「昔の人は何を食べていたのだろう?」

ふと、そう思うことはないだろうか? 美味しいもので溢れている現代において、敢えて昭和初期のレシピを再現している人がいる。一体、どんなきっかけで、どんな料理を再現して、味はどうなのか……? 早速、お話を伺うことにした。


お会いしたのはブログ「温故知新で食べてみた」の作者の山本直味さん。山本さんは、昭和初期の新聞や雑誌に掲載されているレシピを、そのまま再現して食べている。2006年に始めて以来、実際に作った料理は少しずつ増えていき、既に200種類を超えているのだ。

――昭和初期のレシピを再現しようと思ったきっかけは何ですか?
「元々、漫画家志望で、昭和初期の人々の暮らしに興味があったので、図書館で漫画を描くために必要な資料を探していたんです。すると、昭和7年に発行された『洋食の作り方三百選』という本に出会いまして、ペラペラめくってみたら、見たことがないような料理ばかりで『なんだこれは!』という衝撃受けまして。例えば、水で魚と野菜を煮て、塩、胡椒、辛子だけで味つけをしたスープに、そのまま食パンを浸したものとか、カステラを入れた容器に寒天の素を流し入れてバナナを乗せたものとか……」(写真参照)

――味の想像がつきませんね!
「実際に作ったらどんな味になるんだろう……と思って、作ったものをブログで公開することにしました。
すると、漫画は一旦横に置いといてハマってしまいまして(笑)。ただ、たくさんの料理が掲載されているのに、知られていないのはもったいないと思うんです。だから続けています。もちろん、漫画家にはなりたいですけどね」

――初めて再現したレシピは何ですか?
「うどんのトマト煮です。文字通り、うどんをトマトで煮込んだものですけど、これが意外に美味しいんです」(写真参照)

――美味しそうですけど、うどんとトマトって、確かに変わってますね(笑)。一番美味しかった料理は何ですか?
「干魚(ひもの)のポテト詰めですね。
アジの干物にマッシュポテトを詰めて、バターで焼いたものなんです。初めて見た時は『変わった料理だな』と思って躊躇したんですけど、実際にアジとマッシュポテトを混ぜて食べてみたら、ツナみたいな味で、すごく美味しかったです! バターで焼くのを忘れたんですけど。これは本当におすすめなので、見た目にダマされずに食べてみてください」(写真参照)

――そこまで言われると、作りたくなってきました(笑)。逆に、どうしても口に合わなかったものは……
「先ほども話に出てきた、カステラを入れた容器に寒天の素を流し入れてバナナを乗せたものとか、オートミールで作ったプリンとかです。他にもたくさんあります……」

――では単刀直入にお聞きしますが、200品以上を作ってみて、美味しい料理とそうではない料理との比率はどのくらいですか?

「3:7ぐらいですね。美味しい方が3です(苦笑)でも7のうち6は、ひと手間加えれば十分美味しくいただけます」

――やっぱり、味覚も時代によって変わってくるんですかね~。
現代と昭和初期の料理の味の違いはありますか?
「昔の料理は味が濃いです。日本は洋食が食べられるようになるまでは、日本食がメインでした。それは食材がもっている味を引き出すように作るものでしたが、洋食はその逆で、味付けをハッキリさせることで、日本食との違いを出したのだと思われます。具体的にいうと、甘い印象とバターの味が強い印象がありますね。調味料に関して言うと、現代で使われている調味料の大半は当時には既にありましたが、その頃はラードやヘット(牛脂)をよく使っていたようです」

――私は田舎育ちなんですけど、調味料は当時の田舎でも手に入りました?
「実は、当時から雑誌社に代理部という通販専門の部署があって、調理器具や調味料などを売っていました。ホットケーキやハヤシライスの素などもありましたよ。
中華料理に使うような中国の調味料もあって、色々と手に入ったみたいです。氷を入れて使う、電気を使わない冷蔵庫も通販で売っていたぐらいですから」

――ということは、今ではポピュラーなシチューやハンバーグも当時からありました?
「ありましたよ。もちろん、ビーフステーキもありました。私が思うに、日本人は、食べ物に対して本当に研究熱心だと思いますね。当時はテレビがなく、情報も限られている時代なのに、西洋に追いつこうとしてアメリカに行って勉強をされた方々もいらっしゃって、料理に携わっていた皆さんが相当な努力をしていたようです。雑誌や雑誌の付録に、洋食のレシピがたくさん掲載されていましたし。
外国の料理の文化を否定することなく、美味しいものはどんどん取り入れようとするところが、まさに勉強好きな日本人なんだな~と思います。ただし、この頃の人々が実際に洋食を頻繁に作っていたかどうかとなると話は別で、作らずに眺めていただけの人も多く、見ていて楽しいカタログ的な意味合いもあったようです」

――そういう山本さんのブログも、カタログ的に見ても面白いですよ。ブログの今後の展開について教えてください。
「このまま私が作っていくのも良いけど、せっかくなら、料理の上手な先生に作っていただいて、このレシピをベースにした新しい料理が生まれるといいな~と思ってるんです。もうひと工夫すれば、美味しくなりそうな料理はたくさんありまして…。でも、まだ誰も『やりたい』って言ってくれません(笑)」

まさに斬新な料理のオンパレード。
皆さんも、料理文化の歴史と調理法の発見に触れてみませんか?
(やきそばかおる)

山本直味さんのブログ: 「温故知新で食べてみた」
11月22日(木)には、缶詰博士の黒川勇人さんと女優・利き酒師の福山亜弥さんのイベントに出演。詳しくは山本さんのブログで。