宮崎県には宮崎県民手帳があって、一般書店で売っている。
そういう知識は前からあった。

というのは以前47都道府県の県民歌を調べたことがあったからだ。たいがいの県の場合、県庁の公式サイトに県民歌のページがあって、そこに楽譜や歌詞などが紹介されている。ところが宮崎県庁の公式サイトにはそれが存在しなかったのである。ちぇっ、ケチ。
調べると、宮崎県内で販売されている県民手帳に記載があるという。それを見たいなー、とずっと思っていたのだ。


昨年の11月、取材のために宮崎県に行く用事ができた。到着後、すぐに県民手帳を探したことは言うまでもない。年末が近かったためか、簡単に見つかった。なんと書店どころか、コンビニエンスストアにそれは存在したのだ。
購入して中を改める。お、たしかにあるある県民歌のページが。
作曲は飯田信夫。「とんとんとんからりんと」の「隣組」作曲で有名な人だ。確かめたいことをこの目で見られて満足した私は、手帳のページをめくった。なんの変哲もない手帳だが、「県民」と謳うだけあって、県の行事日程などがカレンダーに記されている。さらにページを繰ると、資料編というのが見つかった。県の施設の住所や電話番号などが記載されているようだ。

ほうほう。
え?
なにこれ?
この手帳、県議会議員の住所の一覧と電話番号が全部載ってる!
いや、さすがに事務所のアドレスだろうと思うのだが、明らかに宅地としか思えない住所を書いている議員がいる(ちなみに県を選挙区とする国会議員のアドレスも乗っているが、そっちはさすがにみんな議員会館が連絡先になっていた)。いいですか、これ。プライバシーとか、大丈夫なの?
よく見ると、他にもおもしろいページがある。たとえば統計資料の中の「日本一」を記したページだ。年間日照時間が2,172時間(平成21年)で日本一だというのは知っていたが、「きゅうり収穫量日本一」とか「マカジキ漁獲量日本一」とか、そういうことまではさすがに。
あと「ソルゴー生産量日本一」とか「へべす生産量・栽培面積日本一」とかも。ソルゴーって何? へべすって何?(前者は糖分をとるために栽培するイネ科の植物で、後者は平兵衛酢と描く柑橘類で日向市の特産物でした。調べた)

うわっ、県民手帳すごくおもしろい! 情報の宝庫だわ、これは。
他の県にも同じようなものがあるなら、ぜひ手に入れてそれでしか見られない県民情報を見てみたい。
そんなわけで手を尽くして、集めました。
さすがに全国47都道府県全部というわけはいかなかったが、39県分集まった。

そこで得た知識を、エキレビ!読者のみなさんにもお裾分けする次第である。宮崎県で思いついた企画なので、日本列島を南から順番に調べてみたよ。各県にはこんな日本一があります。

【九州・沖縄地方】
エントリーNO.1「沖縄県民手帳」
年平均気温は当然として「米軍基地施設面積割合」が対総面積10.23%で当然の1位。その他人口千対の「出生率」(12.2%)・「死亡率」(7.2%)がともに1位である。逆に47位のほうには「平均年齢」(40.5歳)「離婚率(人口千人対)」(2.60%)などの数字が並ぶ。
いちばんじゃないけど「ドラッグストア数」という数字も。人口10万人当たり5.26店で、全国で46位なのである。
ちなみにこの手帳、ごく普通の単色なのだが、沖縄県出身者に聞くと派手な花柄のものもあるという。関係者用に作っているのだそうだ。
(県議会議員のアドレス)あり。事務所と自宅と両方書いてある人もあった。
(県民歌)あり。

エントリーNO.2「鹿児島県民手帳」
知らなかったのだけど「竹林面積」が16千haもあり日本一なのだそうである。これは全国の竹林の約10%にあたる。あと、「豚飼養頭数」(1,372千頭)、「ブロイラー飼養羽数」(19,214千羽)でそれぞれ1位。うん、それはなんとなく予想ついた。最下位は「ブロードバンドの世帯普及率」(38.2%)だそうだ。統計とは別に「鹿児島の自慢」ページもある。「君が代発祥の地」そうだよね。「新婚旅行第1号」、これは坂本龍馬のことか。
東日本大震災の影響か、震災対策のページがあって「非常用持ち出し品リスト」もついていた。親切。
(県議会議員のアドレス)やはり、あり。
(県民歌)あり。

エントリーNO.3「宮崎県民手帳」
詳細は前述したので省きます。表紙がオレンジ色で、なぜか隣県の大分とおそろなのだ。

エントリーNO.4「大分県民手帳」
「大分県の全国ベスト3」というページがある。ワーストは載せない方針なのかな。やはり目を引くのは「温泉源泉総数」と「温泉湧出量」だろう。それぞれ4,538孔(と数えるんだって)291Kl/分で全国1位である。第一次産業では「乾しいたけ生産量」(1,401t)「かぼす生産量」(6,587t)などが目立つ。
この県はページ構成が独特で、カレンダー部分にそれぞれカラーのフロントページがついている。メモの書き込みもしやすいので、非常に使いやすい県民手帳である。
(県議会議員のアドレス)あり。
(県民歌)はじめて、なし。というより正式な県民歌がない県なのだ。1935年に作られた「大分県行進曲」がそれに準じるものである。作曲者は江口夜詩。「憧れのハワイ航路」の作者だ。

エントリーNO.5「熊本県民手帳」
はい、もちろん入ってます。くまモンのイラスト。それも表紙に。推してるなー、熊本県。
「全国から見た熊本県」のページでわかる順位では、ワーストで申し訳ないが「水道普及率」が62.1%で全国最下位である。それ以外の「日本一」は手帳からはわからない。ごめんね。
(県議会議員のアドレス)あり。
(県民歌)あり。ついでに代表的な民謡として「五木の子守唄」「あんたがたどこさ」「田原坂」「おてもやん」の4曲が紹介されている。手帳に「ピーチクパーチク雲雀の子」とか書かれているのはなかなか風情がいいですな。

