カピバラに魅了されて、全国の動物園でカピバラの写真を撮っている人がいる。名前は渡辺克仁さん。
カピバラの写真集「カピバラでぽっかぽか~癒しのカピバラフォトガイド~(ゴマブックス刊)」やポストカードブックを、既に7冊発売している「カピバラ写真家」だ。しかも、カピバラが好きすぎて、24時間もかけて野生のカピバラを撮りに行くほどの力の入れようである。一体、渡辺さんをそこまでハマらせるカピバラの魅力とは何なのか?お話を伺った。

と、その前にカピバラに関する基本情報を。
●ネズミの仲間で、世界一大きい。(全長はおよそ1.1~1.3m)
●陸上と水中で半分ずつ過ごしている。

●鼻の上に、卵の形をした黒いでっぱりがあるのがオス。このでっぱりを「モリージョ」と呼び、ここから出る分泌物を木などにこすりつけることで、自分の縄張りを示したり、メスを引きつけたりする。
●「カピバラ」とは、南アメリカのインディオであるツピー族の言葉で「草原の支配者」という意味。※諸説あり(「カピバラ(渡辺克仁著・東京書籍)」より

ざっと頭に入れたところで、いよいよ渡辺さんの登場。渡辺さんは2006年の初冬から全国の動物園でカピバラを撮影してきたが、野生のカピバラにも会いに行きたいとの思いで、昨年の秋、ついに野生のカピバラが暮らす、南アメリカ大陸中央部のパンタナールに赴いた。成田空港から24時間。
6日間にわたって野生のカピバラを撮影する贅沢な旅行だ。

――野生のカピバラはどうでしたか?
「動物園で見かけるカピバラと比べて、色が赤黒いことにビックリしました。でも、なぜ黒っぽい色なのかは分からないんです。動物園にいるカピバラとの生息地の違いとか、気温が42℃にもなるので日に焼けたのではないかとか、原因は色々と思われますが…。あと、腰の位置が高いですね。動物園にいるカピバラは水平ですが、僕が見た野生のカピバラは腰高でした。
逃げたり走ったりすることで、筋肉が発達してお尻が上がったんじゃないかと思います。見た限りでは、無駄な脂肪もありません。もう一つ、動物園のカピバラと違うところは、野生のカピバラは現地の人やジャガーなどの天敵に捕らえられてしまうことがあるので、いつもピリピリと警戒した雰囲気が漂っています。動物園にいるカピバラのように、あまり寝そべったりはしませんね」
※カピバラに関しては、まだ解明されていないことが多いため、あくまでも渡辺さんの推測を含んでいます。

さすが「経験者は語る」である。ところで、渡辺さんはなぜここまでカピバラにハマったのだろうか?せっかくなので、根掘り葉掘り聞いてみた。


――当然、昔からカピバラは大好きだったんですよね?
「いや、実は全然興味がなかったんです(笑)」

――ええ~!?それなのに、なぜ!?
「カピバラにハマったのは、全くの偶然からでした。旅行で富良野に行ったんですけど、帰る時に新千歳空港からの飛行機が満席で、仕方なく旭川空港発の便にしたんです。ちょうど時間が余っていたし、空港から近かったのでテレビで話題になっていた旭山動物園に行きました。そこで、ライオンやアザラシなどの生き生きとした動物を見た後、帰り際にヤル気のなさそうな動物の姿を見たんです。実はその動物こそがカピバラだったんです。当時は、カピバラという動物自体知らなくて、カピバラを撮った写真もピンボケしていたぐらい、興味がありませんでした(苦笑)」

――これまた意外!カピバラが聞いたらションボリしそうな話ですね…
「その旅行から帰ってきて数ヶ月経った頃、配りそこねた旭山動物園のお土産の巾着袋が家の棚にあるのを見つけまして。
実はその巾着が、カピバラのイラストが入ったものだったんです。そこで、旭山動物園で見かけたヤル気のない動物(=カピバラ)のことを思い出したのと同時に、急にカピバラのことが気になって、色々と検索したり、上野動物園等にカピバラを見に行ったのが、カピバラ愛に火が付いたきっかけですね」

なるほど。いつ、何がきっかけで興味に火がつくかわからないものである。その後、渡辺さんの頭の中はカピバラ一色に。ホームページ「カピバラ大好き」ブログ「カピバラ動物園」を立ち上げて、カピバラの魅力を伝えるようになったという。ちなみに、動物園に行く時は4台のカメラを持っていくそうで、バッグの重さは10kgにもなるとか。


――ではズバリお聞きしますが、カピバラの魅力はどういうところにあるんでしょう?
「のぼーっとした表情、優しげな瞳、ぽわぁ~んとした行動、ちょっとオマヌケな姿、親父っぽい雰囲気が魅力ですね。僕自身、仕事でイラッとした時は、カピバラの写真を眺めて癒されています。僕の撮ったカピバラの写真が、誰かの息抜きのきっかけになれば幸いですね」

実は、筆者も大の動物園好きで、全国90ヶ所の動物園を網羅しているほどなので、渡辺さんのカピバラ愛は痛いほどよく分かる(ちなみに筆者はハシビロコウとライオン好き)。というわけで、1時間半に渡ってずっと、カピバラのようにその場所を動かず、カピバラトークをし続けたのであった。実は、取材中もまわりにいた子どもたちに話を聞かれていたのだが、「あの2人の大人は、なんでずっとカピバラの話をしてるんだ」と思われていたに違いない。(やきそばかおる)

●カピバラファンにはたまらない、渡辺さんのサイト
カピバラ大好き
http://capybara.eek.jp/