秋の神戸。神戸の美食巡りのモデルコースに必ず含まれているのが灘五郷、全国で知られている酒どころである。

筆者は、静かな性格の日本酒の深い「味」について知るのは、難しいと思っていた。ところが酒ソムリエにエスコートされ、踏み込んだ日本酒の世界は明解。日本酒が判る楽しさは半端ではない。

灘五郷の一つ、「神戸酒心館」(兵庫県神戸市灘区御影塚町1-8-17)は、創業1751年の灘の酒蔵に、お酒と共に文化を楽しむことができる場所として、1997年12月にオープン。料亭「さかばやし」の食、「豊明蔵」で催される音楽や落語、そして「東明蔵」でのテイスティングを通し、日本酒が判る楽しさを経験できる場所となっている。一日ゆっくりとできる場所として、紹介させていただきたい。


まずは蔵直売店「東明蔵」へ。酒ソムリエの湊本雅和氏をはじめ、酒匠、きき酒師の丁寧で面白いお酒の話に耳を傾けることにした。食前酒から前菜、食中、そして食後に合うものを、解説と共にいろいろなお酒をテイスティングさせていただけるのが嬉しい。

「杏の香りがしますよ」。そう言われて試飲したのは『福寿 純米大吟醸』。なんて繊細な香り! ふくよかでフルーティーな風味に驚嘆。
「次はホワイトチョコレートの香りです」と説明を受けたものは、伝統手法で仕込まれた『福寿 きもと純米酒』。甘い香りとなめらかな味わいが絶妙。そして「チェリーっぽい香り」がする量り売りの『福寿 純米生酒』。体にすっと溶け込んでゆくのがわかる。

ここに来るまでは、飲みやすさ、飲み心地、後味でしか日本酒を判断できなかったのに、今、香りや味の違いを楽しんでいる自分がいる。これは単なるソムリエの説明による暗示ではない。
手造りによる個性的な麹を用いた福寿の日本酒だからこその、豊かなバラエティーがそこにあるのだ。蔵元でしか味わえない生酒で、日本酒本来の味わいを堪能できる。香り高く、旨みとコクがあるお酒は、何よりものお土産だ。

東明蔵をでて、美しく敷かれている御影石の上を歩いて着いた先は、蔵の料亭「さかばやし」。東明蔵で、お料理をイメージしながらテイスティングした知識を早速ここで生かすことになる。落ち着いた店内。
提供される「旬の酒の肴」に期待が高まる。

洗練された日本酒と共に食事を賑わすのは、蔵元が本物を追求した末に行き着いたという、とうふとそば。原料に贅を尽くした逸品。何も付けずにいただかなければ惜しい。次はとうふの甘さと旨みを一層際立たせる藻塩と共に。これがお酒に合う。
さかばやしの職人が打つそばは細めでこしがあり、そば好きを唸らせる。これもまた酒に合う。そして鍋。酒粕ベースでトマトが際立っている洋風仕立て。早速お鍋に合う日本酒について酒ソムリエに尋ねる。「純米酒であればほとんどのお鍋はカバーできる」とのこと。
そして鍋といただく純米酒に舌鼓を打つ。

「なんて幸せだろう」。新たに日本酒の境地を知れた喜び。神戸酒心館は、筆者に酒蔵を見学するだけではない感動を与えてくれた。259年続く福寿の日本酒は、古くからのファンだけではなく、欧州育ちのワイン党である筆者でさえ虜にしてしまう。ならばお酒を愛する海外からの訪問客も、心ゆくまで日本酒の旨さに酔いしれることだろう。英語で対応するスタッフの姿勢が、海外からの客に喜ばれている。
期間限定で開催される酒造りの見学は、前日までに事前予約が必要である。
(W. Season/studio woofoo)