エントリーNO.6「長崎県民手帳」
ここは宮崎県と同じで資料編が別になっている体裁である。これがなかなか充実して、「宿泊施設」の項には公共施設だけではなくユースホステルなども記載されている。また「歴代知事・歴代県議会議長の一覧などもあるのだ。調べることはあまりない情報だけど、でも便利である。統計のページでは残念ながら全国順位まで書いてくれていない。おそらく「秋植えばれいしょ収穫量」が25千t、対全国比46.9%なので、これは1位だと思うのだが。
(県議会議員のアドレス)あり。ちなみに国会議員の住所まで書いてある。
(県民歌)あり。

エントリーNO.7「佐賀県民手帳」
「佐賀県の概要」を見ると「板のり収穫量」(1,998百万枚)「ハウスみかん」(7,950t)などが全国一位になっている。それ以外だと「消防団員の組織率(人口千人あたり」(22.8%)、「薬局数(人口10万人当たり)」(61.5ヶ所)などという指標が1位になっている。微妙なお国自慢だなあ。
(県議会議員のアドレス)あり。
(県民歌)あり……なんだけど佐賀県民歌は記載されている「さが・ふるさとの歌 栄の国から」じゃなくて、1974年制定の「佐賀県民の歌」だったはずなのだが。ちなみにこの歌、作曲者は大物・團伊玖磨だ。いい歌なのにな。

エントリーNO.8「福岡県民手帳」
さすがに巨大都市・福岡を抱えるだけあって充実しており、ページ数も多い。「DATA BOOK」も資料編だけではなく市町村編まであるのだ。ただし資料編は案外薄くて特産品のことなども書いておらずつまらない。市町村編を充実させた分、お国自慢に力を入れる余裕を失った感じだ。
(県議会議員のアドレス)あり。
(県民歌)なし。おやおや。参考までに書いておくと県民歌「希望の光」は1970年制定。作曲者は、これも大物の中村八大である。「上を向いて歩こう」の人ですね。

【四国地方】
エントリーNO.9「高知県民手帳」
これまで見てきた九州地方の各県に比べると、こじんまりとした印象。まあ、手帳だからスケジュール機能が充実していればいいんだけど。統計情報のページに全国順位の記載もない。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。

エントリーNO.10「えひめ県民手帳」
無愛想な高知県に比べると俄然情報量が多い県だ。表記も「えひめ」でとっつきやすいしね。統計ページを見るといろいろ書いてある。「キウイフルーツ」(5,970t)「裸麦」(4,310t)「まだい」(35,457t)「しまあじ」(870t)とあるわあるわ。知らなかったのだけど「タオル地」も4,432百万円で全国一位なのだそうである。ちなみに愛媛県には農水産物統一の「愛媛産には、愛がある」とのキャッチフレーズがあり、その反映か「愛媛のかんきつ食べ頃カレンダー」まで掲載されていて実に診察なのであった。あ、みかんは全国一位じゃないのか。愛媛県のイメージアップキャラクター「みきゃん」のためにも、がんばれ!
(県議会議員のアドレス)なし! おお、初めてだ。
(県民歌)あり。

エントリーNO.11「香川県民手帳」
シンプルな作りだが、特産物のページはちゃんとある。もちろん「うどん生産に飼養した小麦粉の量」(59,643t)は全国シェア23.0%で1位である。その他では「うちわ、扇子」が(3,249百万円/47.8%)、スポーツ用革手袋(3,864百万円/92.6%)などで1位だ。味わいぶかいものでは全国2位だが「盆栽」(80千鉢)などというのもある。これ、1位はどこなんだろう。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。
エントリーNO.12「徳島県民手帳」
県のマスコット「すだちくん」がお出迎えしてくれる。図書館などの施設紹介ページも案内してくれるのは好感度高いね、すだちくん。徳島県の全国1位は「医師数(人口10万人当たり)」が304人、「幼稚園数(3〜5歳人口10万人当たり)」1,240.2園と福祉関係でいい数字を出している。住んだことはないけど、なんかいい感じだ。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。ちなみに「徳島県民の歌」の作詞は小説家の富士正晴である。これは代表的な「特産物県民歌」で一番の歌詞が「さわやかさすだちの香り」で始まる。そうだよね。さわやかだよね、すだちの香りは。

【中国地方】
エントリーNO.13「山口県民手帳」
この県も県民手帳に全国順位を書いてくれていない。競争が嫌いなの? おそらく「石灰石生産量」が18,059tで全国シェア13.5%もあるのでかなりの上位だと思うのだが、断定不可能である。
だが、その不満を埋めて余りあるのが、この手帳に掲載されているマスコットキャラクターとシンボルマークの多さだ山口県PR本部長の肩書きを持つ「ちょるる」(山口人の多用する語尾、〜ちょる、からとったんだそうである)を筆頭に山口県警察シンボルマスコット「ふくまるくん」(ふぐではなく、この地方ではふく)、山口県立山口博物館開館100周年記念マスコットキャラクターの「なっとくん」(納得? ナット?)などのもろもろを手帳の2ページを使ってすべて紹介してくれているのである。さながら「ゆるキャラ」図鑑の如し。あとは名産品ガイドのページで「ゆめほっぺ」や「萩たまげなす(という名前の茄子)」なんかも紹介してくれているしね。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。県民歌の方は、公式歌(なんと佐藤春夫作詞!)に加えて、1979年に制定されたセレモニーソング「みんなのふるさと」も収録されている。
次回に続きます)
(杉江松恋)