックアルバムとしては上出来である。
M7「fragile」は、個人的にはシングルでもイケたんじゃないかと思う佳曲。メロディーの持つ日本的な叙情性が琴線を刺激する。ここからM10「彼女と私の事情」までは曲間なく続いていく。と言っても、今のJポップ・ノンストップ・ミックスほどの妙味は薄いが、20年近く前のこととなれば好意的に捉えたいものだ。M8「Velvet moon」はハウス的なサウンドメイキング&リズムが基本だが、Aメロは変拍子的なビートも見せる興味深いナンバー。M9「たまんない瞬間」はプログレ的なギターリフが途中ロカビリー調に転調する、これまた一風変わったナンバーで、転調する瞬間に被さるサックス以下諸々の音が鼓膜をキリキリと刺激するような高音で、ややもするとノイズの域に入るほどだが、これも実に面白い。
結論から言えば、よく出来たアルバムである。おそらくアルバムの流れまで意識して制作されたわけでないと思われるシングル3作品をしっかりと並べ、(当たり前のことだが)1st~2ndで紡いできた相川七瀬という女性ロッカーのキャラクターをキープした作品作りはお見事。ご存知の方も多かろうが、相川七瀬は織田哲郎氏のトータルプロデュースによってデビューしたアーティスト。それまでの主流だった「“前向きなガール・ポップ”に対して“前向きじゃないダークなロック”を全面に打ち出した」というが(「」内はウィキペディアより引用)、『crimson』では依然織田氏のプロデュースワークが冴えわたっていたことが今も確認できる。1st、2ndに比べるとパンチ不足…との指摘もあるようだが、それは初出の印象と、2枚のアルバムを経てからの印象の違いによるところが大きいと思われるので、作品の本質に大きな変化はないと見るのが正しいのではなかろうか。
最後に、邪推にも近い補足をひとつ。
著者:帆苅智之