広く親しまれている日刊紙の書評欄で学術書を取り上げるのは気が引ける。でも、世界史のブランドと言われるローマ史の基幹をなす話題であれば黙したままでいいものか。
長くつづいた共和政に綻(ほころ)びがみられ帝政に移行しつつあった前一世紀前半。政治活動は公職を独占する元老院貴族による寡頭政であり、民衆は有力貴族に保護されていたにすぎないというのが通説であった。著者は異論を唱えた。ローマ共和政期も後半になるほど民衆も政治に積極的に関与し、民会には広範囲にわたる決定権(投票権)があり、当時の政治家は演説のなかで民衆を説得する必要があったという。その政治集会はコンティオとよばれ、立法民会に先立って招集されていた。とりわけローマ市民権を求めるイタリア人との同盟市戦争以後は、民衆の政治参加が重んじられるようになった。
このような民衆の声はやがて陳情と勅答という形でローマ皇帝の仕事をなしていたことも明らかにされた。もちろん厳しい批判もあるが、ローマ帝国の権力構造について新しい観察が示された意義は大きい。
【書き手】
本村 凌二
東京大学名誉教授。博士(文学)。1947年、熊本県生まれ。1973年一橋大学社会学部卒業、1980年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。
【初出メディア】
毎日新聞 2026年8月15日
【書誌情報】
ローマ・ギリシア世界・東方著者:ファーガス・ミラー
翻訳:藤井 崇,増永 理考(監訳)
出版社:関西学院大学出版会
装丁:単行本(ソフトカバー)(496ページ)
発売日:2026-03-31
ISBN-10:486283406X
ISBN-13:978-4862834065