奇跡の2か月連続発売!!

マツコ・デラックスらを起用した、ケレン味たっぷりのポスター宣伝展開、公式サイトオープン、速水真澄ツイッター開始、コミッ
クス45巻
が発売された9月30日は「ガラスの仮面 コミック・ファンブック」同時発売。

「絶対に未完にするものか!」

そういう決意を感じます。
来る10月26日にはコミックス46巻発売。

演技の天才少女北島マヤとその永遠のライバル姫川亜弓。往年の名女優月影千草の悲願の上演タイトル「紅天女」の主演をめぐるふたりの演劇バトル。
そして、「紅天女」の上演権を狙いながら、マヤに惹かれ、紫のバラを贈り続ける、大都芸能社長速水真澄。

もはやそんな説明も不要の人気熱血演劇大河少女マンガ。もしも読んだことがないというひとがいたら、ぜひ、45巻分を一気読みする喜びを味わってみてください(なんとうらやましい)。



さて、『ガラスの仮面』スピリットは小説界にもひろがっています。

まずは、『チョコレートコスモス』。まあ『ガラスの仮面』ファンならばチェックしてなきゃおかしい小説ですね。

大学の演劇研究会にとつぜん入部希望の少女がやってきて、劇団員は入団テストをする。お題は「実演販売」。わかりました、「バサラ」を売りますと答える少女。
バサラとは彼女の飼い犬の名前らしい。少女は叫ぶ。「バサラ! こっちよ!」

〈ヒュッと何かが耳をかすめたような気がしたのと、少女が何かにぶつかってどしんと尻餅をついたのはほぼ同時だった〉

〈「いてて、バサラ、行儀よくして」
少女は腰をさすりながら身体を起こした。むろん、彼女のそばには何も見えない。巽は、ぞっとした。さあっと全身に、くすぐったさにも似た鳥肌が立つのを感じた。
今、何か通った。確かにそれを感じた。まるで大きな獣みたいな何かが、そばを通って、あの子にぶつかったのだ〉

いきなりやってきた少女の演技の天才性を。観ているものの視点で的確に描き出す。さすが恩田陸。『ガラスの仮面』では、観客の「ぞ~っ」とか「ゴクッ」といった臨場感溢れる反応であらわされるあの感じを、小説表現を凝らして、たーっぷり読ませてくれます。


劇研に入った一見ごくふつうの少女、佐々木飛鳥はつぎつぎと豊かな天才性を発揮していき、やがて、芸能一家で生まれ育ったサラブレッド女優、東響子と、あるオーディションで……という展開。
ファンなら絶対大好きな「あのエピソード」が文字で立上がって来る興奮、そして、マヤの天才性の正体とはなんなのか、恩田陸独自の解釈に「なるほど!」と膝をうつ快感。もっと詳しく書きたいけれども、これ以上はぜひぜひ『チョコレートコスモス』本編で!


二冊目。生田紗代『それいゆ』は、ストレートな演劇小説。大学で演劇サークルに入った女の子が、一癖も二癖もある先輩たちをさしおいて、なぜか主役に抜擢されて……。友だちを積極的につくることもしなかった頑な少女が、演劇を通して自然とコミュニケーションの喜びを見つけて行く過程をていねいに描く佳作。

直接的なオマージュシーンはないものの、「あ、これは『ガラスの仮面』のことだな?」とニヤリとする楽しみがあります。


最後は森絵都『DIVE!!』
はあ? と思う向きもありましょう!
そうです、男子飛び込み競技を題材にしたスポーツ小説の傑作ですよ。
しかし、冒頭の一節をちょっと読んでみてください。

〈「見つけた……」
女は背後の岩場から少年の飛翔に目をこらしていた。
女の目には少年が鳥に見えた。

少年の体が豪快なしぶきを上げて海に没した瞬間、瞳に異様な熱を宿した女は、歓喜とも狂気ともつかない唇のゆがませかたをした。
「まちがいない。この子だわ」〉

飛び込みの素質のある少年を求めて、全国を探し歩く女コーチのモノローグ。『ガラスの仮面』ファンなら

「これは、あれじゃないか!」

とまざまざと思い浮かべることでしょう。そう、月影千草が北島マヤを見出したあのシーンのオマージュとしか思えない。
そう読み始めると、ほかにも『ガラスの仮面』スピリットを感じるところがちらほら。『DIVE!!』は、少女マンガ『ガラスの仮面』を、見事にスポーツの、しかも少年たちの世界でもういちど輝かせてみせたという意味でも、傑作なのです。(アライユキコ)