女性の手に移動したかのような顔。
CGナシ! 筆一本で描きあげる特殊メイクアーティスト・JIROの世界
「Another Personality」(『Amazing JIRO -SPECIAL MAKEUP-』より)


何枚にも重ねられた紙が破れたかのような顔。

CGナシ! 筆一本で描きあげる特殊メイクアーティスト・JIROの世界
「Paperhuman I」(『Amazing JIRO -SPECIAL MAKEUP-』より)


加工や合成ではない。そこにあるのは、現実(リアル)の人体。
これらは、CGなどで作られたものではない。すべてが“筆一本”、特殊メイクアーティスト・JIROさんの手で、直接人の肌にペイントされたものだ。


「見た人にサプライズを与える」特殊メイクの数々


リアリティと奇想、トリックに満ちた88の作品たち。それらJIROさんのフェイス&ボディメイク作品を中心に収録した、初の作品集「Amazing JIRO -SPECIAL MAKEUP-」(リトルモア刊)が話題だ。
CGナシ! 筆一本で描きあげる特殊メイクアーティスト・JIROの世界
「Amazing JIRO -SPECIAL MAKEUP-」。この表紙にも驚きのトリックが!?

ページをめくるたび、「すごい」「どうなってるんだろう」と思わずにはいられない作品の連続。ポスターや、AKB48やBiSHなどのCDジャケット、「これもそうだったのか!」という見慣れた作品もある。

特殊メイクや造形の世界の枠を超え、広告やファッションの世界など様々な世界で活躍するJIROさん。作品集に収録されたインタビューでは、青山の美容室「HairMake UR」のオーナー、川島悦実氏に、ショー用の特殊メイクを依頼され、「おまかせするんで、好きにやってください」と言われたたことが、現在の方向性を決定づけた。本書中で、「それまで常識だと思っていたことが音を立てて崩れました」と語っている。

そんなJIROさんに、特殊メイクの道を選んだ原点と呼べる出会いはあったのか、あらためて聞いてみると、
「特殊メイクを選び、進んだ原点は、自分自身の表現の追及にあるのですが、その特殊メイクの可能性を広げてくれたアーティストが、3人います」
という。

「1人は川島さん。常識に縛られないことの魅力を教えてくれました。もう一人は、ハリウッドで活躍された特殊メイクアーティストの辻一弘さん。技術と表現の追及の指針になりました。そして、常識を超えていくことで人々を驚かせ、楽しませることができることにあこがれた、マジシャン・セロさんです」
セロのテレビ出演の際、彼を特殊メイクで老人に変身させた。
<人の潜在意識の裏をかいて、物事の意外な側面を見せることで不思議な気持ちにさせる。こういうことを僕もやりたい、と思うようになりました>(「Amazing JIRO -SPECIAL MAKEUP-」より)

これらの作品を手掛けるとき考えるのは、
「見た人に、サプライズを与えること」
だという。
「トリックだけではなく、技術力や表現の新しさなど、何かしらのサプライズを提供できるものについて考えています。『ペイントでここまで出来るんだ……』というよりは、『これがペイントなの!?』と思われたい。そのためには、技術と表現のバランスが大切で、その点を注意しています」

今回の作品集で特にお気に入りの作品について聞いてみたところ、男性の顔の中にチンパンジーの顔がペイントされ、バナナ状のマイクを持つ「SALU」をあげてくれた。
「ペイントの描写力という『技術』と、人と猿の融合という『表現』、そして猿の手の植毛という『特殊メイク』。さらにバナナとマイクの『具』、モデルの個性、すべてが良いバランスでミックスされた作品だからです」
CGナシ! 筆一本で描きあげる特殊メイクアーティスト・JIROの世界
こちらはトラモチーフの「Tiger」。「SALU」も本書で見てほしい(『Amazing JIRO -SPECIAL MAKEUP-』より)

無限に広がるJIROさんの特殊メイク・ペイント表現の可能性。
それはどこまで広がっていくのだろうか。
「まだまだアイデアはありますし、自分自身もこれからの広がりに期待しています」
と言う。
「デジタル化が進み、CGでいろんなイメージを作り上げる時代だからこそ、アナログ的なペイント技術で表現することの驚きも増していくような気がします。それは時代の流れに対する逆行ではなく、共存の道だと考えていて、これからも、その道の先にある可能性を、先頭をきって進んでいきたいと思います」

最後に、この作品集を手に取る読者に、作品集のどんなところを見てほしいか聞いた。
「ペイントメイクの可能性を感じていただきたい。ちゃんと見ないと、どこまでがペイントなのかを見過ごしてしまうので、よく見ていただいて、『ここもペイント!?』『どうなってんの??』と、トリックの謎を解明していただきたいですね」

一点ずつ、じっくりすみずみまで眺めて楽しみたい。
(太田サトル)
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